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【論文レビュー】なぜ縦断研究は因果関係を推定できるのか?:高比良ほか(2006)

縦断研究因果推定に関する論文や書籍をこれまでいくつか読んできました。本論文は、それらの中でも最も基礎的なところから丁寧に議論を始めながら、事例も交えて詳しく解説してくれています。

高比良美詠子, 安藤玲子, & 坂元章. (2006). 縦断調査による因果関係の推定――インターネット使用と攻撃性の関係. パーソナリティ研究, 15(1), 87-102.

因果関係を推定する条件

縦断研究デザインについて述べる前に、著者たちは、そもそも因果関係を推定できる条件とは何か、について述べておられます。こうした点が、量的調査に詳しくない私のような読者にはありがたいのです。

具体的には、変数Xが変数Yの原因になっていると推定できる条件として、先行研究を基に以下の三点を挙げています。

  1. XとYが共変動している

  2. XがYに時間的に先行している

  3. XとYの関係が疑似的なものではない(第三変数の影響によるものではない)

横断調査

因果推定の三つの条件を眺めると、なぜ、横断研究ではなく縦断研究が因果推定を行う際に使われるのかがわかります。言い方を変えれば、横断研究が使えるケースが非常に限られるのかがクリアになるはずです。

端的に言えば、条件の2に当たる時間的な先行の要件を満たせないためです。横断研究とは一時点における調査ですので、当たり前と言えば当たり前なのですが、同時に測定した複数の変数間で時間的な先行/遅延はわからないからなのですね。

仮に、横断調査でSEMを用いた結果として矢印の関係性が明らかになったとしても、それだけで自動的に因果関係を推定できるわけではない、という点は先日他のnoteで扱った通りです。

縦断調査で因果を推定する

横断調査では満たせなかった条件2をカバーできるのが縦断調査です。縦断調査の一つにパネル調査があり、これは「同一の調査対象者に同一内容の項目群を一定のインターバルをおいて2回以上実施していくもの」(90頁)です。

変数Xと変数Yとの因果関係を推定するために、以下のような影響関係を交差させたモデルを描いて分析する交差遅延効果モデル(cross-lagged effect model)が用いられます。

92頁

本論文の射程からは離れますが、この交差遅延効果モデルの一つに交差遅延パネルモデルランダム切片交差遅延パネルモデルがあります。つまり、交差遅延効果モデルが上位にくる概念であるという包含関係にあります。以前、このあたりの点をまとめたnoteがあるので、詳しく知りたい方はご笑覧ください。

媒介効果の推定には三時点以上

ここまでの議論の延長線上になりますが、三つの変数の関係を縦に繋げた因果関係(X→Y→Z)を推定するには、三時点での縦断調査が原則的には必要とされます。時点が増えるたびにデータの欠損リスクは高まるので、よくよく扱う変数については考慮しないといけないのでしょう。

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