りんごのおまじない
りんごの皮をむきましょう。
私、りんごの皮むきはちょっと自信があるのよね。
くるり、くるり。
…ふふ、私、ずいぶんりんごの皮むきが上手になったものだわ。
初めてりんごの皮むきに挑戦したのはいつだったかしら。
ずいぶん厚い皮をむいて、食べる部分がないと怒られたのよ。
りんごには神さまが宿っているのだと聞いて、一生懸命、むいたのよ。
皮をつなげて最後までむくことができたら、りんごの神さまからごほうびがもらえるって信じていたもの。
何度も何度も挑戦して、何度も何度も失敗押して、何度も何度も成功したわ。
…あんなにりんごの皮むきに夢中になっていたのに、いつの間にかりんごの皮むきをする時にお願い事をしなくなっていたわ。
どうしてかしら。
子供のころあんなにいっぱいお願いをしていたのに。
いつから私はお願い事をしなくなってしまったのかしら。
願う夢がなくなったのはいつの頃からかしら。
夢を持たなくなったのはいつの頃からかしら。
夢が叶いすぎたから願わなくなったのかしら。
大好きな人ができますように
勉強が好きになりますように
綺麗な髪が伸びますように
一人暮らしができますように
好きなものを食べることができますように
お小遣いが使えるようになりますように
笑うことができますように
眠ることができますように
起き上がることができますように
泣かないで前が向けますように
願う夢がなくなったのはいつの頃からかしら。
夢を持たなくなったのはいつの頃からかしら。
夢が叶わないから願わなくなったのかしら。
明日休みになりますように
大金が手に入りますように
豪邸に住めますように
いやな人がいなくなりますように
だれにも否定されませんように
仕事で失敗しませんように
目が良くなりますように
可愛い声が出せるようになりますように
最優秀賞が取れますように
あの人にもう一度会えますように
叶いそうな夢も、叶うはずのない夢も、お願いしていた時代があったわ。
今は、叶いそうな夢でさえ、願うことが無くなってしまったわ。
私は願うことを、忘れてしまったのかしら。
私は願いたい気持ちを、なくしてしまったのかしら。
私の手には、りんごがあるわ。
今まだ、皮がつながっているりんごがあるわ。
くるり、くるり。
私、りんごの皮むきにはずいぶん自信があるのよ。
私、きっとこのりんごの皮を、最後までつなげたままでむくことができるはずだわ。
……私、久しぶりに、りんごの皮のお願いをしてみようかしら。
この、りんごの皮を、切ることなくすべてむくことができたなら。
願い事が見つかりますように。
願い事をすることができますように。
願い事が叶う幸せに浸ることができますように。
…ふふ、私、ずいぶん欲張りになったみたい。
私、上手に皮をむくことができたわ。
私、きっと願い事が叶うわ。
きっと私に、いいことがあるはずよ。
きっと、私、願い事が見つかるわ。
きっと、私、また、りんごの皮をむくわ。
きっと、私。
きっと、わたし。
りんごの神さま、ありがとう。
…ありがとう。
りんごのおまじないがのっていたのはたぶんこの雑誌です。
これ、買ったはいいけど二回ぐらいしか使ってません…面白い物好きの家族が買ってきたんだけどね。
↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/