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【論文レビュー】似て非なる二つの構成主義ーー心理的構成主義と社会構成主義:深尾(2005)

構成主義と呼ばれる概念には、ざっくりいうと心理的構成主義社会構成主義とがあります。本論文では両者の共通点と相違点を端的にまとめてくれています。

深尾誠. (2005). <研究ノート>社会構成主義の理論と実践について. 大分大学経済論集, 56(5), 大分大学経済学会. 141-154.


共通点

まず、心理的構成主義と社会構成主義の共通点から見ていきます。

 心理的構成主義は、個人の経験世界が、その個人の内界で構成されることを強調する。この立場は、個人の経験世界が構成されるものであり、個人の心は外界をありのままに映す装置ではないと主張する点において、社会構成主義と立場を同じくする。

p.141

外界を認識する際に、内界と外界とを峻別し、個人は外界をそのまま内界に映して認識するという捉え方をするアプローチがあります。そうした認識論とは異なり、個人の経験世界は構成されるものであるという認識をとるという点では両者は共通しています。

相違点

では両者の間で何が異なるのでしょうか。著者は端的に以下のように比較しながら述べておられます。

しかしながら、社会構成主義は、心と外界のいずれの存在も自明視しないという点において、心理的構成主義と立場を異にする。社会構成主義では、心も外的世界も言語によって形成され、社会的交渉によって変化しているものであると考える。また、心理的構成主義が知識の源泉を個人の心のプロセスに求めるのに対して、社会構成主義は人間行為の源泉を関係性に求め、個人の行動の理解のためにコミュニケーションの重要性を強調する。

p.141

心理的構成主義は自身の内的世界(心)を自明視しているのに対して、社会構成主義はそうではありません。社会構成主義は、内的世界も外的世界も自明視せず、言語を通じた相互作用によって構築され常に更新されるものと捉えています。

長い補足

私自身が心理的構成主義と社会構成主義の相違に意識が向いたのは、高尾先生の2020年の論文を読んだときです。高尾(2020)は、ジョブ・クラフティングという概念の思想的な系譜について解説されたものとして有名です。

その論文内で、ジョブ・クラフティングを提唱した論文であるWrzesniewski & Dutton(2001)が心理的構成主義社会構成主義とを混同して取り上げてしまっている可能性を高尾先生は【注】で解説されています。

W&D(2001)がGergen(1994)を引用している「個人の経験世界が、その個人の内界で構成されることを強調する」(p.179)という箇所は、社会構成主義と影響関係にある知的伝統の1つであるが、それと区別されるべきとGergenが位置付けている心理的構成主義(constructivism)を紹介している部分から取られている。Gergen(1994)によれば、社会構成主義と心理的構成主義は、個人の心を外界の性質や状態を映す装置とみなす伝統的な観点に対して異議を唱えている点などで共通点があるが、「心」と「世界」のいずれについても、その存在を自明視しない社会構成主義は心理的構成主義の大前提を否定しており、両者を同じものとみなすことはできないとされる。Gergen(1994)の主張を踏まえると、W&D(2001)は社会構成主義と心理的構成主義を十分に区別できていないと考えざるをえない。

p.14

いまだかつて、ここまで学びにつながる【注】を読んだことはありませんでした。この高尾先生の【注】で、心理的構成主義と社会構成主義との相違について私自身も理解することができたことを申し述べておきます。論文全体を読みたい方は以下を熟読なさってみてください。

高尾義明. (2020). ジョブ・クラフティングの思想―Wrzesniewski and Dutton (2001) 再訪に基づいた今後のジョブ・クラフティング研究への示唆―. 経営哲学, 17(2), 2-16.

こういう骨太な思想系にどっぷりと浸れる論考を読むのもいいですねー。尚、本論文では、社会・心理的構成主義についても触れられているので詳しく知りたい方は論文を当たってみてください。

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