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月に手をのばす【ショートショート】


ああ、今日はとても月がきれいですね。

こういう日は、あのころのことを思い出します。

私の昔話を聞いていきますか?


月は夜空の見張り番。

闇夜を照らす、唯一の光。

日々その形を変え、闇夜に輝く。

ひとは、その月の美しさにあこがれ、

ひとは、その明るさを欲し、

ひとは、その存在を崇め、

ひとは、それを手にしたいと願う。


けれど、月は、手に入れることができません。

夜空に輝けども、手にすることはできないもの。

手をのばしても、触れることのできないもの。

ひとはみな、手をのばしては、届かないものだとため息をつき、

ひとはみな、ただ見るだけで、満足をしていたのです。


ある日、一人の青年が、絵を描きました。

夜空に輝く、月を絵にしたのです。

青年は、自らの手で、月を手に入れました。

夜空に輝く月を、青年は自らの手で、手に入れたのです。


ある日、一人の子供が、粘土をこねました。

夜空で輝く、月を形にしたのです。

子供は、自らの手で、月を手に入れました。

夜空に輝く月を、子供は自らの手で、手に入れたのです。


ある日、一人の少女が、歌を歌いました。

夜空に輝く、月を歌にしたのです。

少女は、自らの声で、月を手に入れました。

夜空に輝く月を、少女は自らの声で、手に入れたのです。


ある日、一人の紳士が、言葉をしたためました。

夜空に輝く、月を物語にしたのです。

紳士は、自らの言葉で、月を手に入れました。

夜空に輝く月を、紳士は自らの物語で、手に入れたのです。


月を見ながら、何を思うでしょうか。

美しいなあと、感嘆するでしょうか。

美しいなあと、漠然と思うでしょうか。

美しいなあと、手をのばすでしょうか。


のばしても届かないあなたの手。

ほしいと願う、あなたの心。

手に入らない現実。


ただ、見ているひと。

ただ、ほしいと願うひと。

ただ、手をのばすひと。

月を、手に入れるひと。


青年が自らの手で月を手にしたとき、ただ見ていたひとはいいました。

それは月ではない。

子供が自らの手で月を手にしたとき、ただ見ていたひとはいいました。

それは月ではない。

少女が自らの声で月を歌ったとき、ただ見ていたひとはいいました。

それは月ではない。

紳士が自らの言葉で月の物語を書いたとき、ただ見ていたひとはいいました。

それは、月ではない。


ただ見ていたひとは、何も残さず土にかえりました。


月の絵は、今もこの世界に残っています。

見るものを魅了する、唯一の光が、確かにそこにあるからです。

月の粘土は、今もこの世界に残っています。

作るものを夢中にさせる、表現の自由が、確かにそこにあるからです。

月の歌は、今もこの世界に残っています。

歌うものを幸せにする、悠久の調べが、確かにそこにあるからです。

月の物語は、今もこの世界に残っています。

読むものを奮い立たせる、力のある言葉が、確かにそこにあるからです。


今宵はとても月が美しい日。

闇夜に輝く月を見て、あなたは何を思うでしょう?


ただ、月を美しいと思うのか。

ただ、月をほしいと願うのか。

ただ、手をのばすのか。


月は手に入ることはないでしょう。

それでもほしいと願うのならば。

私はあなたに、伝えましょう。


あなたにも、月を手に入れる力があるのです。

あなたは、気付く事ができますか?

あなたの月は、歴史に残ることができますか?

あなたの月を、歴史に残したいとは思いませんか?


あなたは、手の届かない月に向かって手をのばして、何をしますか?


今夜の月は格別に美しいから、じっと見つめて手をのばしたら、何か得るものがあるかもしれません。


今宵の月は、すべてのひとに、光を届け、すべてのひとを照らしています。

今宵の月を、愛でましょう。

今宵の月を、共に愛でましょう。


満月の日は、必ず夜空を見上げる程度に月が好きです。

これ、欲しすぎて涙が出るんですけど、猫がいるので買えない…。

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