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【論文レビュー】価値観の変化に対する企業人事の対応とは!?:関本・花田(1986)

昨日に続き帰属意識研究に関する古典的論文のレビューです。働く社員の帰属意識の変遷を踏まえて、企業が人事システムとしてどのように対応しているのかをキャリア・トリー法によって明らかにしています。

関本昌秀, & 花田光世. (1986). 11 社 4539 名の調査分析に基づく企業帰属意識の研究 (下). ダイヤモンドハーバードビジネス, 1, 53-62.

昨日のnoteはこちら。

(URL:関本・花田(1985)レビュー)

キャリア・トリーから見える昇進昇格制度の運用

キャリア・トリー法とは、ある職位への昇進に要した年数や昇進する割合を可視化する分析手法です。といっても伝わりづらいと思うので本論文の図1(54頁)を抜粋しますので以下をご覧いただければお分かりいただけるかと。

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この企業では昭和30年の大卒新入社員が27名入っていることがわかります。昇進レースの先頭を走ってきた人(一番上の行)を例にとれば、副主事に至るまでに4年、副参事までに13年、副理事までで19年、理事になるまでに23年を要し、5名がこの先頭集団にいることが読み取れます。

その間に、第一次選抜(副主事に昇進)では3名が一年遅れでの昇進のために出世競争からは脱落しています。この伝統型企業では、トップ集団から一度でも遅れるとキャッチアップができないというシビアな状況が分かります。そのため、昇進昇格制度は加点主義ではなく減点主義での運用となっていることが推察されると著者たちはしています。

この辺りの詳細な議論は著者のうちの一人の後の論文を扱いましたのでそちらもご笑覧ください。

帰属意識のタイプごとの価値観

昨日の論文で著者たちが類型化した五つの帰属意識の持ち方のタイプは、どのような会社観を持っているのでしょうか。12年前の私が書き込んだもので恐縮ですが、表1(58頁)をご参照ください。

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この部分に対する著者たちの考察が奮っているのですが、自己実現型という団塊世代以下の若い世代(2021年の今の状況で「団塊世代が若い」というのはイメージしにくいかもしれませんが)に多い価値観を持つタイプは、従来の一般的モデルである伝統型や企業従属型とそれほどかけ離れた価値観を持っているわけではない、という点です。

著者の一人である花田先生が、この後に、働きがい(内発的動機付け)やキャリア自律に研究領域を拡げていかれる際にこの研究での意識があったのではないでしょうか。つまり、自分のために能力を活かすという価値観は、結果的に組織にとっても有効となるという発想です。

自己実現型のタイプをキャリア自律度の高いタイプと置き換えれば、キャリア自律が社員の情緒的コミットメントにポジティヴな影響を与えることは後の研究でも明らかになっています。つまり、自己実現型のタイプは、かつての企業にとって望ましかったタイプとそれほど変わらない可能性があるということです。

2020年代における更新の必要性も

ここまでは著者たちの慧眼を称賛するばかりで書きましたが、さすがに35年も前に書かれたものが全面的に現代にも活きるとは思えません。以下の表2(59頁)をご覧ください。

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ここにある私のメモ書きが言わんとしている示唆は読み取れるのですがひとまずおいといて、2021年の今の段階において最も違和感があるのは「社会活動や社会奉仕」を価値観として挙げている割合の低さです。伝統型や企業従属型はなんとなく分かりますが(失礼!)、自己実現型も0.1%というのは現代ではあり得ないでしょう。おそらくこの点は、現代との大きな違いと考えられます。

「自己実現型」的なキャリア自律や内発的動機で動くタイプの社員は、社会/Socialに対する優先順位は高いと言えます。この点のプラスの少なさ(例:社会課題への取り組みの少なさ)やマイナスの多さ(例:ハラスメントの多さ)が、とりわけミレニアル世代をはじめとした若くて優秀な「自己実現型」社員を離職へと招いていると言えるのではないでしょうか。

働く個人視点でのキャリア自律をいかに支援し、企業における職務への取り組みと企業組織を必ずしも前提としない活動との往還をどのように促していくのか。企業人事にとっての現代的な課題を考えさせられる論文です。

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