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日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』

このドラマ版「日本沈没」は、去年、ネット上で酷評された、もしくはネタにされたNetflixアニメ版「日本沈没2020」が傑作に思えるほど酷い出来だった。

多くの人がそのように感じる最大の理由は、震災をテーマにしながら、震災発生の瞬間の描写はほんの一瞬しか描かれないし、街中がパニックになっているようなシーンもほとんどない。さらに、発生後の被災者の格好もきれいすぎて全然リアリティがない。そういうところではないだろうか。

「日本沈没2020」はネトウヨからもパヨクからも批判したくなるような描写が多かったものの、震災発生の瞬間の描写はグロいものも含めて描かれていたし、被災者についてもエゴに満ちた連中や差別的な連中、その他にも謎の新興宗教(と大麻入りカレー)に救いを求める連中なんてのも出てきて、きれいごとにはなっていなかった。しかも、主人公は大地震発生時の負傷で片脚を切断することになる。頭に包帯を巻いただけであっという間に日常に戻っている本作の主人公とは大違いだ。

「日本沈没2020」はNetflix配信作品だから、震災絡みの描写ができたんだという意見を言う人もいるかもしれない。
本作はネトフリでも配信されているが、あくまでも地上波のTBSで放送するドラマだから、色々と配慮が必要でリアルな震災の描写ができないのだとは思う。

東日本大震災発生以降、日本のエンタメ作品、特に地上波で放送されるドラマや全国公開される映画では、東日本大震災を題材にしたものに限らず、架空の地震を描いたものでも、地震発生の瞬間やその後の被災地の様子をはっきりと描くのを避ける傾向が強い。
最近の作品でいえば、朝ドラ「おかえりモネ」、映画「護られなかった者たちへ」、アニメ映画「岬のマヨイガ」などがそうだ。

それは、被災者がPTSDを引き起こさないための配慮であると制作側は主張するし、見る側も“それでいいんだ”と容認する傾向が強い。
でも、それだったら、大震災を題材にした映画なんて作るんじゃないよって個人的には思うかな。

本当、日本のエンタメ界やマスコミの“自主規制”は過剰だと思う。

国内の出来事のみならず、米国で起きた同時多発テロですら、飛行機が世界貿易センターに突入した瞬間やビルが崩れる瞬間のニュース映像の使用を日本のテレビ局は自粛しているからね(さすがに今年は発生から20年の節目の年だから、お断りのスーパーなどを入れた上で限定的に使用していたけれど)。

同時多発テロを描いたアメリカ映画で、テロ発生の瞬間やその後の惨事を全く描かないなんてありえないんだけれどね。その辺、日本は本当におかしいと思う。結局、視聴者とか観客からのクレームが来ると嫌だから逃げているだけなんだよ!

なので、そういう風潮に流されてこのドラマではパニック描写、スペクタクル描写は限定的になっていた。そんな内容でネトフリ経由で世界配信するなんてハジもいいところだ。

その結果、室内での会議のシーンや(各省庁が集まって行う会議が若手ばかりなのは不自然の極み)、大震災発生の可能性の情報を隠蔽しようとする権力側を追及する主人・・ジャーナリストらの描写だらけで、それに加えて時々、視聴者をスカッとさせるために、権力側に罰を下す場面が織りまぜられるといった構成になってしまった。

要はゴジラ上陸でうろたえる権力側の会議のシーンだらけの「シン・ゴジラ」や、スキャンダルを隠蔽しようとする政府を追及するジャーナリストを描いた「新聞記者」といった日本アカデミーの最優秀作品賞を受賞した近作をパクり、それに「半沢直樹」の大ヒット以降、本作の放送枠である「日曜劇場」の多くのドラマで取り入れられている下克上的カタルシス(「ドラゴン桜」ですら、この路線になってしまった)のテイストをミックスしただけなんだよね。

