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【論文レビュー】組織社会化と社会化エージェント:福本 (2023)

新しく組織に参画した社員が組織に馴染むというような意味合いの組織社会化は、組織が公的な施策などを通じて行うものとして当社は扱われていました。それが、近年では組織における社会化エージェントは個人が柔軟に行うものという側面も提唱されるようになってきています。本論文では、後者の個人による組織社会化に焦点を当てて解説されています。むちゃくちゃ勉強になる論文でした!

福本俊樹. (2023). 「パーソン」 を活用する組織社会化- 個人化された戦術の設計へ向けて (Doctoral dissertation, Doshisha University).

相互行為論

では個人の観点に立った取り組み、すなわち個人化された組織社会化の戦術とはどのようにその効果を捉えれば良いのでしょうか。著者は以下のように相互行為論に立ち返るべきであるとしています。

この問いに取り組むに際しては、組織社会化研究がその理論的基礎とした相互行為論(interactionism)に立ち戻るのがよいだろう。なぜなら、相互行為論はまさに、人々が日常的なやりとり(相互行為)をしあうその場面において、その参与者たちがなんらかの「人物」として立ち現れるその機制を考察してきたからだ

p.110-111

著者は、ゴフマンについても触れながらどっぷりと社会学の世界に立ち戻りながら、新入社員の社会化を促す存在である社会化エージェントについて、新入社員との関係性の中で以下のように捉えます。

新人が観察・定義する社会化エージェントの人物像とは、社会化エージェントと新人との相互行為に相関する形で現れる

p.113

つまり、社会化エージェントが客観的に存在して「この人は先輩社員として素晴らしい!」というような存在と捉えるのではなく、新入社員との相互行為のプロセスの中から立ち現れてくる存在として捉えています。

社会化エージェントの人物像の形成プロセス

この相互行為のプロセスとは具体的にはどのようなものでしょうか。たとえば、新入社員にとっての社会化エージェントの一人である上司が、「親しみやすい上司」という人物像を得るケースを本論文では述べています。ある新入社員にとって「親しみやすい上司」という社会化エージェントは、その上司が親しみやすさという特性を持っているから新入社員がそのように「親しみやすい上司」と認識するのではないとして著者は以下のように解説しています。

まず当の上司に[上司] の役割カテゴリーが適用され、その上司が取りうる行動([真面目に仕事をする])が予期されていること、その上で、上司による駄洒落を漏らすというふるまいがなされ、それが[上司]の役割から逸脱したふるまいであると新人によって観察されること──こうした一連の相互行為の効果として、当の上司に「親しみやすさ」といった性質が帰属され、「親しみのある人物」として可視化されるのである。

p.115-116

新入社員とその上司との相互に影響を与えるプロセスを経て、その新入社員が上司は「親しみやすい上司」として認識するというわけです。

個人化された組織化戦術

こうした組織ではなく個人による組織化戦術について、著者はご自身の過去の論文を引用する形で「そこで行われる社会化が、組織によって意識的に選択・ 設計・構造化されたものではなく、エージェント個々人の裁量に委ねられていると新人に経験される社会化方式」 (福本, 2019)と再定義されています。

このように個人化された組織化戦術は各社会化エージェントの裁量に委ねられてはいますが、新入社員が組織に馴染んでパフォーマンスを発揮できるようになるためには社会化エージェントの自由裁量に任せきるわけにもいきません。そこで逆説的ですが、組織によって個人による組織化戦術をマネジメントするという発想が実践的な示唆として提示されています。

社会化エージェントの人物像を組織にとって望ましい形で新人に観察・定義させようと思うならば、当のエージェントに新人が付着しうる役割カテゴリーとその諸属性の組み合わせにより自覚的にならねばならず、場合によってはそれを管理せねばならないということだ。

p.120

予期的社会化という点では面接官との相互作用が、入社後の組織社会化という点では上司や指導員との相互作用は、各社会化エージェントの完全なる裁量に委ねるのではなく、組織によるなんらかのマネジメントが生じるという著者の指摘は、企業で働く身としてはとても理解できる内容です。自由に委ねつつも、放任にはしない、というなかなか香ばしい感じもいたします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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