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ラーヤと龍の王国

今回のディズニーの新作映画「ラーヤと龍の王国」は邦画大手3社(東宝・東映・松竹)が運営するシネコンなどでは上映されない。

その一方でユナイテッド・シネマやイオンシネマといった映画が本業ではない企業の運営によるシネコンや、グランドシネマサンシャインのような独立系のシネコンではこれまで通り上映される。

そして、普段はディズニー映画の新作を上映することなどないミニシアターのシネマカリテやシネクイントでも上映される。

そんな異常事態になっているのは、確実にディズニーの最近の映画館軽視策に対する映画興行界の反発が背景にあるとは思う。

まぁ、「ラーヤ」を上映しないくせに「ファンタジア」のリバイバル上映は行う松竹のやっていることは中途半端な気もするけれどね。

圧倒的なシェアを持つ東宝や、アニメや特撮では頑張っている東映に比べると、確実に売れるというものがない松竹としては、本音では「ラーヤ」を上映したかったが、同じ大手の東宝や東映と足並みを揃えざるをえないから、変わりに「ファンタジア」のリバイバル上映で何とか本来得られるはずだったディズニー映画上映分の利益を少しでも取り戻したいという思惑が透けて見える気はするかな。

というか、松竹は国産アニメのイベント上映作品で、公開開始と同時に館内ショップでDVDやブルーレイを売っている作品も多いから、あまり、ディズニーのことを言えた立場ではないと思うんだけれどね。まぁ、東宝に同調しないと業界で不利になるから足並みを揃えたんだろうね。

Netflix映画が邦画大手3社系のシネコンでは上映されないのも、劇場公開と配信開始が同時となった日本映画「劇場」が日本アカデミー賞の審査対象外なのも同じような理由なんだろうね。

とはいえ、邦画大手系の映画館がディズニーの新作をボイコットする気持ちも分かるんだよね。

ディズニーのアニメーション映画の実写版「ムーラン」は何度か公開延期された上に最終的には劇場公開を見送り、Disney+での独占配信となってしまった。しかも、Disney+契約者なら誰でも見られる形ではなく、追加料金が必要なプレミア作品として配信された。

それまで、予告編を流したり、館内でディスプレー展開をしたりして、プロモーションを行ってきた劇場や、そうした予告編やディスプレーを見て劇場での鑑賞を楽しみにしていた映画ファンに対する配慮が欠けていると言われても仕方ないとは思う。だから、日本に限らず、海外でもディズニーに対して怒りの声をあげた人は多かった。

でも、映画の製作や配給、興行は慈善事業ではない。だから、コロナ禍という通常のやり方が通用しない世界になったのだから、まずは自社が潰れないことを考えるのは企業としては至極当然のことなので、ディズニーは守銭奴だと批判するのは違うとは思う。

とはいえ、日本の映画館や映画ファンからすれば、欧米ほどコロナの感染状況は悪化していないんだから、せめて、数週間の先行上映でもいいから、映画館で流して欲しかったというのが本音ではなかろうか。

ここ最近のディズニーの実写化作品(続編的・スピンオフ的な内容のものは除く)は、2015年の「シンデレラ」が57億円、2016年の「ジャングル・ブック」が22億円、2017年の「美女と野獣」が124億円、2019年の「ダンボ」が10億円、「アラジン」が121億円、「ライオン・キング」が66億円などといった具合にヒット作が相次いでいる。

「ムーラン」はアニメーション版の興行成績は日本では、「美女と野獣」、「アラジン」、「ライオン・キング」といった辺りからはだいぶ落ちてしまうが、アニメーション版の日本での知名度が低い「ジャングル・ブック」が好成績をあげる一方で知名度の高い「ダンボ」がかろうじて、10億円台になっていることを考えれば、必ずしもアニメーション版の興行成績と実写版の興行成績はイコールではない。なので、実写版「ムーラン」はどんなに低く見積もっても、実写版「ダンボ」の興収10億円は稼げたはずである。

実写版「ムーラン」の配信開始と同時期に劇場公開された「テネット」が難解な話で、しかも長尺であるにもかかわらず、コロナ禍になって久しぶりに海外とリアルタイムで公開されるハリウッド大作ということで興収27億円の大ヒットとなったことを考えれば、実写版「ムーラン」だって、そのくらいの数字を稼げた可能性はあったと思う。

また、ピクサー作品「ソウルフル・ワールド」もコロナの影響で公開日程が変更された上に、「ムーラン」のように追加料金は発生しないものの、最終的にはDisney+での配信という形に変更されてしまった。

米国ではコロナが深刻化する前にギリギリで公開されたものの、日本ではそこまでに公開できなかったために去年の夏公開となった「2分の1の魔法」は興収8億円台とふるわなかったが、コロナ禍になる前でいえば、興収が10億円台に届かなかったピクサー作品は「メリダとおそろしの森」だけ。

「ソウルフル・ワールド」と雰囲気も近く、監督も同じである「インサイド・ヘッド」が興収40億円を記録していることを考慮すれば、コロナ禍なので、そこまでのヒットとはいかなくても、20億円台は期待できたのではないかと思う。コロナ禍公開となり、出来もイマイチな「2分の1の魔法」ですら、8億円台に乗せられたのだから。その分がごっそり消えたのだから、予告編を流したり、ディスプレー展開したりしていた劇場が怒るのは「ムーラン」と同様だと思う。

