決別の日【脚本】
美容師 いらっしゃいませ。
客 予約してた斉藤です。
美容師 斉藤様ですね、お待ちしてました。こちらへどうぞ。
美容師 今日はヘアセットでのご予約ですね。どんな感じにしますか?
客 あ、こんな感じでお願いします。(スマホで画像を見せる)
美容師 かしこまりました。結婚式ですか?
表参道の式場近いですもんね、今日他のお客様も結婚式って方多くて。
客 あー・・・はい。
美容師 え、すみません、違いました?
客 いや、そうなんですけど、ちょっと憂鬱でなんか変な答え方しちゃった。
実は好きな人の結婚式なんです。だから何か複雑で!すみません、こんな話して。
美容師 いえいえ!あ、タオル失礼しますね。
えー、でも、それはなかなか複雑ですよねー
客 正直足取りは重いですよね〜まぁ行くんですけど。
結婚相手も私の友達で、スピーチ任されちゃってて。
美容師 うわ、え?それキツくないですか?
客 はは、めっちゃキツイですね。人の気も知らないで、って思っちゃいます。
美容師 新郎新婦のおふたりとも知らないんですね。
客 はい。まぁ、それに関しては私が悪いんですけど。全然告白とかしなかったし、気持ち隠してたんで。
はー、本当に、いや流石に変なテンションですね。吹っ切れたつもりだったのになんか今日になっていよいよ完全な失恋っていうか。
どっかで二人が別れること期待してたのかもとか思っちゃって自己嫌悪やばいです。
美容師 僕で良ければ全然聞くので、吐き出しちゃってください。
客 わー、すみません。ありがとうございます。
美容師 いえいえ。
客 別に二人の邪魔したいわけじゃなくて、どっちのことも大切だし、幸せになって欲しいんすけど、やっぱ理屈じゃないっていうか。
告白もしなかったくせに今更何言ってたんだって感じですけどね。
美容師 いやー、でも告白出来ない時ってありますよ。絶対付き合えるって確証無いのに告白するのってめちゃくちゃ勇気いるし。勢いで行けなかったらタイミング掴みづらいです。
客 それ!ほんとそんな感じで、これは難しいかもなぁって思っちゃったから言えなくて。
てか、なんなら二人がまだ付き合う前、最近仲良いなぁって二人のこと見てて、「もう付き合っちゃいなよ〜」とか茶化しちゃってたし。自分もいいなぁって思ってるのに、言いながら傷ついたりしてて馬鹿みたいですよね。
美容師 それはやっちゃってるな〜。
気持ちは分からなくも無いけど流石に馬鹿。
客 ちょっと!慰めてくれるのかと思ってましたよ。
美容師 今それ必要でした?笑ってくれる方が楽だったりしません?
同情されたり同調されても次には進めないでしょ。
客 確かに。それもそうですね。え、なんか目から鱗。今、普通に楽しかったし。聞き上手ですね。
美容師 ありがとうございます。
実はね、僕も経験あるんですよ。好きな人の結婚式。
客 え?本当ですか?
美容師 正確には好きだった人っていうか、元恋人。
客 え!うわー、まじ?
美容師 まぁ、別れてから何年か経ってたし、共通の友達が多かったから僕だけ呼ばないのもってなったんでしょうね。
向こうは気を使ってどうする?って聞いてくれたんですけど、僕的にも友達に戻ったって感覚だったし、二人で会うことは無くても友達を含めて何人かで会うことはあったから全然平気かなと思って結婚式出席したんですよ。
客 はい。
美容師 でもあれ、結婚式ってムービーとかあるじゃないですか。あれ見てるとなんか当時と重なる部分があったりして、全然未練があるとかじゃなかったけど、色々思い出しちゃって複雑でした。
客 わー、なんか想像だけで泣けるんですけど、切なー・・・なんか映画みたい。
美容師 そんな良いもんじゃないですよ。
客 え、行ってよかったって思えました?
美容師 はい。ちょっと感傷的になっちゃったけど、いい式だったし。
別れたとはいえ好きだった人だし、幸せそうな姿見れて良かったです。
客 そっか〜・・・
美容師 斉藤さんの場合、現在進行形だから僕とはちょっと違うかもですが。
客 ですね。でも、お話出来て良かったです。なんか今日でちゃんとけじめつけられそうです。
美容師 がんばってください。
客 ありがとうございます。良いスピーチで泣かしてやりますよ。
美容師 いいですね。はい、おつかれ様でした。どうでしょう?
客 めっちゃいい感じです!かわいい〜
美容師 お似合いですよ。
客 ありがとうございます。
客 落ち着いたら、髪短くしようかな。
美容師 え、もしかして失恋で髪切る的なやつですか?
客 はい。心機一転。
美容師 今時古くないですか?
客 それもそうだ。でも、また来ます。
美容師 お待ちしてます。ありがとうございました。
2023年10月17日放送の渋谷のラジオ「シブコネ」内で放送したラジオドラマ脚本です。初脚本作品。(一部修正)
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