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アボカドは我が家で究極の熟成を遂げる

 アボカドが好きである。
 あの緑色のごつごつした、海外産の、果物なんだか野菜なんだかわからない物体が大好きなのである。

 私がアボカドと初対面したのは、今からおよそ30…いや、40年ほど前のことだ。

 やけに知り合いの多かった祖母が、お金持ちの自称友達にもらってきたのである。

「ハムで挟んで食べるんだって!」

 当時、私の家には、一切料理をしない祖母とメシマズの母親しかいなかった。

 包丁でごつごつとしたアボカドの皮をむき、種にこびり付いている緑色の実を包丁で削り落とし、ハムと共に食卓に並んだ。

「ふうん、美味しいけど、わしは良いからお前が食え。」
「珍しい食べ物だから食べさせてやるよ!残すなよ!」

 安定の、美味しくないと思ったものは何でも食う私に食わせる流れ。

 祖母が「わしは良いから」という場合は、自分は繊細な味覚を有しているから口に合わない、おいしくないと感じたから食わないけどうまいものと言われてもらってきたからこれはうまいものである、味に鈍感なお前に食わせてやるからよく味わって本当の美味い食いもんの味を覚えるんだよ…という一方的な優しさを押し付けている。

 母親が「食べさせてやるよ」という場合は、本当ならあんたなんかが食べられるもんじゃないんだけど恵んでやるんだ、ありがたく最後まで食べて感謝しろ、私は親だから子供のために食べるチャンスを譲ってやるんだ、どうだいい親だろうという自信が満ちあふれている。

 当時は家にパソコンなどもちろんないし、珍しい食べ物百科のようなものも無ければ、食材に詳しい大人も近くにいなかった。

 ハムでくるんで、ごつごつとした歯ごたえ抜群の、どことなく青臭い塊を食べた。味らしい味がしない、噛みしめるたびに口の中で崩れて何となく汁っぽいものが出てくる、食べたことのない感じ……。明らかに初体験の、食べ物のようだけどイマイチ食べていいものだという実感が遠い物体。

 ふた欠片程食べたところで、どうにも顎が疲れてしまい、口の中の不愉快さが上限レベルにまで届いてしまった。

 だが、食べるのをやめて逃げ出すことは許されないし、食べずに捨てる選択はできない。
 どうしたものかと考えて、一人でキッチンに向かい、炒めてみることにした。

 不揃いのアボカドをさいの目にカットし、ハムを細長く切って、フライパンにサラダ油を薄く引いて、火を通してみると、ほくほくとしたポテトサラダっぽいものに変容させることができた。若干アボカドの形が崩れたが、生で食べるよりはおいしくなった。遠くに銀杏がいるような、ほのかな苦みがあった。

「なに、火なんか入れてるの?!生で食べるもんなのに!相変わらずあんたは味が分からないねえ、はずかしい!」

 金持ちの友人に何を吹き込まれたのかはわからないが、私の調理にケチをつける祖母がいた。

「ちょっと!洗い物増やすな!洗剤がもったいない!ついでに洗い桶とシンクも磨いとけ!薬缶の煤も落としといて!」

 フライパンを洗っているところを目ざとく見つけられ、母親の仕事を押し付けられた。

 ……アボカドに対していいイメージが持てず、長年過ごしていくことになったわけだけれども。

 それから随分時間がたって、ちょっとしたアボカドブームが起きた。

 私自身は、あまりいいイメージがなかったのだが…外食でたまたま、アボカドの和え物が出た。あれは確か、和食レストランの日替わり定食だったか。

 小鉢に、見慣れない薄緑色の物体と海苔のつくだ煮が一緒に入っていて、なんじゃこりゃと思って口に入れたら、まあうまい。
 とろけるようなコクがあるくせにやけにさっぱりとしたアボカドに、ねっとりと絡みつく海苔の佃煮の甘じょっぱさ……、これがとてつもなくマッチしていたのだ。

 アボカドなんて外国の食べ物だし、和ものに合いっこないって思ってたというか、マヨネーズつけて食べるとかサラダの上にのせるとかってのが常識って思い込んでいた節があったのだけれども。

 まさに目から鱗、かなりそうとうめちゃめちゃ感動し、アボカド様の偉大さを知ったわけなんですよ!!

 以降、私は時折アボカドを見つけては手を伸ばすようになりましてですね!!!

 買い始めたころはイマイチアボカドの良い買い方が分からなくて、黒いアボカドを買っては、中が腐っていたり筋だらけだったりで辟易したんだけれども。

 十年も買い続けている今……、私にはアボカドを美味しくいただくためのプロの技が染み込んでいるのだ!!!

 アボカドは、緑色のものを買うのが、一番、いい。

 緑色の固い奴を買って、おうちに優しくお持ち帰りし、アボカドベッドに横になっていただき、その身が熟すまでそっと見守り続けるのがコツだ。
 固くて歯ごたえ抜群の若いアボカドは、我が家においであそばして、その身をやわやわに蕩かせてゆく。

 極上の実を包む、鎧のような皮が黒くなったころが…アボカドの、一番おいしい時期。
 それを、逃すことなく、おいしく、いただいて、さしあげるぅウウウウ!!!

 サラダにトッピングしてよし、タルタルソースで食べてよし、ワサビマヨで食べてよし、ゆで卵とマヨであえてサラダにするもよし、温泉卵とノリのつくだ煮と一緒に混ぜると美味いご飯のお供になるんだよね、チーズフォンデュするもよしでしょ、海苔で巻いて食ってウマーでしょ、ニンニクバターで軽くソテーしてうっひょー、カニカマときゅうりと一緒に酢飯で巻いてうますぎるぅううう、照り焼きチキンクレープに入れてもうまくてうまくて、何ならそのままスプーンですくって食べても…うーまーいーぞー!!!

 ああ、アボカドよ、アボカドさんよ、どうしてお前はそんなにうまいのだ……♡

 うちで熟していくアボカドの美味さときたらね、ホントピカイチっていうか、他の追従を許さないっていうか!

 ……もしかしてアボカドベッドの心地が良すぎるのかしらん。
 アボカドの皆さんには口がついていないので…、真相を明らかにすることができないのが残念でなりませんけどね!

 まあ、いずれ科学が進歩したら、アボカドさんたちの気持ちが聞けるのやもしれませんなあ、アッはっは!!

 そんな事を考えながらですね。

 私はすっからかんになったアボカドベッドを埋めるべく、大型スーパーへと買い物に出かけたという、お話です。


多分わりとかなりガチで近隣住民の中で一番アボカドを食べているという自負があります、ハイ(*'ω'*)


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