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【論文レビュー】あまり和訳されない謎の理論「JD-R理論」について。:Bakker & Demerouti(2017)

JD-R理論(Job Demands-Resources Theory)とは、職務の要求度合いと遂行するための資源に関する理論で、職務における疲労感やモティベーションに影響を与える構造を明らかにするものです。エンゲージメントとか動機付けの観点で目にしたことがある方もいるかもしれません。

Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2017). Job demands–resources theory- taking stock and looking forward. Journal of occupational health psychology, 22(3), 273.

大まかな関連性は、著者たちが以下のように簡潔にまとめてくれています。ありがたや。

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まず、大事な点は、JD-Rとは組織におけるトップダウンのアプローチを想定している理論です。組織の視点から、社員の疲労感やモティベーションの低下を起こさないように職務を検討するというジョブ・デザインの考え方と近しいと本論文でも記載があります。この点は高尾先生がレビュー論文で書かれておられましたが、改めて本論文を読むと背景が理解できたような気がします。

というのも、JD-Rが作られた当初の意図として燃え尽き(burnout)の問題があったことが言及されているのです。具体的には、職務の要求度合いが高すぎると疲労感(exhaustion)に、職務遂行の資源が少なすぎると感じると冷笑的な態度(cynicism)になるという影響関係が指摘されています。こうした背景から、職場の衛生や安全性の領域で活用され、会社組織のみならず政府系機関における方針策定にも活用されてきたようです。

お恥ずかしいかぎりですが、改めて、著者自身によるオリジナルのものを読まないといけないと感じました。後から他者が書く場合には解釈が当然入るものであり、そこからさらに私が解釈すると色がついてしまうなと。

JD-Rって組織側の視点じゃん、ジョブ・クラフティングの考え方と違うじゃん、と否定的に捉えていましたが、JD-Rには元々の対象としていた領域があり、そこからの派生でジョブ・クラフティングと関連するとそりゃ組織側の視点になるわな、という感じです。

つまり、組織にとって有用な行動を個人の側から自発的に取りに行くというプロアクティヴ行動の一つとしてJD-Rはジョブ・クラフティングを捉えているのにはワケがあったと考えられます。さらに言えば、ジョブ・クラフティングがプロアクティヴ行動として「も」捉えられる背景を本論文で読んで理解できたように感じます。

同じ概念を使っていても、使う人によってその意味合いが異なることは多々あります。特に、ジョブ・クラフティングのような新しい概念であればなおさらなのでしょう。だからこそ、Zhang & Parker(2019)のように多様なジョブ・クラフティングの概念間の相違を三つの軸で切り分けて捉えようとする働きかけはありがたいなと感じました。(そのうちnoteでアップします、たぶん)

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