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【論文レビュー】「この尺度は測りたい概念を正確に測れています!」というための「妥当性」についてマニアックに深掘るために読む論文:村山(2012)

構成概念妥当性、基準関連妥当性、内容的妥当性といった心理統計の妥当性の相違について、論文ごとにビミョーに分類が異なっていて何が正しくて何が間違っているのか、よくわからんなぁと苦慮していました。そんな私にとっては、目から鱗が何枚も落ちるレベルの感動すらおぼえる論文の紹介です。一部の大学院生以外にはまったく響かない(?)極めてマニアックな内容を書いてみます。

村山航. (2012). 妥当性概念の歴史的変遷と心理測定学的観点からの考察. 教育心理学年報, 51, 118-130.

外的基準を重視する基準関連妥当性

心理学を学問として鼎立したのはウィリアム・ジェイムズと言われますが、20世紀初頭の心理学の誕生時点において、妥当性とはすなわち基準関連妥当性として論じられていたようです。基準関連妥当性(Criterion-Related Validity)は、外的な基準との関連を明らかにすれば科学的に検証できたといえるとする考え方です。

基準関連妥当性は、心理学が誕生した初期における行動主義や操作主義の影響を受けた「ややラディカルなもの」(119頁)であったと著者はしています。いわば、外的基準偏重主義とも言えるものであったのでしょう。

構成概念妥当性

こうして基準関連妥当性に対抗する妥当性の考え方が出てきたのが1950年頃です。外的基準との関連から妥当性を捉えるのではなく、構成概念の中身に焦点を置いて妥当性を検証するべきであるという考え方として構成概念妥当性(Construct Validity)が登場します。

この考え方を提唱したのはLee CronbachやPaul Meehlらで、構成概念や構成概念間の関係には何らかの仮説を持ってアプローチするという論理実証主義の影響を強く受けた考え方であると著者はしています。なお、前者の提唱者は、クロンバックのα係数で有名なあのクロンバックです。

このような論理実証主義パラダイムを色濃く受け継いだ構成概念妥当性の考え方から、妥当性の理論的発展がなされ、収束的妥当性弁別的妥当性が生まれました。

妥当性の三位一体観

その後、1960年代には「測定するものが、構成概念のすべての側面を網羅的にカバーしているか」(120頁)を検証する内容的妥当性という考え方が登場し、基準関連妥当性および構成概念妥当性とともに妥当性の三位一体観と呼ばれるようになりました。

現在、日本で買える心理統計の教科書でもこれらが併置されているのは、この考え方が色濃く反映されているからなのでしょう。私もこの分け方はわかりやすいとは思います。

構成概念妥当性こそが妥当性

しかし、これら三つの妥当性の考え方はわかりやすいものの、峻別することは難しいです。たとえば、心理統計の論文を読んだり教科書を何冊か読んだりしていると、先述した収束的妥当性や弁別的妥当性が基準関連妥当性に入っていたりするものもあるのです。

すごく乱暴に言えば、三つを分類するのではなく統合的概念として構成概念妥当性を定義づければ良いのでは?と主張したのがMessickさんだそうです(Messick 1989)。ここでの統合的概念としての構成概念妥当性は、「テストもしくは他の測定結果にもとづいた解釈の適切性について、それを支える実証的証拠や理論的根拠がどの程度あるかに関する、総合的な評価」(Messick 1989; 池田ほか 1992)と要約できる内容として、以下のように整理をしています。

村山(2012)p.121

この整理はなかなか使いやすいもののように感じます。たとえば、直近の心理統計の論文で出てくる妥当性概念で言えば、因子妥当性は「構造的な側面の証拠」に当てはまり、収束的妥当性や弁別的妥当性は「外的な側面の証拠」に入りそうです。

心理統計の論文において、本論文が引用する統一的な概念であるMessickの構成概念妥当性を用いて幅広に捉えているものがある、ということは理解しておくと良いでしょう。そうしておけば、三位一体観での妥当性の捉え方との相違で論文ごとの書きっぷりの違いに悩むことは少なくなるのではないでしょうか。

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