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質的研究を考える。〜B・G・グレイザー+A・L・ストラウス『データ対話型理論の発見』を読んで。

質的研究ならM-GTA(Modified Grounded Theory Approach:修正版グラウンデッド・アプローチ)でしょ!と安易に思ってました。私が読む論文にはM-GTAがよく用いられていますし、自分でも活用しようとしているので粛々と学んでいます。Modified(修正版)という単語が頭につくからには、その大元になっているGTAも気になるわけです。

昨夏に社会構成主義の話(※以下のエントリー)をさせてもらっていた神大博士課程の堀尾柾人さんと、「次はGTAをやりましょう」と話していたのですが年末に実現しました。扱ったのは、GTA界隈では「オリジナル版」と言われるグレイザーとストラウスの『データ対話型理論の発見』です。

この本、分厚いので研究志向の方以外にはなかなか強くは勧められませんが、質的調査を行う方には一読の価値ありでオススメの一冊でした。新たな理論手法を世に問おうという著者たちの気概は、やや暑苦しい部分もなきにしもあらずですが、言い方を変えると読む者をうつものがあります。

超入門的なポイント

著者たちが対比的(いわば仮想敵)に捉えているのは従来の論理演繹型理論です。GTAは、「理論が有用かどうかを判断するための一つの基準とは、理論がどのようにして産み出されたのか」(6〜7頁)を重視しています。つまり、理論を生み出すために、ヒアリングから質的なデータを帰納的にコード化することに意義があるのです。

この考え方の前提として、理論は完成したものではないとGTAは捉えています。理論を完成物ではなく、「理論をプロセスとしてとらえれば、理論は社会的相互作用のリアリティやその構造的脈絡をきわめてよく表現してくれるもの」(43頁)と考えるべきであるとしています。

私たちは既存の理論をありがたく受けとめすぎなのかもしれません。著者たちは、従来の方法のように「データを無理やり所与の概念や仮説に当てはめてしまうこと」(46頁)を避けることを主張しています。

その上で「まず最初に特定領域に密着した概念や仮説がおのずから浮上するようにもっていく」(46頁)ことで理論化を進めます。それによって「たとえ問題となっている領域密着理論の産出に役立つフォーマル理論があったとしても、現存するフォーマル理論のうちのどれがそれに当たるかを、分析者は突きとめられるようになる」(46頁)と述べているのです。

GTAの考え方に触れられる興味深い一冊です。より深掘りしたし方はぜひ手にとってみてください。

気づいたこと

読書会の主産物は、扱った書籍のポイントを理解することですが、そこから派生した副産物もあります。個人的には副産物の方が大きいのではないかとも思っており、今回もそうでした。

まずGTAは、ある研究・調査を行う上でのアプローチとして必要条件にはなり得ても十分条件にはならないのではないか、という点です。たとえば、定量的な調査であれば、SPSSを用いて因子分析をバリマックス回転を行ったところ因子負荷量が0.**以上の因子をX個検出でき因子名を〇〇とした、という客観的に正しそうな結果が見出されます。

しかし、GTAを用いた場合、どの流派であっても、その手法を踏襲したところで批判は容易に他者から出ます。定量調査を好む方からは「それは科学的アプローチなのですか?」と問われますし、GTA内でも他の流派を好む方からは批判されるでしょう。

こうなった時に、何で「たしからしさ」を担保するのかというと、GTAの手法に加えて見出したい現象(What)およびその隣接領域に適合的な理論で補強しないと、必要十分な主張にならないのではないか、という話になりました。当たり前と言えば当たり前ですが、GTAをはじめとした研究手法(How)は理論(What)とセットである必要があるのですね。

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