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夏は<ηAC>が大事

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


長袖を着始めた今日この頃(2022年10月)、季節感のないネタでなんですがテーマは<ηAC>。
イータ・エー・シーと読む。
夏、日射熱がどれだけ住宅内に侵入するか、を表す値。
住宅の外皮性能を考える上で、とても大事な指標だ。実際に国が策定した、断熱性能がどれぐらいであるかを表す「断熱等級」においてはUA値と並んでその基準が設けられている。
UAは主に冬の議論だ。
そして、ηACは完全に夏の基準だ。現に末尾の<C>は夏を表している。
(ちなみに、冬の日射量を表す値は<ηAH>だ。)

私はエアコンの能力を選定する際は冷房能力をベースにしている。
エアコンの能力不足、またそれに起因するクレームはほぼ冷房期に起きるからだ。よって、エアコンの計画をする際は<ηAC>がどれだけなのか?を一番大事にしている。

しかし、工務店はUA値には雄弁だが、ηACについては黙して語らず。
何故か?
理由は色々あり、その説明は次回以降に行うとして、今回はUA値だけみてηACを省みないと、とんでもないしっぺ返しがあるということをお伝えする。

前述の通り、工務店はUA値は語るので、「うちはUA値0.46w/m2kです。」「うちはG3です。(0.26/m2k・・6地域の場合)」と、UA値至上主義的競争をしている。
素晴らしい。私もこの業界でその状況をつぶさにみてきたので、アメリカのインフレ率のようにニョキニョキとUA値がよくなっていくさまを見続けており、驚いている。
冬は単純化して言うと、UA値に比例して快適・省エネになるので、ひと昔前の住宅と比べて、快適になっていると思う。

しかし、夏は単純ではない。ηACがどれだけなのか、で夏の快適・省エネが決まる。(と、言っても過言でない。)
ηACは単位がない。これは係数なのだ。
「断熱等級7」のηAC基準は2.8と設定されている。これは外皮面積1m2あたり、日射熱(水平面全天日射)の2.8%が住宅内に侵入していることを表している。
これによって、具体的にどれだけの日射熱量が住宅内に侵入しているかのパフォーマンスを測れる。
例えば、こんなお題。
名古屋のお盆(8月15日)の昼下がり、どれだけの日射熱が住宅に侵入しているのか?
まず、お盆の日射熱を調べる。その上で下記のサイトが非常に便利だ。

このサイトによると、平均的な名古屋の8月15日の12:00頃には2.21MJ/m2の水平面全天日射があることが理解できる。
これをw/m2に換算すると≒610w/m2となる。
この住宅のηACが2.8、外皮面積が300m2だったとすると、
610w/m2 × 2.8/100 × 300m2 = 5124w となる。
つまり、名古屋の平均的なお盆の気候下で、親族が日中に集まって、「コロナ始まって以来久しぶりに会えたね」などと話しているさなか、この住宅には5124wの日射熱が侵入していることになる。

ピンとこないかもしれないが、この値はデカい。
毎秒5124wの日射熱がはいる。
そして室内を快適にするため、これをキャンセルするには少なくとも5124wのエアコン冷房能力が必要となる。
つまり18帖用エアコン(5.6kw)の能力が必要になる。
実際のところ、この日射熱以外にも内外温度差による熱、24h換気による熱、室内発生熱による熱(特に親族一同が室内にいるとなると大きい)を加味してエアコン能力を決める必要がある。

これは知っておくべきだ。
工務店の中には冬の議論のみで
「6帖用エアコンのみで夏も冬も快適です!」
と、謳っているところがある。
事程左様に、夏はUA値、ηAc値、その他要素を加味して能力決めを行うので、夏はあまり快適じゃないだろうな、という家も多い。

またこういう残念なケースもある。
「私たちの家はUA値が0.34m2/m2(6地域)です!」
と謳っているとする。付加断熱も行い、頑張っている。しかし、夏期日射対策がおざなり、軒ゼロの掃き出し窓もあり、ηAC値1.8だったとする。
この場合、例えば、UA値0.56w/m2k、ηAC値1.0の住宅と比較して、前者のエアコンの方が能力が大きくなる。

繰り返すがηAC値はUA値と同等に大事なのだ。
エネルギー消費量は暖房が大きく、UA値と連動してエネルギーは変化する。
そしてある一定の断熱性能を有すると、冬の快適性は担保される。
しかし、夏の快適性はUA値とは連動しない。
UA値が高くても快適ではない住宅はある。
むしろそれはηACが大事になる。


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