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おにーさんのお店はわりとかなり適当にオープンするらしい!(前編)

なんと前後編です((((;゜Д゜)))


 八人もいる!ちな一匹は犬(前編)


 朝、九時。

 中規模都市の幹線道路から一本入った場所にある、小ぢんまりとした小汚ないコンテナハウス。

 その入り口ドアの、カーテンが開いた。引き戸の中から出てきたのは…少し背の高い、いくぶん髪のボリュームにかける中年男性。袖の短いジャケットを着こんだゴツい左手が、縦長の看板をつまんでいる。

 が、ガがっ……!

 所々に雑草が生えた砂利の上に、直接置かれた看板。薄汚れているものの、真っ白で…何も書かれていない。

「…よし、今日は…そうだな、これで行こう。」

 男性にしては少し高い声の持ち主が、看板の前にしゃがみこんで、ポケットからマーカーを取り出して汚い文字を書いた。

 ―――よく当たる霊能者―――

 本日のコンテナハウスは、霊能者の店としてオープンするらしい!


 ひび割れたアスファルトの向こうから…、陰気な青年がやってきた。どうやら、本日の客第一号の、模様。


「……お、おにーさんが、よく当たる霊能者だと聞いて伺いました、よろしくお願いします。」

 僕の前に現れたのは、やや神経質そうな…青年。ちらりと顔をのぞき込んだのち、その視線を…後方へ……。

 うーん、ずいぶん…憑いてるなあ、どうしたもんだ。

「ええと、何が聞きたいですか?」

 ―――女とヤレル方法を!
 ―――楽して暮らすには?
 ―――当たる宝くじ教えて!
 ―――ムカつく上司を刑務所行きにする案を授けて!
 ―――自由に使える子分ってどこにいるの?
 ―――魔法使えるようになりたいんだけど!

 わいの、わいの!!!

 ……ええい!
 お前らは黙っとけ!!!

 本人は黙りこくっているのに、後ろや頭上や肩の上で騒ぐ奴らがうるさいのなんの!!

「・・・です。」
「え?ああ、ごめんなさい、もう一度お願いします。」

 くそう、うるさ過ぎて本人の声が届かないとか勘弁してくれよ……。

「……何をしたらいいのかわからないんです。どうにかしてください、お願いします。」
「といいますと?」

「なんか…悪霊がめちゃめちゃついてるらしいんですけど、取れないんです。今まで散々、霊山にこもったりお祓いしてもらったり、呪文唱えてもらったりしたんですけどどうにもならないみたいで。もう…これ以上何をしたらいいのやら。」

 悪霊……?

「僕がやる気になっても、全部悪霊が邪魔をするんです。肝心な時に勇気が出なかったり、才能が発揮できなかったり、運悪く出来の良い人が出てきたり…何をやってもうまくいかない。本当に参っているんです、お願いします、助けてください!」

 ―――堂々としてりゃいいのに怖気づくんだよこいつ!
 ―――余計なことばっか考えて大切なこと忘れちゃうのよねえ
 ―――出し惜しみする癖があるんだよねー、いつも!
 ―――手の内を隠したいみたいでさあ、もったいないんだよ
 ―――すぐに人と比べるんだ、面倒な奴だよ!自分に自信持てっていってんのに
 ―――まず自分が一番褒められないと気が済まねえのな!
 ―――出せる力出し切って出た結果に満足できない欲張りなんだよー!
 ―――助けても無駄だよ、どうせすぐに文句しか言わなくなる

 わりと、助けてやろうって思ってるのがいる。
 かなり、しょーがねーなあって思ってるのがいる。
 けっこう、辛口のやつがいる。
 ずいぶん、諦めてる奴がいる。

 悪霊らしい悪霊なんか、ついてないんだけどなあ……。

 なんというか、この人にこういう霊あり、みたいな?
 もともとの性格なんだろうなあ…。
 色んな意味で、成長が苦手な人みたいだ…。
 自分を変えたくないタイプの人かあ…。
 自分のために周りが変わるべきって考えるタイプかあ…。

 これは…助言したところで、変わんないなあ。

「ええと、まず…初めにお伝えしておきたいことは、ここは支援施設ではないという事です。アドバイスをすることはできますけど、助けてあげるという事はできません。」
「アドバイス?そんなものはいりませんよ。憑いている霊を取ってくださいと言っているんです。それとも…取れないんですか?え、まさかと思うけど、視えないんですか?」

 ……イライラしてるなあ。なんで人を試すようなことを言うんだ。

「……あなたには、憑いてるものが見えてるんですか?」
「見えません。あなたは視えるんですよね?僕に憑いてるものを当ててくださいよ。僕は自分に何がついているのか、知っているんで!」

「……自分に憑いているものが見えないのに、知っているんですか?」
「前に見てもらった…霊能者たちから聞いているんです。全員同じことを言っていたので、あなたが本当に霊能力者なら、同じことを答えることができるはずです。」

 自分に憑いているモノも見えないくせに、この人は何を言っているんだ。霊能者の意見を信用している?その割には僕の意見を信用していない…ああ、自分に都合の良い事を言う霊能者の助言だけ聞きたいタイプなのかな。

