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ヒロくんはコッペパンだった

 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 フフ、ずいぶん風が気持ちイイ。
 もう、季節が変わる頃なのかな。

 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 少し汗ばむ季節になったみたい。
 震えていた頃が、懐かしい。

 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 日差しが眩しい季節になった。
 あたたかい風が私を包んだ。


「おかあさん、外は・・・気持ちイイね。」

 息子がニッコリ笑っている。

「うん、外は・・・いいね。」

 私も、ニッコリ微笑んだ。


 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 眩しい光が、私と息子を照らす。
 半袖で来たから、日焼けしてしまいそう。

「おかあさん、見て・・・僕、焼けちゃったみたい。」

 息子がニッコリ笑って右腕をさしだした。

「フフ・・・日に焼けて、コッペパン色になってる!」

 私は、ニッコリ微笑んだ。


 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 強い日差しが、私と息子を照らす。
 じりじりと焦げてゆく、私と、息子。

「フフ・・・すごくおいしそうな腕だね!」

 半袖の、むちむちした、息子の腕。
 ほどよく日に焼けた、コッペパンみたいな腕。

 息子がニッコリ笑って、右腕をさしだした。

「たべていいよ?」

 私は、遠慮なく、息子の腕にかじりついた。

「ウーン・・・ただの、腕だった!」

 私がニッコリ笑ったら、息子はエモイワレヌ顔をしていた。


 ・・・今日も私は、息子と共に、散歩に出かける。

 眩しい光が、私と息子を照らす。
 半袖で来たから、日焼けしてしまいそう。

「今日もヒロ君の腕は、おいしそうにこげているね!」

 息子がニッコリ笑って右腕をさしだした。

「たべてみる?」

 私は、遠慮なく、息子の腕をかじった。

 ・・・口の中に広がる、香ばしい小麦の香り。
 ・・・鼻に抜ける、食べ物の香り。

「おいしいでしょう?」

 もぐ、もぐ・・・・・。

 美味しそうな息子の腕は、コッペパンだった。

 もぐもぐもぐ・・・。

 美味しい美味しい、美味しいが止まらない。

「おいしい?」
「うん、美味しい。」

「じゃあ、もう・・・大丈夫かな?」

 美味しい腕を持つ息子は、右手を私に食べられて、ニッコリ笑った。


「おかあさん、コッペパン、食べられるようになってよかったね。」

 コッペパンの息子は、ニッコリ笑っている。

「おかあさん、僕、おかあさんの事、大好きだよ。」

 息子が、ニッコリ、笑っている。

「おかあさんと毎日一緒にお散歩して、毎日一緒にお話して、すごく楽しかったよ。」

 息子が、笑っている。

「おかあさんが、美味しくコッペパンを食べられるようになって、良かった。」

 息子が、いる。

「大丈夫、もう・・・生きていけるからね。」


 息子が、消えてゆく。

「少しづつ、色んなことを・・・思い出していこうね。」


 大好きな息子が、消えてゆく。


「食べ物が、おいしいということ。」

「外が、眩しいということ。」

「笑うこと。」

「泣くこと。」

「許すこと。」


 今はもういない、大切な息子が、消えてゆく。


「僕、おかあさんのこと、大好きだったよ。」

 息子が、消えてゆく・・・。


「僕、心配で、たまらなかったよ。」

 大好きだった息子が、消えてゆく・・・。


「おかあさんの、壊れた心がなおって、よかった。」

 大好きだった息子がいない世界が、みえてくる・・・。


「おかあさん、ありがとう。」

「うん、ヒロくん、ありがとう。」


 私が、息子に、お礼を告げると。


 ―――重岡さん!

 ―――重岡さん、奥さんが!!

 ―――自分から…食事を!!

 ―――ああっ!コッペペンが!!

 私が逃げ出した、遠い世界から・・・声が届いた。

 

 おかあさん!



 重岡さん!!!

 わ、笑ってる!!

 泣いてる・・・泣いてる!!


 私が逃げ出した、現実から・・・声が届いた。


「た、珠恵!」


 私は、ぼんやりとしながら・・・声を、届けた。


「おいしいコッペパン、ありがとう・・・。」

 私が、ニッコリ、微笑むと。


 大好きだった、おとうさんが。

「うん、うん・・・!」


 私をみて、・・・泣いた。


個人的にめちゃめちゃ染みる話だったりします。
自分の書いた話はどこか他人事で見る方なんですが、この話はなぜかじんわりと涙が染み出してくるような…なんだろうね、この感じは。

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