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鳩時計【ちょっと怖いコメディ】

ひいじいちゃんちには、でっかい鳩時計があった。

年に三回ほど遊びに行くんだけど、地味に俺はこの時計が苦手だった。

昼の12時と3時、夕方6時にだけ鳩が顔を出すんだけど、それがこう、怖いんだわ。

ちょうどの時間、ボーンボーンって時の数だけ鳴るのもまあ怖いっちゃ怖いんだけど、鳩がまじってくると、さらに怖さが増すっていうか。

ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!

昼の12時はまさに狂喜乱舞の乱痴気騒ぎだ。田舎のぼろい家の中に怨念がましい音が鳴り響く。所々はがれかかっている土壁は、この鳩時計の怪音波のせいに違いない。

鳩の目が座ってんのもさあ、なんかこう、いけ好かないっていうのかね。

子供の頃の俺は、小さかったからさ。このにっくき鳩を下から見上げるしかできなかった。いつかこいつをどうにかしてやろうと目論んでいたわけさ。


そんなある日。

ようやく念願叶う時がやってきた!!

大学がさ、結構都会でね。一人暮らししてる間来れなかったんだけど、就職が地元で決まってさ。実に四年ぶり、いや、受験の時も来てなかったから五年?まあずいぶんぶりにじいちゃんちに顔を出せたんだ。

俺はでっかく育った!!185センチあるからな!!鳩の住処も手が届くんだよ!!今は閉じられている、鳩の飛び出す窓を見つめ、一人ほくそ笑む俺。フフフ、積年の恐怖を今日こそ晴らしてやる!!意気込む、俺。


「なんだ、聖司はこの鳩時計が好きなのか。」

すっかり小さくなったじいちゃんが俺に声をかけた。

「ああ、うん、そうだね、長年の思い入れっていうか。」

「フム、そうかね。」


そろそろ12時だ。

ボーン、ぽほー!来たアアアアアア!!!!

すかさず俺は手を伸ばし!!鳩をつかみ…


「邪魔すんな。」


ボーン、ぽほー!「ぎぃやぁあああああ…

ボーン、ぽほー!「ああわぁああああああ…

ボーン、ぽほー!「あああぐぅわああああ…

ボーン、ぽほー!「あひいいぃわああああ…

ボーン、ぽほー!「ああぅあああはぅわあ…

ボーン、ぽほー!「ああぎぃやあああああ…

ボーン、ぽほー!「あああまままああああ…

ボーン、ぽほー!「ああへえぇあああああ…

ボーン、ぽほー!「ああむぅああああああ…

ボーン、ぽほー!「ああうああああわああ…

ボーン、ぽほー!「ああぎいやァア!!」


鳩をつかみ損ね、しりもちをついた俺は、ひいじいちゃんちに二度と足を踏み入れることなく、数年が過ぎた。

ひいじいちゃんは大往生してこの世を去った。102歳、すごいな。普通に会話して次の朝に成仏してたらしい。ポヤポヤしてたけど、普通に会話もしてたんだってさ。俺は仕事の都合で葬儀に行けなかったわけだが、心の中で合掌をしてひいじいちゃんをお見送りさせてもらった。

それからしばらくしたある日、夜勤の仕事を終えて家に帰ると、何やら騒がしい。

……なんだ?

シンプルイズザベストを信念とする、もののない俺の部屋の前に、誰かが…いる。母ちゃんと…またいとこの俊ちゃん?

「あ、聖ちゃん!お帰り!!じいちゃんの遺言、持ってきたよ!!」

「はあ?」

俺の部屋をのぞくと…げええええええええええええ!!!!

「ちょ!!何これ!!なんで鳩時計がここにいるんだよっ!!!」

「え、だってじいちゃんがさ、俺が死んだら聖司のところにもってけって口すっぱくして言ってたから。」

「いらねえよっ!!持って帰れ!!」

「無理だよ!!だっておばさん持ってきていいって言ってたし!ねえ!」

「イイじゃないの、もらっとけば、場所あるし。」

なんだそれは!!!

くそっ!!モノがない部屋だったのが追い打ちをかけている!!この家に物がないスペースは…俺の部屋しかない!!!移動する場所がない!!

にこやかに会話しているかーちゃんとまたいとこが恨めしい!!

この、この鳩時計の恐ろしさを知らないくせにぃイイイイイ!!!

ダメだ!!どうにもならん!もうこれはネジ巻かないで時計として使わず、布かぶせて邪魔にはなるけどオブジェとして見て見ぬふりをするしかっ!!

「ネジ巻いといたから、あとは自動で動き続けるよ。振り子時計ってすごいねえ!じゃ!!」

「おつかれさま、またね!!」

…なんてことしやがる!!!!!

俺の何もない部屋に、恐ろしき鳩時計。時刻は、間もなく、午後三時。

鳴るのか?出るのか?いや!出ない可能性だってあるじゃないか!あれは俺の思い込みだった可能性だってあるじゃないか!これは、ただの鳩時計、ただの、時計、大丈夫、大丈夫。

そう信じ込む俺の目の前で、鳩時計の扉が開いた。


ボーン、ぽほー!

「邪魔するぜ?」

俺の悲鳴は、

「ぎぃやぁああああ…ボーン、ぽほー!

「ああああああああああ…ボーン、ぽほー!

「あああああああああああああああ!!!」

一部、かき消された。


長きにわたる、俺と鳩時計の物語は、この日、スタートし。


今も俺の横で。


ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!ボーン、ぽほー!


無遠慮に、怪音をまき散らして、いたりする…。



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