「あなたに今憑いているのは…八つ、おじさんが二人に兄ちゃんが二人、おばさんが二人に子供が一人、あと犬。」
「…ホントに見えてるんですか?僕が前に聞いたのは、守護霊の厳格なおじいさんと死んだおばあちゃん、陰気なおっさんとデブ、青龍と天使、どす黒い塊みたいな悪霊って聞いたんですけど!」

 ―――タイショーは呆れかえって出てっちゃったんだよー!
 ―――婦女子を裏切り凌辱するとは何事ってキレちゃってさあ!
 ―――エロい同人誌がまずかったんだよ、たいして儲かんなかったし!
 ―――婆さんも見捨ててっちゃったよ、今頃生まれ変わってんじゃない?
 ―――姿なんてどうにでもなるのにウケるwww
 ―――たまにはかっこいいコスプレしたいからさあ、ねえ?
 ―――犬って言わないでよ、モフ神様って言って!!
 ―――黒いのは自分の怨念じゃんね、何言ってんのこの人www

 色々教えてくれる、便利…丁寧…なんていえばいいんだ、優しい皆さんだと思うんだけども。

「悪霊ってわけじゃないですよ。どちらかというと、助けてくれる感じの……。」
「でも!今まで見てくれた霊能者は、みんな悪霊のせいだって言ってました!取らないと大変なことになるって!」

 怨念が悪霊に見えちゃったんだろうなあ……。

 そりゃここまで悶々とした怨念は、取らなきゃマズい。でも、これは本人が生み出したものだから、自信で解決してもらわない事にはどうにもならない。

「悪霊ではなくて、あなたの中で燻っている悪い感情が問題なんですよ。気晴らしをして、人を恨む気持ちや妬む心を手放し、愛を与えて優しさを配って行かれてはいかがですか。あなたの気持ちが変われば、運気も上昇していくと思います。」

「こんな呪われた状態で気晴らしなんかできませんよ! 霊なんて気持ちが悪い!早く取ってください!」

 ―――除霊されるくらいなら出ていくさ
 ―――あんたなら上にあげてくれるよね?
 ―――あたしは別の人に憑きに行こうかな?
 ―――ねーねー、ここにいてもいい?
 ―――あー、憑いて損した、何こいつ!
 ―――落ちぶれるとこ見たかったけど、しゃーないか
 ―――地獄行き見たかったのに!
 ―――学べんなら仕方がない

 人懐こそうなのが何人かいるな…一匹はいぬだけど。みんなこの人に未練はなさそうだけど、うーん、全部根こそぎいっちゃうと、わりと無防備になっちゃうからなあ…上に送るのもめんどくさいし……。憑いてる皆さんが見捨ててすっからかんになるパターンが一番よさそうだ。そうしたら鬱々とした浮遊霊が引き寄せられてまた乗っかって、怨念を生み出すようなやる気に満ちた自己中な恨みつらみも落ち着いてくるだろ…。

「僕の意見は、悪霊ではない、取る必要はない、です。」

 下手に引っぺがしちゃうと、怨念が巻き散らかされて面倒なことになるってのもあるんだよなあ……。

「あんた何言ってんだ!!高い金払ってるんだぞ?早く除霊しろよ!!」

 ぶぶ、ぶわぁあああ!!!!

 おお……怨念が、大きく膨れ上がったぞ……。ハア…イッちょ前に威嚇かい、地味に部屋の中が暗くなってきたじゃないか…。このあとリリアン同好会の仲間が来るのに、なんてことしてくれるんだよ…クソ、めんどくさいけど仕事するか……。

「……じゃあ、除霊させていただきます。…どうなっても知りませんよ?」

 視線を青年から…後ろの方にずらして、と

 ……では、皆さん、こちらへどうぞ?

 ―――ひっこーし!ひっこーし!
 ―――俺はもう上行くわー!
 ―――ここもなかなか…
 ―――私は旅に出ようかね
 ―――ちょっと散歩いってくる!
 ―――あ、猫がいる―!
 ―――あれは何だろう…
 ―――そっちに行くな!!

 やいの、やいの!わいの、わいの!

 八つの霊を怨念から解放し、様子を伺う。

 ……うーん、何も憑いていない、つんつるてんの魂、ね……。

 怨念がもわもわしているので…道具を使って回収させていただいて、と。……よし、まっさらな状態になった。

「…少しスッキリしました。先ほどは取り乱してしまって…すみません。僕なんかのために力を…申し訳ないです。また何かあったらお願いします。」

 あれだけ重たい怨念をしょってたら、そりゃあきつかったと思うけどさ。
 怨念が抜けたらずいぶん…へりくだった感じの青年が出てきたな。

 …ああ、恨みがないと行動できないタイプなのか。格下が見つからないと安心して動けないんだな。常に上にいることを感じていないと不安で仕方がないのか、なるほどねえ。

 …事情は分かったけどさ、髪の毛の多さで勝手に優位に立つのはやめてもらえないかな。その視線ね、地味に傷つくんだよ。
 ……もう関わり合いたくないなあ、うん。

「ここは…もう来ない方がいいですよ。はがした悪霊がまたついてしまいますから。」
「そうなんですね!もう来ません!ありがとうございました!」

 人の頭のてっぺんを凝視しながら、すっきりとした青年は去って行ったわけだが。


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