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私の物語

 ……書きたい物語が、あった。

 幸せな結末が書きたくて、文字をつないだ。

 〈……めでたし、めでたし!〉

 書き終わった物語に、違和感を覚えた。

 ―――なにが、めでたい?
 ―――本当に、めでたい?
 ―――もっと違う結末もあったのでは?
 ―――納得しない人物がいるよね?

 ―――これで満足して、良いの?

 物語を終わらせる勇気が出ずに、未完という道を選んだ。


 ……書きたい物語が、あった。

 感動するエピソードを見せつけたくて、文字をつないだ。

 〈……ありがとう〉

 書き終わった物語に、不信感を覚えた。

 ―――全然ありがたがってなんかいないくせに
 ―――こんな話あるわけないって思ってるくせに
 ―――きれいごとを並べてムカついているくせに
 ―――誰も助けてくれないって知ってるくせに

 ―――自分だって助けるつもりなんかないくせに

 物語を発表する気になれずに、未公開という道を選んだ。


 ……書きたい物語が、あった。

 落ち込んだ人を笑わせたくて、文字をつないだ。

 〈……も~いいよ!!!〉

 書き終わった物語に、嫌悪感を覚えた。

 ―――わざとらしいギャグがつまらない
 ―――笑いと嘲笑の区別もつかないなんて
 ―――バカにして喜ぶなんて軽蔑する
 ―――頭の悪いふりをするのはばかげてる

 ―――笑ってごまかすことに苛立ちが隠せない

 物語にしてしまった後悔から、消去という道を選んだ。


 ……書きたい物語が、あった。

 自分が何を書きたいのか知りたくて、文字をつないだ。

 〈……と、思うのです〉

 書き終わった物語に、達成感を感じた。

 ―――言いたいことはすべて書いた
 ―――夢も、希望も、予定も、野望も、恥も、苦悩も
 ―――自分の言葉で、自分の気持ちを

 ―――これが、私の書きたかった物語
 ―――これが、私の、全て

 物語になった、私の全て。

 何度も読み返し、何度も満足し、何度も涙し、何度も笑い、何度も感動した。

 ……書きたい物語が、書けて良かった。
 ……あとは、この物語を。

 たくさんの、人に。
 見て、いただく、為に……。

 ‥‥‥‥‥‥。


『……あのね、私…お話、書いてみたんだ!』

 古い、記憶の奥底に眠っていた、……私の、物語が。

『そうなんだ!ね、あたし、読んでみたい!読ませて!』

 初めて書き上げた、私の、大切な、……物語が。

 ―――ねえ、起承転結って知ってる?
 ―――えっと、一字下げってしってる?
 ―――あのね、誤字のチェックした方がいいと思う
 ―――まあ…初心者って事で許されるんじゃない?

 ―――この単語の意味が違ってるよ、消しとくね
 ―――ここ文章が変だから書き直してあげたよ

 ―――もっと他の人の作品読んだ方がいいよ
 ―――うん、今度全部読ませてもらうね

 ―――ごめんね、今忙しくって!!

 ―――お前気持ち悪い話書いたんだって?!
 ―――敵が担任モデルなんだろ?
 ―――エロい話書いたんだろ、見せてよ!!
 ―――あの子ね、変な小説書いたんだって!

 ―――清水さん、ちょっとお話いいですか?


 たった一人にさえ、最後まで読んでもらえなかった、物語が。
 読んでもらえずに、勝手に想像されて、めちゃめちゃになってしまった、物語が。

 取り上げられて、帰ってこなかった、私の、初めての……物語の事が。


 ……書きたい物語は、書けたけれども。

 私の中で、思い出されてしまった、物語が。


 ……ねえ、本当に、良いの?

 ……ねえ、本当に、いいの?

 ……ねえ、ほんとうに、いいの?


 発表したら、もしかして。

 公開したら、きっと。

 投稿してしまえば、おそらく。

 誰かが読んだら、たぶん。


 ……誰も読まなければ、絶対に、……大丈夫。


 私の物語は、今。


 世界を知らずに、私の、手元で。

 何度も、何度も……、私に、読み返されて、いる。

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