また、これ以外にも日本での大ヒットは期待されていなかったかもしれないが、「アルテミスと妖精の身代金」、「ゴリラのアイヴァン」も劇場公開を見送り、Disney+配信作品にしている。

こうした“配信スルー”が続いているので、ディズニーは映画館の存在を軽視していると映画館や映画ファンが思うのは当然のことだと思う。

ユニバーサルが米国でやっているような、とりあえず劇場公開して、数週間後に配信するとか、ワーナーが米国でやっているような、劇場公開できない地域のことも考えて、とりあえず、劇場公開と同時に配信を開始するけれど、配信は1ヵ月で一旦停止にするみたいなやり方なら、まだ、コロナ禍だから仕方ないよねって気持ちになれたのかなって気はするかな。

そんなこともあって、今回の「ラーヤ」は、“配信スルー”ではなく、米国でも日本でも劇場公開とDisney+の同時配信を行うという米国でのワーナーのやり方に近い形を取ることになった。

とはいえ、同時配信では劇場へ足を運ぶのを見送る人が出てくるのは当然だから、劇場側は全面的には歓迎できないと思う。

というか、これまでの度重なる裏切り行為に対して劇場側としては“許せない”って思いが強いし、特に邦画大手系の劇場からすれば、強敵・ディズニーが去ってくれれば、自社作品のシェアが上がるという思いもあるだろうから、今回は見せしめ的に上映拒否をしたってところなのかな。

というわけで、アート系ではないハリウッド・メジャー作品を今年初めて劇場で見ることになったが、ディズニー映画の新作にもかかわらず、劇場はガラガラだった。日本劇場公開のディズニー・アニメーションでここまで、ガラガラだったのって、「トレジャー・プラネット」以来な気がするな。

作品自体は、「アナと雪の女王」以降のディズニー作品で顕著になっているポリコレ路線を突き進めたって感じかな。全体としては、悪くはないけれど、物足りないって感じはするし、テンポは悪いかなって気もした。

本作は、ジョン・ラセターが関与していない最初のディズニー・アニメーションということだが、やっぱり、ラセター抜きの影響は出ているのかもしれないな。80年代末から90年代前半にディズニーが復活した際の立役者、ジェフリー・カッツェンバーグが追い出されても、ディズニーは何とか持ち堪えたけれど、今回もそのようにうまくいくのかどうかは、今回の「ラーヤ」を見ただけでは不安要素の方が多いかなという気もする。

今回のポリコレ描写に関して一番気になったことは国家間の対立の描き方かな。対立する国々(部族?)が協力できるか、信頼しあえるかという話だったが、舞台がアジアらしいということで、嫌でも“大東亜共和圏”とか、“一帯一路”といった言葉を思い浮かべてしまった。

まぁ、本作の舞台は正確には東南アジアのようなので、日本や中国をメインに語るのは違うかもしれないが、でも、キャラクターの中には東南アジア系とはちょっと違うタイプの者もいたし、悪役とされる国(部族)が歴史を捏造して子どもたちに教えていたりする様子を見れば、嫌でも日韓関係を想起してしまう。そして、この悪役、ちょっと韓国人っぽいルックスなんだよね…。

もしかしたら、“お前らアジア人は基本的には同じ文化なのに隣国同士いがみあってんじゃねぇよ!”みたいなことをこの映画は言いたいのだろうか?

日中、日韓、中韓と対立はあるけれど、よく考えたら基本は日本も中国も韓国も同じような食生活だしね。味付けが違うだけでね。

それ以外にも、中台、中香、南北、印パなどの対立があるが、欧米人から見れば、何、同じような連中同士でいがみあってんだって感じに見えるのかもしれないね。そんなことを言いたくなる映画だった。

それから、敵も味方も女性中心になっているってのは、ここ最近の女性活躍推進の流れなんだろうけれど、そうした国や地域ごとの対立をぼやかすためにやっている部分もあるのかなとは思った。

そんな作品だけあって、本作は世界的に活躍しているアジア系女性の参加も目立っている。

「スター・ウォーズ」のローズ役で世界中のSWファンからバッシングされたケリー・マリー・トランが主人公の声を担当しているのはどうなのかとは思う部分もなきにしもあらずだが、主題歌担当のジェネイ・アイコやドラゴン役で声の出演をしているオークワフィナは納得の人選だと思う。

まぁ、ジェネイ・アイコによる主題歌の歌詞は、映画の内容そのものを歌っていて、いかにも昔ながらのアニメ主題歌って感じだったけれどね。

それから、オークワフィナの演技、声だけ聞いていると、米国の黒人コメディアンかラッパーに聞こえるな…。「ムーラン」のエディ・マーフィ的ポジションなのかな?

あと、詐欺師赤ちゃんの可愛さは必見!

そして、併映の短編「あの頃をもう一度」は感動的な作品だった。まぁ、台詞はないから、ほとんどMVみたいな感じだし、実際、MVでこういうストーリーのものをよく見かけるから、目新しさはないけれどね。そして、メインの老夫婦をはじめ、モブキャラにも異人種間カップルが多いのが、ちょっと気になった。ポリコレを意識しているんだろうね。

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