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【論文レビュー】年功型昇進の裏にある異動人事から社員は将来の見通しを察知する!?:松繁(2000)

本論文では、従来の日本型人事管理における「遅い昇進」現象の背景を明らかにするために、異動が昇進にどのように影響を与えるのかを検証しています。係長への昇進、課長への昇進、部長への昇進、というように職位を分けて分析をすることで特徴を明らかにしています。

松繁寿和. (2000). キャリアマラソンの序盤- 文系大卒ホワイトカラーの異動と選抜. 国際公共政策研究, 4(2), 21-40.

昇進の差に先行する将来の見通しの差

日本企業における昇進について、加工組み立て型製造業での調査を基にして本論文では分析をしています。昇進が起こり始める時期は、係長へは勤続10年目頃から、課長へは15年目頃から、部長へは20年目頃から昇進が始まることが観察され、これが遅い昇進の特徴を表していると著者は述べています。

今田(1994)によれば、係長への昇進ではほぼ全員が同じタイミングで昇進するのですが、本論文では、昇進の前の時点で将来の見通しに差が現れるとしています。昇進差を意識する者が現れるのは勤続五年目を過ぎる頃からであり、これは係長への昇進時期よりもかなり早いです。

人事異動から社員は昇進差を感じ取る

では社員は何をもって昇進差を意識するかというと、異動なんですね。著者は、選抜が始まったことを意識させるものとして異動に注目し、昇進に影響する異動が勤続の初期段階で起きているかどうかを分析しています。

係長への昇進に関しては、社内組織を変わる事業所内異動が正事業所間異動が負出向が正類似性のない仕事への異動が負の効果をそれぞれ持っていることを明らかにしています。ここでは、個々の内容を理解するというよりも異動の種類によって受け取り方が異なるものなのだという点をざっくりと理解すれば良いでしょう。

ファストトラック型選抜ではなくあくまで遅い昇進

このように、係長昇進時期に先行する段階で選別は進行していると言えます。しかし、ここでの選別は、アメリカ企業において行われるファストトラック型の早期選抜が行われているわけではありません。あくまで遅い昇進の一つの段階として、徐々に能力が見分けられ将来への投資や就く仕事の内容に差が生じているというのが実態のようです。

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