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わたしの演奏会

 ……誰もいない公園に、かすかな音が響く。

 …かしゅ、さしゅ

 足元には、落ち葉。

 木々が落とした、茶色い葉。
 季節を彩った色が、失われた葉。

 …もしゅ、もしゅ

 足元には、落ち葉。

 風が運んだ、黄色い葉。
 華やかさのない、くすんだ葉。

 大地を覆う、静かな……色。
 大地に広がる、寂しげな……色。

 カサッ…、シャッ…
 クシャッ…、ザサッ…
 シュッ…、クシュ…
 フシュ、パキッ…

 公園の歩道の上を陣取る枯れ葉を踏むたび、足もとが騒がしい。

 大きな、乾いた葉を踏む。
 ……サクッ!

 道端で吹き溜まる、細かな葉を踏む。
 ……もふ、もふ!

 乾いた葉に、湿った葉。
 小さな葉に、大きな葉。
 かたまる葉に、一枚しかない葉。

 枯れ葉を踏むと、音がする。

 ……足もとで楽しむ、私だけの音楽会。
 ……今の季節しか楽しめない、素朴な演奏会。

 地味で、繊細で、豪快で、儚くて…、ずいぶん心地いい。

 冷たい風と、乾燥した空気と、平べったい足の裏。
 穏やかな日差しと、微かな音色と、アスファルト。

 私は公園という場所で音楽を楽しむ、孤独な演奏者兼観客なのだ。

 パタパタ、ガササ…
 ザッザッ、クシュッ…

 ついつい、子どものように、枯れ葉に足を突っ込んでしまう。
 ついつい、大人なのに、舞う葉を追って踏んでしまう。

 ……ガシャシュ!!

 ひときわ大きな葉っぱを踏んだら、派手な音がした。

 パリパリに乾燥している葉っぱは、木っ端みじんに砕ける。
 くしゃくしゃに丸まった葉っぱは、音が重なり合ってつぶれる。

 ……爽快感のある、気持ちのいい音だ。

 風に乗って、細かな葉っぱの破片が飛んでゆく。
 からし色の…なんの葉っぱだろうか?
 もみじか、かえでか、キリか、プラタナスか…砕けてしまったから、正体はわからない。

 ……この葉っぱは、当たりだ。
 ……もっと踏みたいな。

 足もとを気にしながら、人けの少ない公園を行く。

 視線の先には、もさもさとしたオレンジ色の塊と、丸っこい葉っぱ群。

 ……今日はもう、あんなに気持ちのいい音は出せないかもしれない。

 あれほどの音を出す葉っぱには、滅多な事では出会えないのだ。

 ……一度でも楽しめたから、それでいっか。

 そんな事を考えながら、公園の出口の階段を下ろうとした、その時。

 ッ、カラッ、カラッ……

 背後から、乾いた、かる~い、音がした。
 つむじ風に乗って、丸まった葉っぱが転がってきたらしい。

 これは……ぜひ、踏んでおきたい。

 私は、階段に向かっていた身体をぐるりと方向転換し。

 迫りくる葉っぱを迎え撃つ準備を……。

 ッ、カラッ、カラッ!
 カラ、カララッ!!!

 ムム、なんかちょっと…すばしっこいな。

 ッ、カラッ、カララッカラッ!!
 カラ、カララッッ、カラッ、!!

 どたどたと枯れ葉を追うも…お、追いつけない!!!

 ッ、カラッ、カラッ……

「あ、ああ……!!!」

 とびきりいい音をたてたであろう幻の楽器が、遠く彼方へと飛んで行ってしまった。

 くそう、逃した魚が…デカすぎる……!!!
 枯れ葉のくせに、なんて、なんてすばしっこいんだ!!!

「はぁ、はぁ、…ぜい、ぜい……!!」

 運動能力の衰え、おそるべし……。

 私はすごすごと階段を下りて、自宅へと帰ってというお話……。

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