でも、天災の描写が少ないとか、室内の会話シーンばかりということだけが本作がつまらない理由ではないような気がするんだよね。

ネトフリ配信の米映画「ドント・ルック・アップ」は、彗星衝突によって地球が壊滅状態になるという話だけれど、ほとんどが室内での会議シーンとかテレビのトークショーの場面だし、地球壊滅の危機の情報を政府が隠蔽しようとする描写なんて本作とも共通している。そして、権力側に鉄槌が下される半沢的カタルシスもある。しかも、スペクタクルなシーンもわずかしかない。要は構成的には本作と近いんだよね。

でも、「ドント・ルック・アップ」はめちゃくちゃ面白いのに、本作はイマイチなんだよね。

結局、脚本、演出、撮影、演技といった基本的な部分が本作はなっていないってことなんだろうね。

まぁ、日本が沈没する大震災を描いているようでいて、本当はコロナ対応に右往左往する政治家や専門家、マスコミ、一般人を描いているんだろうなというのは分かるけれどね。
それは、「ドント・ルック・アップ」にも言えることだけれど。

それにしても、「ドラゴン桜」もそうだったけれど、最初は老害ネトウヨに媚びたような右寄りが喜びそうな目線で描いておきながら、その後は権力批判の左寄りの目線に変わるという構成のドラマって最近目立つよね。
世の中の多くの人間は、いくら自民党がデタラメなことをしても、政権批判する野党の方を毛嫌いするので、初っ端から権力批判すると敬遠されてしまうから、ある程度、登場人物や世界観に親しませてから権力批判に転じるという構成にしているんだろうね。

麻生と二階をミックスしたような副総理を“悪役”として登場させたのは明らかに、コロナ禍の日本政府の対応(Go Toや五輪などを含む)を批判する目的だろうしね。
でも、その“悪役”を終盤では実力者として描き、逆にその“悪役”のせいでやりたいことをやれなかった総理大臣を“無能”扱いしたりする場面もあるんだから、本当、この作品の政治スタンスは行ったり来たりなんだよね。
まぁ、その辺が良くも悪くも日本っぽいんだけれどね。
でも、海外に配信する以上は徹底的に老害政治家は“悪役”にしないと評価されないと思うな。

まぁ、総理の殺害計画を企てたテロリストが株価に一喜一憂していたってのはリアリティあるよね。本当、ネット民ってネトウヨだろうとパヨクだろうと経済ニュース好きが多いからね。

コロナといえば、最終回ではコロナもどきの疫病がはやり、日本人を移民として受け入れるのを各国が停止するという描写があっあが、ネトフリで世界配信するんだったら、はっきりとコロナと言った方がいいと思うんだよね。

日本のドラマやアニメ、映画って、権利関係をクリアにしたり、訴訟騒動が起きた時に対応する金も時間もないから、固有名詞を紛い物みたいな名前に変えることが多いけれど、それではリアリティが出ないんだよね。

しかも、最初は日本人移民が世界にばら撒いたみたいな疑惑があったのに、最終的には日本人移民を受け入れていない地域でも発症していることが分かったという描かれ方もしているということは完全にコロナなわけだしね…。

はっきりと、コロナはコロナと言うべきだと思うな。

まぁ、それだと、中国“発症”のウイルスなのに、本作では日本人のせいで広まったという疑惑が巻き起こるというストーリー展開にしているので、それは無理もいいところってなるけれどね。

それから、日本が沈没すると言いながら、最終的には北海道(+青森)と九州だけ残ったのは何の配慮なんだ?

北海道はアイヌ差別につながるから?九州を沈めると、近隣諸国(中国や韓国など)への影響も大きく、そうした国々からクレームを受けるから?
もしかすると、本作の脚本家は北海道出身らしいから、本州と四国の人間が嫌いなのかな?

