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消えた物語


物語が、消えた。

昼過ぎから、書き上げて完成した物語が、消えた。

3000文字前後の、物語が、消えた。

綺麗さっぱり、物語が、消えた。

私は、少々おかしな物語の書き方を、しているのだ。
私は、少々おかしな方法で、物語を公開しているのだ。
私は、少々おかしな手順を踏んで、物語を保存しているのだ。

それが幸いし、物語が、消えてしまった。

私は、ワードで書いた物語を、メールで自分宛に送信し、スマホから投稿をしている。

メールで送ることで、作品の保存をかねているのだ。
ワードでは、物語を保存していないのだ。
投稿はスマホからと決めているのだ。

なぜだかこのやり方で、落ち着いているのだ。
なぜだかこのやり方が、しっくり来るのだ。

もう、いまさら変えることのできない、強迫観念のようなものが私に取り付いているのだ。
もう、いまさら変えることができない、学習能力の低さが私を雁字搦めにしているのだ。

午後三時、私はいつものように、書き上げた物語を、自分に送信した。

いつもであれば、送信されたメールを確認してからパソコンの電源を切るのだが。

今日は、たまたま、メールを確認する時に来客があった。
来客の対応をしているうちに、メールのことをすっかり失念し、私はパソコンの電源を、切った。

時間に追われていた事も、幸いしてしまったのだ。

やけに頼まれ事をされ、断ることもできず奔走していた事も、幸いしてしまったのだ。

夕方、少し自分の時間が持てたので、送っておいた物語を投稿しようと、メールを開いた。

・・・どこにも、メールは、届いていない。

おかしい、そんなはずは。
おかしい、メールの不具合か?
おかしい、確かに私はメールを送ったはず。

いや待てよ。

そういえば私はメール送信の確認をしていない。
そういえば私はメール到着の確認をしていない。

自分の詰めの甘さに、愕然とした。
自分の確認能力のなさに、失望した。

しかし、後悔したところで、消えてしまった物語は、もうどこにも存在していないのだ。

もう一度、物語を書かねば、なるまい。
もう一度、物語を書かねば、なるまいと。

・・・確かに書き上げたはずの、私の、物語。

一度書き上げたという充足感は、同じ物語を再び書かせてはくれなかった。
一度書き上げたという疲労感は、同じ物語を再び思い出させてはくれなかった。

小気味良いフレーズが思い出せない。
気持ちの良い言葉のキレが思い出せない。
しっくりまとまる物語のラストが思い出せない。
そもそも物語の流れが思い出せない。

・・・言い訳をするならば。

私は、私の物語の、読者なのだ。
私は、私の物語の、愛読者なのだ。
私は、私の物語の、大ファンなのだ。

書き上げた物語は、私が読みたい物語なのだ。
書き上げた物語は、私が読むことを楽しみにしているのだ。
書き上げた物語は、私が楽しみたいと思っているのだ。
書き上げた後は、読んで楽しむものだと思っているのだ。

書き上げたあとは、書いたことを忘れて、物語と対面しようと、思っているのかもしれない。

書き上げたあとは、書いたことを忘れて、物語と対面しようと、思っていたのか、私は。

だから、こんなにも、私は私の書いた物語を思い出すことが、できないのか。

なんだ、そうだったのか。

やけにしっくりと来てしまった私は、消えてしまった物語を追うことをやめた。

・・・消えてしまった物語を追うことをやめた私に、新しい物語が降りてきたので。

私は、この物語を、書くことができたという、お話。

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