弱い存在は、強い存在に負けている
小さな男の子が泣いている。
…どうやら、お姉ちゃんにおやつを取られたようだ。
「ひどいよ、ぼくのなのに!」
「だってあんたは弟じゃない!姉の言うことは聞きなさいよ!!」
男の子は、唇を噛みながら、わがままな姉を睨みつけることしかできなかった。
小学生の女の子が泣いている。
…どうやら、お母さんに怒られたようだ。
「なんで新しいゲーム買ってくれないの!」
「遊んでばかりで全然勉強しないじゃない!ダメダメ!!」
女の子は、奥歯をぎりぎりと噛み締めながら、わからずやの母親を見上げることしかできなかった。
疲れた顔をしたお母さんが涙を一粒こぼした。
…どうやら、旦那さんが話を聞いてくれないようだ。
「ねえ、少しは育児や家事に協力して欲しいよ!」
「俺は働いているんだ、無理に決まってるだろ!」
お母さんは、口を噤んで、思いやりのない旦那によく冷えたビールを用意することしかできなかった。
怒りを隠しきれないお父さんが不服を申し立てた。
…どうやら、上司が実績を蔑ろにしているようだ。
「僕は一生懸命やっています、どうして認めてくれないんですか!」
「みんながんばっているのに、お前だけ特別扱いできない!」
お父さんは、口元を派手に歪めて、横暴な上司の言い分を飲み込むことしかできなかった。
有能な会社員が事実を訴えた。
…どうやら、社長に詰問されているようだ。
「もう無理です、どうして決断されないんですか!」
「何を言っている、何とかするのがお前の仕事だろう!」
有能な会社員は、頭を抱えて、逃げ出す準備を始めることしかできなかった。
社長が腕を組みながら歩き回っている。
…どうやら、政界のトップに合わせる顔がないようだ。
「死力を尽くしましたが、もはや手の打ちようがないんです!」
「そんな言い訳が通用すると思っているのか、やれと言っている!」
社長は、うろたえたまま、胸を抑えて倒れこむことしかできなかった。
政界のトップが拘束され身動きが取れないでいる。
…どうやら、未知の生物に捕獲されたようだ。
「こんな事をしても、人類は希望を捨てずに……!!!」
「希望は持ったままでいい、ただ意味がないだけ」
政界のトップは、目を見開いたまま、頭からバリバリと捕食されることしかできなかった。
未知の生物が地球から旅立った。
…どうやら、行き場を探しているようだ。
「これから、どこに行こうか」
言葉を返すものは、いない。
未知の生物は、黙って宇宙を彷徨うことしか、できなかった。
強さを競う存在のいない生物は、命を持たない何かに観察されていると気付かずに、孤独に命を終えた。
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