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10分でわかる!?ジョブ・クラフティング超入門

昨日、立教LDCの有志メンバーでジョブ・クラフティングの勉強会を開きました。みなさん、英語文献を読み込んでいて私の理解があやふやだった点がクリアになり、また私の研究上の仮説へもフィードバックをいただき大いに示唆を得ました。こういう時間は大事だなぁ、共有できるメンバーがいるのはありがたいなぁとしみじみと感じる貴重なひとときでした。参加されたみなさま、ありがとうございました!

私からの情報提供は、ここ一ヶ月ほど読んできた関連論文を、思いっきり意訳し、表紙にあるようなタイトルで行いました。ここでは、修士らしい(?)専門的な箇所は端折って、ジョブ・クラフティングの基礎の基礎に絞って説明してみます。

まずは定義から見ていきます。代表的な論文であるWrzesniewski and Dutton(2001)にある定義を意訳してみました。

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ポイントは赤太字にした三点です。まず、仕事や他者との境界に関するものを対象としていることです。次に、それが主観・客観にわたるものであり物理面だけではなく認識面も射程に入っていることも着目するべきでしょう。そして最後に、静的なものではなく個人による変化であることです。

では、ジョブ・クラフティングという概念が出てきた背景には何があるのでしょうか。ここでは仮想敵、つまり何を批判して発展させているのかを考えるとわかりやすいでしょう。

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ジョブ・クラフティングが仮想敵においているのはHackman & Oldham(1976)の職務特性理論と言えそうです。ただ、批判的に捉えるというよりは補足するものと言えます。

職務特性理論は、賃金や職場環境などによって外発的に動機づけるのではなく、職務自体による内発的動機付けを説明する理論です。職務を客観的に捉え、どのように職務をデザインするか、つまりジョブ・デザインを重視しています。

こうした職務特性理論に対して、ジョブ・クラフティングでは職務を客観的なものではなく主観的に認識して内的に構成するものと捉えます。人によって捉え方は異なるものであり、したがって、職務の特性によって動機付けの度合いを定量的に測れるのではなく、どのような職務でも動機付けは可能であると考えます。そのため、上司が職務を設計して付与するというのではなく、個人が主体的に職務を設計するという考え方を取るのです。

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働く個人が内的に職務を構成するという捉え方は、Wrzesniewski and Dutton(2001)によればケネス・ガーゲンの社会構成主義に依るものです。

社会構成主義の大元には、主観によって対象が生成するというカントの考え方があり、意味生成プロセスを言語による解釈から説明したウィトゲンシュタインの影響を受け、バーガールックマンは社会構造にフォーカスを置いて現実が社会的な関係の中で構築されると捉えました。ガーゲンは、心に焦点を置いて内省というキーワードを加え、社会構成主義の心理学化を行ったと言えます。

この社会構成主義に依拠しているのがジョブ・クラフティングです。ジョブ・クラフティング行動の特徴は三つあります。

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第一のタスク境界の変更(changing task boundary)は、特定の職務においてこれまで求められていた内容を自ら工夫して変えてみるということです。

二つ目は、関係的境界の変更(changing relational boundnary)の変更です。これは顧客や同僚といった他者との関係性そのものや関係性に基づく行動を変えることを指します。

最後の認知的タスク境界の変更(changing the cognitive task boundary)は、物理的な変化がなくても自分自身の職務に対する捉え方が変わることを表しています。

ではこうしたジョブ・クラフティング行動の効果には何があるのでしょうか。

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この図は、Wrzesniewski and Dutton(2001)を読み込まないとわかりづらいと思うのですが、最も右側にある効果の部分に焦点を当てます。

二つほど書かれていますが、個人のエンゲージメントが上がることもなく、組織の生産性も上がらず、あくまで意味やアイデンティティの変容という個人の認識に終始しています。つまり、ジョブ・クラフティング自体は価値中立的なものに過ぎません。

え?だったら意味がない?そんな声も聞こえてきそうですね。でも、企業組織の視点に立った理論が経営学には圧倒的に多い中、個人の視点に立った概念だからこそ意義があると私は考えるのですが、どう思いますでしょうか?

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最後に、今回のまとめを書く上で参考にした文献をまとめておきました。私たちは原典の英語文献をもとに読書会をしながら、疑問に思っていたところが高尾先生の二本の論文に書かれていて「すげー!」となっておりましたので、特にオススメです。

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