オーストラリアの新年度予算 - Superannuationに関わる発表

2020年10月6日、オーストラリアの新年度予算が発表されました。例年は5月頃発表されるものですが、今年はコロナウイルスの影響もあり発表が10月まで延期されていました。


今年度の予算はコロナウイルスにより大きな影響を受けた経済、とりわけ雇用に関するサポートがどれだけあるかということが注目される予算になりました。発表された内容には雇用創出のための企業に対する支援や所得税減税の繰上げ、公共事業への積極投資など、過去に類を見ない大きなパッケージとなりました。エコノミストや投資家にも好感され、発表翌日からオーストラリアの株式市場ASXも2日続けて1%超のプラスとなりました。


ニュースのヘッドラインにはあまり大きく取り上げられませんでしたが、今回の発表にはSuperannuation(オーストラリアの年金機構)の構造・将来の展望を大きく変える可能性がある大きな内容もいくつかありました。政府のWebsiteに発表された記事を元にSuperannuation業界内にいる身からの観点から今回の発表を簡単にまとめて見ました。


今回のSuperに関する発表で注目すべき点は4点あります。

①Super口座の自動的引継

②Super比較サイト(YourSuper)の作成

③Superの運用パフォーマンスの監視強化

④雇い主が支払うSuperの率の変更(9.5%→10%)


まず、①Super口座の自動的引継 についてです。

現時点では転職等で雇い主が変わった場合、個人がSuperFundを指定しなければ新しい雇い主のデフォルトになってるSuperFundに新規口座が作られ、そこにSuperが振り込まれるようになっています。それが、この変更により現在加入しているSuperFundが自動的に引き継がれ、そこに新しい雇い主からのSuperが振り込まれることになります。この変更は個人がSuperFundを指定した場合には適用されません。Superについてあまり考えずに気づいたら転職のたびに新しいアカウントが出来てて無駄に管理費用をたくさん払ってた、というケースを防ぐための政策です。

記事によると、現在440万人が複数の口座を持っていて2019年にSuperに支払われた費用は合計でAUD30Billionにものぼるとのことです。これは市民が払う年間の電気料金、水道料金よりも大きな額とのことです。複数の口座に無駄に維持費用を払うことで貴重な将来の年金が減ることは是非とも避けたいことですので、とてもいい政策だと思います。

ここで個人的な見解を1つ入れるとすると、複数の口座を持つこと自体は必ずしも悪いことではないとは思っています。Superの費用に関しては大きく分けて口座維持費用と運用手数料というものがあります。口座維持費はその名の通り口座を持つことで発生する費用のことでFundにより違いはありますがAUD100ドル前後のところが多いように思います。これは単純に持ってる口座の分だけかかるものになるので少ない方がいいです。一方、運用手数料は運用額に対して一定の割合でかかるもので口座の数が多くても少なくても基本的には預けている額の合計で見ると大差はありません。運用額が大きくなるとこの手数料が非常に大きなウェートを占めることになります。Fundのパフォーマンスもそれぞれですので、分散投資の観点から100ドル程度なら払って複数の口座を持つのもアリかと思っています。電気や水道と違い単に消費するものではないので一概には比較できないかもしれないですね。


次に②Super比較サイト(YourSuper)の作成 です。

これはSuperFund毎の維持費及び運用成績がまとめられたサイト(YourSuper)が作成されるというものです。現時点でも民間の比較サイト等で同様の比較をすることは可能ですが、政府公認のサイトということで初めて口座を作る人やFundの変更を検討している人にむけて紹介されるようです。個人のSuperFundの選択を容易にすること、SuperFundの手数料削減努力を促すことを目的としています。また、Super業界の監視機関であるAPRAが推進するFundの合併・統合を進めるという意図も見え隠れします。


③Superの運用パフォーマンスの監視強化

これがSuperannuation業界で一番大きく注目されている内容です。運用成績の監視については以前より動きがあって、いよいよ本格的に導入される時が来たかという感じです。政府によると、成績がよくない(Underperform)Fundに預けられているSuperの額はAUD100Billionにものぼるということです。今後、Fundの成績は毎年チェックされ、UnderperformしているFundをYourSuperに公開、2年続けて引っかかった場合は新規の顧客が取れなくなるという非常に厳しい政策です。新規の顧客が取れなくなるとFundに新しい資金が入ってこなくなるのでSuperFundにとっては存続に関わる致命的なことです。絶対に避けなければいけません。ここにも、多少強引にでもFundの合併・統合を押し進めようというAPRAの意図が見えます。

ではどうなったらUnderperformしたことになるのかというのが焦点となります。これはそれぞれのFundの商品に対してAPRAが設定するベンチマークに対して直近8年平均の成績が0.5%以上下回ったらUnderperformと判断されるようです。現時点で詳細は決まっていませんが、ベンチマークには代表的な指数(Index)が使われると見られます。金融商品を積極的に売り買いしてIndex以上の成績を狙うActiveなFundはベンチマークを超える成績を出す年もあれば、それを下回る年もあります。ただ、2年でアウトというルールを付けられるとActiveに運用するリスクが非常に取りにくくなります。つまり、Indexに連動するようなPassiveな商品を持つFundへの移行を強く推し進める政策となりそうです。これを知ってか知らずか、Passive運用で有名なFundであるVanguardが先日Superannuation業界への参入を決めました。この流れはVanguardにとっては確実に追い風となることでしょう。APRAが運用の方針まで規定するような制度を作ることが本当に業界にとってプラスなのかどうかという疑問はありますが、今後のSuper業界の動向に注目したいところです。


最後は④雇い主が支払うSuperの率の変更(9.5%→10%) についてです。

これに関しては直接の発表があったわけではなく、コロナの影響がある中雇い主の負担を大きくするのはどうなのかという議論があったにもかかわらず、政府からは何のコメントもありませんでした。恐らく予定通り来年の7月に雇い主の負担を9.5%から10%あがることとなりそうです。



以上、先日発表された新年度予算からSuperannuationに関わることをまとめてみました。詳細が決まってないことも多く、最終的には議会に承認されるまでは実際に施行されるかも分かりません。ただ、Superannuation業界に対する監視の目は厳しくなっていることは確かですし、新規参入もあって業界は転換点に来ていることは間違いありません。低利子・低成長時代に豊かな老後を実現するために個人レベルでもSuper業界の動向に注目して見ていてもいいのかもしれません。

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