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【論文レビュー】「キャリア自律が社員の離職を促す」という神話の虚構を暴く!?:堀内・岡田(2009)

キャリアという言葉が流行り出した頃、自律的にキャリアをすすめる社員は、主体的に職務上の意思決定や行動を行うために企業組織から転職するのではないか、という俗説が一定の共感を得られた時期があったように思います。本論文では、結論から言えば、キャリア自律している社員こそ組織コミットメントが高い、ということを実証的に明らかにしています。

堀内泰利, & 岡田昌毅. (2009). キャリア自律が組織コミットメントに与える影響. 産業・組織心理学研究, 23(1), 15-28.

まずキャリア自律について、本論文では「自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに(心理的要因)、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること(キャリア自律行動)」と定義しています。

本論文では、キャリア自律という概念を意識(心理要因)と行動(行動要因)とに峻別している点も注目すべきでしょう。その上で、意識が行動に影響を与えていることを明らかにし、キャリア自律がキャリア充実感を媒介して組織コミットメントへと影響しているという関係性を以下の図で表しています。

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特に印象的な三つの理論的示唆を見ていきましょう。

(1)職業的自己概念の明確さがキャリア自律行動に影響

職業的自己概念の明確さは、エドガー=シャインのキャリア・アンカーに基づいて作られた尺度です。つまり、自分自身の職業キャリアにおける拠り所に対して自覚的であること、と捉えられるでしょう。

また、キャリアの自己責任自覚がキャリア自律行動に影響を与えていない点も着目するべきでしょう。これは、著者たちの考察によれば、日本企業においてキャリアをすすめる責任は社員本人にあるというメッセージが、社員に対して受動的なキャリア形成意識を醸成しているからではないかとしています。つまり、会社からの脅しによるキャリア意識ではキャリア自律行動に繋がらないことが検証された、と解釈できるのです。

この点と職業的自己概念の明確さの影響度合いとを重ねて考えれば、企業は、社員個々人の独自のキャリア意識を醸成することをいかに支援するか、つまり自分自身のキャリア観への気づきを促すことが有効であると言えます。

(2)主体的仕事行動がキャリア充実感に影響

キャリア充実感に影響を与えるものとして主体的仕事行動がありますが、図を見ればわかるように、職業的自己概念の明確さが直接ポジティヴな影響を与えている点にもまず着目するべきでしょう。

その上で、主体的仕事行動がキャリア充実感の二つの構成概念に影響を与えていることがわかりました。自分事として自発的に仕事に取り組むことが、自分自身のキャリアの充実度合いを高めるということです。

他方で、職場環境変化への適応行動からはキャリア充実感に影響を与えていることが確認できなかったことがわかります。内的なエネルギーによる行動ではなく、外的な影響による行動は自分自身のキャリア充実感を生み出さない、ということでしょう。

(3)キャリア充実感が高いと組織コミットメントも高い

最後に着目するべきは、キャリア充実感から組織コミットメントへの影響です。仕事充実感が情緒的コミットメント(心情的な意味合いでの組織への愛着)に影響を与えていることがわかります。

つまり、一番左から見ていくと、職業的自己概念の明確さ→主体的仕事行動→仕事充実感→情緒的コミットメント、という一つのベクトルが見えるのではないでしょうか。つまり、キャリア自律している社員は組織コミットメントが高い、という解釈ができるのです。

この点は以下のクラスタ分析からも解釈できます。

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クラスタ分析から三つのタイプ別の特徴が明らかになっています。つまり、回答傾向によって三つのタイプ(キャリア自律群、準キャリア自律群、キャリア自律未達群)に分かれていることがわかります。

それぞれの回答傾向の差異が最も大きいパートの一つとして、ここでも職業的自己概念の明確さが出てきています。つまり、職業的自己概念の明確さの高低がキャリア自律の度合いを決めている要素が大きいということでしょう。


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