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【読書メモ】『組織開発の探究』(中原淳・中村和彦、ダイヤモンド社、2018年)

本書を読むまで、組織開発という概念には少し食傷気味でした。数年前、広義の組織開発の手法による活動を集中的に行っていた時期があります。よかったのだとは思うのです、特定の参加者にとっては。

しかし、組織にとって、会社にとって、効果があったのかと問われれば、残念ながら疑問符がつきます。下手をすれば、企画・運営側の自己満足ではないかという感もありました。

また、組織開発というアンブレラワードの下に群がろうとするコンサルタントと呼ばれる人たちの多さにも辟易としていました。事業会社に勤める私にとっては、中には志を持って取り組まれている方もいれば、海外での流行を翻訳しただけの人もいるなど、玉石混交の状態でした。

組織開発を志す人々が党派に分かれ、対話を失わせている実態こそが、組織開発の健全な発展を妨げて行くものだ(63頁)

本書におけるこの言葉は当意即妙なもので、組織開発を取り巻く環境にうんざりしていた背景がよくわかりました。「○○が正しく、□□は誤っている。」とか「〇〇を信じない人間は信じない。」といった言説構造は、端から見ていれば内ゲバ争いに他ならないでしょう。そのため、組織開発に対してどこか冷めた目で眺めるようになってきていました。

しかし、組織開発の歴史的経緯と今後の可能性に対して真摯に向き合おうとする本書を読み、組織開発に改めて取り組み直したいと心の底から思いました。特に以下の箇所から、組織開発を毛嫌いする無意味さを理解し、反省させられました。

人材開発、リーダーシップ開発……そして組織開発は、理論的には同じルーツを持っている(6頁)

学びの多い本書をまとめるのは難しいです。ここでは、特に興味深いと感じた、組織開発の理論的な背景と、それを踏まえた実践的な簡潔かつ明瞭なステップについて焦点を当ててみます。

まず、理論的な背景についてですが、組織開発の3層モデルを見てください。

実務家としては、組織開発の手法にどうしても目が向いてしまいますが、重要なのは、そうした手法がどのような背景を持っているかではないでしょうか。なぜなら、手法の底流に流れるものが、手法に影響を与えるからです。実施者がその背景に自覚的であろうと無自覚であろうとも、関係はないでしょう。

手法の直接的な背景として、集団精神療法の方法論があり、その考え方の基盤には哲学があります。ここでは、図中の第1層を成す哲学的基盤に焦点を当ててみます。

下手の横好きで哲学を好む身としては、組織開発の基盤として、フッサール、デューイ、フロイトが出てくるのは堪りません(笑)。デューイは経験からの学習という点、フッサールは経験の意識化という点、そしてフロイトは無意識の意識化という点で、組織開発の基盤となる考え方に影響を与えたと指摘されています。

デューイとフロイトについては、ここで取り上げられるのはなんとなくわかります。しかし、その両者を繋ぐ存在として現象学で有名なフッサールが描かれているのが興味深いです。現象学という、決して理解したとは言えない難解な思想に対して、エポケーをはじめとした概念装置に魅了された身としては、組織開発の基底を成す考え方の一つとして取り上げられると嬉しいものです。

次に、実践的な組織開発の3ステップについて。41頁の図表4にある端的かつ簡潔に描かれたモデル図を見ていきましょう。

見える化のステップで重要なことは、潜在的な問題を顕在化させることが見える化であり、誰もが認識している問題を図やチャートにすることではありません。きれいな図やモデルにすることを見える化と捉えがちですが、現場に存在する有象無象な潜在的問題を可視化することが求められるのです。

ガチ対話のステップでは、何かを決めたり判断するのではなく、お互いの意見や考えの相違を明らかにします。そのためには、腹を括ってお互いが真剣に対話することが求められるでしょう。

ガチ対話を経て発散的にアイディアが出て、お互いの意見の背景となる考えを理解しあった後で収束します。これが未来づくりです。組織としてまとめるために未来におけるビジョンを共同して創り分有するということではないでしょうか。

実務においては、組織開発の3層モデルでその基底に流れる背景(Why)を念頭に置きながら、組織開発の3ステップを基にワークショップを設計(What)したいものですね。


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