まぁ、四国というか愛媛の人間の排外主義みたいなのはよく描かれていたよね。夏目漱石の「坊っちゃん」を読んでも分かるように愛媛って、差別的・排他的な風土だからね。
うちの死んだ父親も本作の主人公の実家がある愛媛・宇和島出身だけれど、主人公の母親同様、外国嫌いな思想だったからね。

外国人だらけの海外になんか住みたくないって思うのは、宇和島の連中なら、まぁ、そうだろうねと納得できる。

それから、町ぐるみで同じ考えでないと移民できないってのは、宇和島に限らず、日本中の町で起きている同調圧力だよね。
自民党に投票しないと村八分にあうみたいな感じで、本作の宇和島の人たちは、周囲が移民政策に否定的だから自分も否定するって感じになっていたんだろうね。その描写に関してはリアリティはあったと思う。

でも、全体的にはありえない描写だらけだったな…。

最終回限定の指摘だけでもおかしなことだらけだ。

日本沈没直前なのに、つまり、大地震が多発しているはずなのに、移民する人たちが船で脱出するって何を考えているんだ?

あと、香川照之演じる研究者がラスト・シーンで環境問題に関して、「沈黙の要塞」のセガールばりに大演説をかますけれど、その直後に飲みかけをその辺の海岸に捨てているのは意味不明でしかない。
まぁ、セガールも環境問題を語っておきながら、あちこちで大爆発させるいう矛盾だらけのことをしていたけれどね。
本当、SDGsとかESGとか訴える連中のうさんくささってこういうことだよねって思う。

それから、マツケン演じる主人公の友人の官僚は何とか沈没を免れた北海道に残ることになったけれど、それって、結婚もしていない、子どももいない奴は、結婚している人や子どもがいる人の分まで働けってことですか?
まぁ、18歳以下の子どもがいる世帯限定の給付金支給の方針を出しているこの国の政府を見ると、世の中にはそういう考えの連中が多いってことなんだろうね…。クソだな!

最終回に限定しないシリーズ全体の話でいえば、街中の様子が日常の風景にしか見えないのが最大のおかしな描写だよね。
まぁ、金や時間がないんだろうね。
日本の民放テレビドラマでもっとも、予算がかけられると思われている日曜劇場の作品ですら、このレベルなんだから、そりゃ、韓国のドラマとの差がどんどん広がっていくわけだよね。

あと、主人公の妻は何なんですか?
主人公は確かに仕事で忙しいけれど、決して、家事や子どものことを疎かにはしていなかったよね?なのに、不倫して、その不倫相手と再婚したいから離婚するってジコチューもいいところ!
しかも、その再婚相手がコロナもどきの病気で死んだ途端、会いたいとか言ってくるし、マジで“○ね!”としか思えないキャラクターだった。

そして、何よりも酷いのは、与田ちゃんの扱いだ。チラッと出てくるだけだからね。台詞がない回だってあった。というか、全く出てこない回もあったしね。結局、客寄せパンダにしているんだよね。
というか、地上波放送での視聴率稼ぎのためではなく、与田ちゃん主演の配信限定スピンオフドラマに誘導するための客寄せパンダ。

しかも、このスピンオフ、本編同様、ネトフリで配信しているならまだしも、TBSとテレ東でやっている有料配信サービスParaviでしか配信していない。本当、タチが悪い!
腹立ったから、どんなに与田ちゃんが可愛いくてもParaviなんか契約したくないから、スピンオフは見ていないけれどね。

しかも、本線の方の後日談をこのスピンオフに織りこむってナメてんのか?本線を地上波やネトフリで見ていた人に対する侮辱行為もいいところだよね。

日テレドラマがよくやる“続き(完全版)はHuluで”商法は毎回、視聴者を呆れさせるけれど、“ドラマのTBS”と呼ばれる局で、もっとも、予算も視聴率もある枠の番組でコレをやるなよって感じだね。

そういえば、日曜劇場絡みでいえば、「ドラゴン桜」でもParaviで未公開映像入りバージョンで配信していたな…。

そういうことばかりするから、地上波の視聴率は下がるし、地上波主導の配信サービスの加入者も増えないんだよ!

感想を一言でいえば、日本のテレビ局、配信サービス、ドラマ制作現場のダメなところが凝縮されたクソドラマだったって感じかな。

※画像は番組公式ホームページより

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