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SING/シング:ネクストステージ

2017年3月に日本公開された前作はその年の自分の洋画ベスト作品に選んだくらい高く評価している。
同時期には、同じく2016年度作品でありながら、日本公開が今頃の時期になったディズニーのミュージカル・アニメーション「モアナと伝説の海」や、アカデミー作品賞にノミネートされた(受賞未遂騒動もあったが)実写ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」も公開されたし、こちらは2017年度作品だけれど、実写版「美女と野獣」も近い時期に日本公開されている。
その強豪揃いの4作品の中で個人的に最もミュージカル映画として優れていると思ったのが本シリーズの前作だった。
「モアナと伝説の海」はストーリー展開のテンポがどうも自分には合わなかったし、「ラ・ラ・ランド」は作中のミュージカル・ナンバーの数も少なく尺も短いので、ミュージカルとしての醍醐味には欠けている(作品としては悪くない。というか、クリエイティブ職の人間、もしくは経験者なら共感せずにはいられない作品になっている)。「美女と野獣」は良い出来だとは思うが、所詮はアニメーション版をちょっと長くして実写化しただけ。

なので、ほとんどが既存曲で構成された、いわゆるジュークボックス・ミュージカルではあるものの、ストーリー展開のテンポ、音楽を味わったという醍醐味、社会的メッセージ、オリジナル性などを考慮すれば、前作が最も出来が良かったと言わざるを得ないと思った次第である。

これら4作品がいずれも日本でも大ヒットとなったことから、ミュージカル映画は日本で当たるという説が映画興行界には定着することになった。

実際、翌2018年に日本公開された作品では、「グレイテスト・ショーマン」、アニメーションの「リメンバー・ミー」、厳密には音楽映画だけれど、「ボヘミアン・ラプソディ」や「アリー/スター誕生」がヒットしている。

2019年は「アラジン」、「ライオン・キング」、「メリー・ポピーンズ リターンズ」といったディズニーの実写作品や、ディズニーのアニメーション作品「アナと雪の女王2」、音楽映画の「グリーンブック」がヒットしている。

2020年はコロナ禍に入る直前に日本公開された「キャッツ」が海外で酷評され、ラジー賞ではワースト作品賞を受賞したにもかかわらず、ヒットしている。

ところが、コロナ禍になってから、ミュージカル映画は全然、日本ではヒットしなくなってしまった。

Netflix配信作品を劇場で先行上映した「tick, tick... BOOM!:チック、チック...ブーン!」は置いておくとしても、ワーナーの「イン・ザ・ハイツ」は興収2億円以下、ユニバーサルの「ディア・エヴァン・ハンセン」はかろうじて2億円を超えた程度。
ディズニーのアニメーション作品だって、ディズニーの配信優先策に対して東宝・東映・松竹が反発していることから、上映をボイコットされた「ラーヤと龍の王国」は2億円台。上映されてもまともなプロモーション展開をされなかった「ミラベルと魔法だらけの家」は7億円台で終わっている。
「モアナ」は51億円超、「アナ雪2」に至っては133億円超という記録的なヒットを飛ばしていたのにね…。

まぁ、若年層を中心にディズニー映画は配信で見るもの、つまり、ネトフリやアマプラのオリジナル作品と同じ扱いになってしまったということなんだろうね。

以上の作品は2021年の日本公開作品だが、今年に入っても、その傾向は続いている。わざわざ、アカデミー賞のノミネートが発表される時期に日本公開を延期までしたのに、「ウエスト・サイド・ストーリー」は現時点では興収8億円台だ。既に上映規模も縮小されているので、まもなく発表されるアカデミー賞で作品賞を受賞しない限り(可能性は低い)、10億円の大台突破は難しいと思う。

