【論文レビュー】横断研究と比較した縦断研究の特徴とは?:伊藤(2022)
『発達心理学研究』最新号の縦断研究特集がスゴイと噂に聞き、読み始めました。本特集号の最初に掲載されている伊藤論文は、内容を精緻に理解するにはあと何回か読む必要がありますが、横断研究と対比した縦断研究の特徴がわかるすごい論文でした。
縦断研究とは何か
まず、縦断研究の定義には様々なレイヤーでなされているために定まったものはないようです。その上で、本論文では「特定の対象について複数の時点におけるデータを収集し、継時的な変化を検証した研究」(177頁)としています。
一時点でのデータを分析の対象とする横断研究との相違としては、個人内の複数時点における時系列上の変化や関連に着目した分析を行えるという点がその特徴と言えます。言い方を変えれば、横断研究ではそうしたことは行えないというようにも言えるわけです。
こうした縦断研究の有効性は、「(1)年齢・コホート・時期の効果を分離できること、(2)個人内変動の軌跡とその個人差を定量化できること、(3)因果関係に関する手がかりを得られること」(177頁)に集約できると著者はしています。
(1)年齢・コホート・時期の効果を分離できる
一般的にわかりづらいかもですが、コホート(cohort)とは共通した因子を持った観察対象となる集団のことで、たとえば「同じ年(度)に生まれた人」などのことです。縦断と横断との相違については、著者が行った抑うつに関する小学生・中学生を対象とした研究では以下のように異なって現れたそうです。
ここでの縦断データの結果は、コホートや時期の影響を排除したものです。他方、横断データが表すものは、2011-2012年生まれの小学四年生、2010-2011年生まれの小学五年生…、といった具合に2021年時点での学年に関する抑うつ傾向を示すものなのでコホートの影響を受けています。縦断データと横断データの違いを、この図はくっきりと表していて、文字での説明よりもすごいインパクトを受けました。
(2)個人内変動の軌跡とその個人差を定量化できる
横断研究はあるワンショットでの全体像を掴むものであるのに対して、縦断研究では継時的な変化を追えます。そのため、一個人における変動の軌跡と個々人の差異を検証することができる、という点が縦断研究の強みです。
著者は、発達研究をされている方なので、こうした点のメリットは大きいのでしょう。このような特徴があるため、レジリエンス研究や適応研究において、縦断研究がなされていることを著者は指摘しています。
(3)因果関係に関する手がかりを得られる
孫引きで恐縮ですが、因果関係は、ミル(John Stuart Mill)が示した以下の三つを満たす必要があるとされています。(Cook, Campbell & Shadish, 2002; 伊藤, 2022)
仮説上の原因と結果が相関している
仮説上の原因が結果よりも先に生じている
観測された相関に関する他の説明を排除できる
横断研究では1はできますが、それ以外はできません。縦断研究では1と2ができて3は基本できないけど議論中という状況です。そのため、横断研究と比較した縦断研究のメリットは2、つまり因果関係を推論できるという点になります。
因果を推定する縦断研究のHOWについては、CLPM(交差遅延パネルモデル)やRI-CLPM(ランダム切片交差遅延パネルモデル)が本論文でも登場します。以前、両者について触れられた論文についてもざっくり紹介したので貼っておきます。
これ以上は、わかりません!記載内容に誤りがあったらごめんなさい。随時修正していきます!