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たからうたストーリー「SwimDance」


川育ちの人

私たち2年生のチーム「River 音」は、神河町役場農林政策課に勤務する前川穗積さんと出会い、地域のたからものについて語っていただいた。前川さんは兵庫県神崎郡神河町中村出身で、幼少期から神河町で暮らしてきた。前川さんは、詩集『川育ち』(1998年)を発表した詩人でもある。

インタビューで、前川さんは椅子に深く腰掛け、ゆっくり目を閉じて、ひとつひとつの言葉を紡ぎ出すように話した。そして最後に、じんわりとぬくもりに満ちた口調でこう締めくくられた。「ぼくはほんまにこの町が好きや」。この言葉には、前川さんのこれまで過ごしてきた時間が凝縮されているように思えた。

神河町の豊かな自然。なかでも前川さんのイチオシは「川」である。川について話していると、前川さんの表情や声色がしだいに弾んでいくのを私たちは肌で感じた。私たちは話し合い、前川さんが川について語っていたときの輝き、情熱、使命、慈愛を音楽で表現することに決めた。

川の中で踊る

音楽制作には、ミュージシャンのアヤヲさんと山田明義さんに協力していただく。楽曲は私たちの希望をふまえてアヤヲさんと山田明義さんが作曲し、私たちは歌や手拍子でレコーディングに参加する。歌詞は自分たちのアイデアをもとに、歌手のアヤヲさんが作品にまとめあげる。

まず、曲調を決めるために、各メンバーのイメージに近い楽曲をリストアップした。その中で、特に参考にしたいと考えたのは、SixTONESの「With The Flow」という曲である。Flowという言葉が川の「流れ」と呼応している。私たちは、この曲のどこか気だるい、ブラックミュージックの雰囲気を取り入れた楽曲になるといいなと考えた。

歌詞は、神河町を訪れて感じたこと、前川さんの川遊びの話を聞いて感じたことなどを言葉にするところから始めた。子どもの頃、川で泳いでいると、たくさんのオオサンショウウオに出会ったという話が印象的だった。そこで、1つの曲は、少年時代の前川さんが川を泳ぐ姿、もう1つの曲で川から世界をみつめるオオサンショウウオの姿を描くことにした。

1つ目の曲のタイトルは「SwimDance」。前川さんの「川が好きで好きでたまらない気持ち」を「SwimDance=川の中で踊る」という言葉で表現した。その気持ちは川に「恋をしている」と言い換えられている。
https://youtu.be/WvLRZnr3GqQ

歌詞では、前川さんの芯の強さや、重たい問題も軽やかに乗り越えてゆく明るさを表現したいと考えた。また時代のなかで変化はあるけれど、心配することはないというどっしりと構えた姿勢にインスピレーションを受け、過去・現在、そして未来にむけて「流れに身を任せよう」「ありのままの姿でいよう」という意味をこめて「Go with the flow」という言葉を選んだ。

マイナーキーのメロディーはどこか心苦しいような切なさを帯びているが、最後に明るいメジャー・コードで終わる。これは「苦しいけれど、川と共に生きると私は決めた」という決意を示すとともに、「今日もまた流れていく」という日常性を表現している、と作曲した山田明義さんは語る。

「SwimDance」のメインボーカルはアヤヲさんだが、男性ボーカルを山田さんとともにチームメンバーの川北君が歌っている。またサビの部分で、チームメンバーの手拍子が入っている。

オオサンショウウオから見た世界


 
2曲目のタイトルは「オオサンショウウオ」。歌詞は、私・小林が書いた詩のアイデアを岡崎教授が短いリリックにまとめた。主人公は、神河町の川に生息するヤモリに似た生き物オオサンショウウオである。ユラユラ泳ぐオオサンショウウオに少年時代の前川さんのイメージを重ね、オオサンショウウオの目線から世界を眺める歌にした。
https://youtu.be/WvLRZnr3GqQ

楽曲は童謡のようにユーモラスでリズミカル、自然と口ずさむような作品にしたいと考えた。要望を伝えると、驚いたことに、山田さんはほんの数十分でデモ曲をつくりあげてしまった。私たちは歌を練習して全員でレコーディングした。録音後に再生速度をあげると、子どもたちが歌っているようなサウンドになった。

「SwimDance」と「オオサンショウウオ」は曲調が異なるけれども、テーマは一貫している。どちらも、どこか懐かしく無邪気に自然と戯れた子供の頃を思い出させてくれるような曲になったのではないかと思う。

2つの「たからうた」を創るにあたって苦慮したのは、神河町で経験した感情をどのように表現するかということである。普通の言葉では面白みがないが、普通ではない言葉を見つけるのは容易ではない。「澄んでいる/棲んでいる」といった言葉遊びをするなど、いろんな工夫をして歌詞を書いた。

私たちにとって楽曲制作は初めての試みだった。また「たからうたプロジェクト」も今年が初年度のため、前例なしに取り組まなければならなかった。無事に完成させられるかどうかという緊張や不安、プレッシャーと隣合わせの作業であった。どちらも短い楽曲だが、紆余曲折を経てできあがった作品、渾身を込めて作られた作品である。

青く広い空、澄んだ空気、全てを包み込むような太陽…。大自然に恵まれた神河町。(River音:小林春奈)

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