また、ミュージカルに限らず海外アニメーション映画の興行成績もコロナ禍になって、日本ではふるわなくなってしまった。
それは、配信シフトに入っているディズニーだけではない。日本では少なくとも劇場公開が優先されている他社作品でもそうだ。
「ボス・ベイビー」の1作目は2018年に日本公開され、興収34億円超の大ヒットとなったが、昨年末に公開された続編は10億円の手前で止まってしまっている。

つまり、ミュージカル視点であっても、海外アニメーション視点であっても、本作が前作のように興収51億円超を記録するのは難しいということだ。

そもそも、コロナ禍になってから(映画興行的には2020年2月下旬から)日本公開された洋画で興収10億円を突破した作品は数えるほどしかない。
コロナ禍になってからの洋画最大ヒット作品である「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」を含めても、現時点で興収10億円を突破した作品は9本しかない。

おそらく、本作も前作なみのヒットは期待できないのではないかと思う。「ボス・ベイビー」の続編が3分の1以下の成績になったことを考えると、興収15億円くらいをあげられれば、まぁ、成功と言っていいレベルなのかもしれない。

というわけで、実際に本編を見てみたが、前作に比べるとミュージカル要素はちょっと薄くなったかなという気はする。

というか、劇中劇として登場したSFミュージカルをきちんと見てみたいと思ってしまった。
このSFミュージカルではアリアナ・グランデとゼッドのコラボ曲“ブレイク・フリー”が歌われているけれど、明らかに同曲のB級SF映画みたいなMVを意識したうえでの選曲であることは間違いないよね。

あと、ミュージカル・ナンバーとしてではなくBGMとしての使用だけれど、エルトン・ジョンの“グッバイ・イエロー・ブリック・ロード”って、本当、色んな映画に使われているよね。まぁ、主人公バスター・ムーンが劇場のレッド・カーペットを歩くシーンに使うのは違うんじゃないのかなとは思ったけれどね。イエローじゃないしね。

作品全体としては、かなりご都合主義でストーリーが進んでいる感は否めないけれど、まぁ、ミュージカルって、そういうものだから、そこは気にしないことにしておこう。

そして何よりも、本作の出来を良く感じさせてくれているのが、U2の楽曲だ。

隠遁状態のロック・ミュージシャン、クレイ役でボノが出演していて、そのミュージシャンの楽曲としてU2の楽曲が使われているという、若干メタな要素もあるが、ミュージカル・ナンバーとして使われた3曲はどれもストーリー進行にあったもので、選曲のセンスの良さに感心した。

オーディションで、前作から引き続き出演している面々がクレイとのコネが全くないのに、彼を出演させると約束するシーンでアッシュを中心に歌われる“約束の地”(約束という文言は原題にはないけれどね)。

過去にとらわれ、もがいているクレイの心を動かし、ステージ復帰を決意させる場面でアッシュによって歌われる“スタック・イン・ア・モーメント”。

実際に会場に来たものの、観客の前に出るのを迷っているクレイのためにアッシュが歌い出し、それに観客がシンガロングしはじめて、ついにクレイもステージに立つ(当然、ボノの歌声も加わる)という感動的なシーンで流れる“終りなき旅”。何しろ原題は“I Still Haven't Found What I'm Looking For”(自分が探しているものがまだ見つからない)だからね、まさに、このシーンに使うにはピッタリの選曲!

本当、U2って名曲が多いよねってのを改めて感じることができる作品だった。U2の曲だけでも泣けるしね。

まぁ、本作用の新曲“ユア・ソング・セイヴド・マイ・ライフ”はよくあるバラードって感じでU2としてではなく、ボノのソロ名義でも良かったんじゃないかなって気もするけれどね。
しかも、ラストに1コーラスとちょっと使われただけだから、アカデミー歌曲賞にもノミネートされていないしね。

とりあえず、クレイなど今回、バスター・ムーン一座に加わった新メンバーが今後どうなるのかはさておき、続きはいくらでも作れそうな終わり方になっていたので、続編を期待したいと思う。

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