リコリス・ピザ
前回の第93回アカデミー作品賞にノミネートされた作品8本のうち、「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」は日本では劇場未公開に終わり、いわゆるBlu-ray/DVDスルーとなった。また、「サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-」は授賞式から半年近く経って、やっと日本でも劇場公開されたものの、しばらくは配信のみの公開となっていた作品だ。
それに対して、今回の第94回アカデミー賞の作品賞にノミネートされた作品は10本全てが日本でも劇場公開された。
作品賞を受賞した「Coda コーダ あいのうた」はApple TV +の配信作品だが、日本ではギャガ配給作品として一般公開された。
Netflixの2作品「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「ドント・ルック・アップ」は配信開始に先駆けて、イオンシネマやミニシアターなどで先行上映された。
ワーナーの2作品「DUNE/デューン 砂の惑星」と「ドリームプラン」は海外では劇場公開と同時にHBO Maxで配信されたが、同サービスは日本ではローンチされていないので、普通に劇場公開された。
そして、残りの5作品は普通の劇場公開だ。といっても、ディズニー配給の2作品「ナイトメア・アリー」と「ウエスト・サイド・ストーリー」は最近のハリウッドのメジャースタジオの方針に則り、劇場公開から配信やBlu-ray/DVDのリリースまでの期間は短いが。
なので、従来通りの公開のされ方をしたと言ったいい作品は、日本映画の「ドライブ・マイ・カー」を除くと、「ベルファスト」と本作「リコリス・ピザ」だけということになる。
そして、この10本の中で最も日本公開が遅くなった作品が7月公開の本作だ。
前回は劇場未公開の「ユダ&ブラック」や配信先行公開の「サウンド・オブ・メタル」を除くと、最も日本公開が遅くなったのは、やはり、7月公開の「プロミシング・ヤング・ウーマン」だった。
コロナ前の2019年に米国公開された作品が対象の第92回の候補作品は、コロナの影響で日本公開が延期され6月公開になった「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」が“大トリ”だった。コロナの影響がなければ3月公開予定だったが、この時は予定通り公開されても、“大トリ”は変わらなかった。
候補作品の公開が遅れやすい日本でもコロナに全く関係なかった第91回は4月公開の「バイス」が最終走者だった。
ちなみに、その前の第90回は6月公開の「レディ・バード」がシメを飾った。
ここ5回を振り返ってみると、8月以降の公開、ましてや、本国での公開から数えると2度目の年越しとなる時期に日本公開となるような極端な遅延作品は出ていないようだ。
日本で劇場公開されたアカデミー作品賞ノミネート作品は第75回以降全て見ているので(配信のみ、Blu-ray/DVDスルーになったものでは未見のものもある)、7月くらいまでに一通り見ることができた時は一安心できる。
そんなわけで、本作「リコリス・ピザ」を見たことにより、無事、第94回アカデミー作品賞ノミネート作品全てを劇場で見終えることができた。
全10本をランク付けするとこんな感じかな。
「ベルファスト」
「Coda コーダ あいのうた」
「ウエスト・サイド・ストーリー」
「ドント・ルック・アップ」
「ドライブ・マイ・カー」
「DUNE/デューン 砂の惑星」
「ドリームプラン」
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「リコリス・ピザ」
「ナイトメア・アリー」
「ベルファスト」は朝ドラを金をかけて映画化したって感じで親しみやすくて良かった。
「Coda」は配信映画史上初のアカデミー作品賞受賞作になったのも納得という感じかな。配信映画にありがちな冗長感がなかったしね。
今回は作品賞候補の枠が最大10本ではなく、条件なしの10本となったから、上記の10本が選ばれたけれど、前回同様、8本枠だったら、「リコリス・ピザ」と「ナイトメア・アリー」は選ばれなかったと思う。
便宜上、面白いと思った場面や感心した場面の多さなどで、「リコリス・ピザ」を9位にしたけれど、実質的には「ナイトメア・アリー」とタイで最下位としてもいいくらいだった。
正直なところ、この作品を絶賛している人は、評価しないとセンスのない奴、老害と思われてしまうから評価しているフリをしているだけだと思う。ポール・トーマス・アンダーソン作品って、そういうところあるよね。日本だと、三谷幸喜とか宮藤官九郎の作品にもそういうところがあるけれどね。
とりあえず、いかにも賞レース受けしそうな要素を次から次へと盛り込んだだけの作品だった。
ユダヤもので、ギョーカイものだからね…。
最近は、黒人や女性、同性愛者に対する差別を描いた作品の方が評価されやすいが、ひと昔までは、ホロコーストを含むユダヤ人に対する差別を描いた作品が賞レースで評価されやすかった。
また、アカデミー作品賞のノミネート枠が拡大された2009年度以降の13回に限定しても、映画、演劇、音楽、マスコミなどクリエイティブ職を描いた作品が6回も作品賞を受賞している。
ハリウッドという芸能界はユダヤ人を中心に回っているとされているので、ユダヤ人を描いた作品やギョーカイものが評価されやすいのは当然といえば当然だ。
それから、実在の人物や歴史上の出来事と架空の人物や出来事をミックスさせた作品も賞レースでは評価されやすい。最近のアカデミー作品賞ノミネート作品では、ユダヤものでは、「イングロリアス・バスターズ」、ギョーカイものでは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(いずれもクエンティン・タランティーノ監督作品)がそうだが、本作もそうしたタイプの作品だ。
さらに、不当な逮捕をする警察官の描写はBlack Lives Matter、女優志望のヒロインにオーディションで胸を出せるかと聞いてきたりするのはMeTooを想起させる。
そして、このヒロインがボランティアを務めている市長選候補者が同性愛者である事実をパパラッチにつかまれないために、ヒロインに自分の恋人と付き合っているフリをしろと請願するシーンもある。これは同性愛者に対する差別や偏見を描いたシーンということになるのかな?
そうした要素に加えて、懐メロもたっぷり使われているんだから、そりゃ、ある要素は自分にはピンと来なくても、他の要素に関しては、“あの部分はいいよね”ってなるよね。
でも、詰め込み過ぎ!
それから、アジア人蔑視と批判されたりもしていたけれど、それも納得。
英語が分からない日本人妻と結婚している日本語の分からない白人ビジネスマンの描写なんて完全にアジア人蔑視。しかも、この白人はすぐに妻を変えるが、次の妻も英語が分からない日本人だし、しかも、前の妻も今の妻も日本語しか話さないけれど、その日本語も日本人からすると、かなり失礼な話し方だしね。日本人やアジア人に対する差別や偏見がないという言い訳はできないほど酷い描写だった。
ところで、本作のヒロイン役は姉妹ロックバンド、ハイムの末っ子メンバーであるアラナが務めているが、姉役や父母役が実際の姉や父母というのは面白いよね。
そして思った。ハイムって、ノーブラでMVに登場し、しかも、乳首が勃ちまくりだから服の上からでも乳首の位置や大きさがクリアになっているというイメージがあるが、本作でも、ノーブラで乳首勃ちまくりのシーンが結構あったよね。ブラジャーで締め付けられるのは女性の権利侵害だみたいな主張なのかな?
そういえば、ショーン・ペンとかブラッドリー・クーパーとかトム・ウェイツとか、何気に豪華キャスト作品だった。
あと、ピザが出てこなかったな…。まぁ、リコリス・ピザというのはレコード店の名前らしいが、レコード店も出てこなかったよね。
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