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「波乗りかき氷」リリース10周年

音楽プロデューサー・作詞家としての秋元康の最高傑作は何かと聞かれたら(秋元康が関わった楽曲を良いと思ったことがない人なら代表曲という聞き方をするが)、おそらく、全世代を合わせた調査結果では、間違いなく“川の流れのように”(美空ひばり)が1位に選ばれるのではないかと思う。

また、現役世代の間では、“恋するフォーチュンクッキー”(AKB48)が圧倒的に支持されていると思うし、中年アニメファンに限定すれば、「機動戦士ガンダムZZ」の主題歌“アニメじゃない”(新井正人)が代表曲かもしれない。
40〜50代に限定すれば、とんねるずやおニャン子クラブ関連の楽曲を思い浮かべる人も多いだろうし、この世代はAKBグループも大好きだ。
20〜30代ならAKBより坂道シリーズの楽曲の方が好きだという人も多いだろう。
さらに、AKBグループ楽曲が好きな人の中でも、“恋チュン”よりは、“ポニーテールとシュシュ”だろ!とか、“大声ダイヤモンド”や“言い訳Maybe”の方が神曲だろ!と主張する人も多いと思う。

1982年に“ドラマティック・レイン”(稲垣潤一)がヒットして以来、多少の波はあったし、批判されることも多かったけれど、約40年間にわたってヒット曲を放ってきたのだから、秋元康の代表曲を簡単に決めるのは難しいことだとは思う。

そして、秋元康の代表曲を決めにくい要因の一つには、秋元康は作詞はするが、作曲や編曲はしないし、ミュージシャンやシンガーとしても活動していないという点もあげられると思う。

その辺が同じ80年代から活動している他のプロデューサー、小室哲哉や小林武史、つんく♂との違いだと思う。

秋元康楽曲というのは、コンペなどで寄せられた音源の中から自分の書いた歌詞に合うものをピックアップするという形式で作られることが多い。

作曲を行わない作詞家でも、作曲家と密に意見を交換しあって作品を作りあげていく人は多い。たとえば、バーニー・トーピンと作曲・演奏・歌唱担当のエルトン・ジョンの関係はそうだと思う。でも、秋元康はそういうタイプでもない。

だから、秋元康に対して、曲作りをしているというイメージが持たれないのだとは思う。

でも、そういうプロデュースの仕方のおかげで、秋元康楽曲の音楽性が実に幅広いものになっているのは事実だと思う。

そんな膨大な秋元作品の中から、自分が名曲だと思う楽曲を5曲選ぶと次のような形になる。

まずは、5位から2位まで。

⑤うしろゆびさされ組/うしろゆびさされ組
④恋するフォーチュンクッキー/AKB48
③川の流れのように/美空ひばり
②ポニーテールとシュシュ/AKB48

“川の流れ”も、“恋チュン”も、それどころか、ドルオタが大好きな“ポニシュ”もここまでに登場済みだ。

他人とは違うものを1位にしたくなる病というわけではないが、私が選んだ秋元康最高傑作はこちらだ!

①波乗りかき氷/Not yet

この7月6日でリリース10周年となるAKBの派生ユニット、Not yetの2ndシングルだ。
正直言って、最初、2011年夏にこの楽曲がリリースされるという情報を知った時は相変わらず、秋元康は常識のない不謹慎な奴だと思った。

この年の3月11日に東日本大震災が発生し、津波で大勢の犠牲者が出たのに、波乗りの歌を出す。それでも、まだ、波乗りを愛した人が大震災の津波で亡くなったみたいな追悼ソングならともかく、大震災絡みでもなんでもないアイドル系青春ラブソングなんだからふざけんなと思った。

ところが実際にフルコーラスで聞いてみると、本当、中毒性が高くて、あっという間に大好きな曲になってしまった。
まぁ、MVがよく出来ていたというのもあるけれどね。
ちなみに、私はこの曲のあたりから指オタになりました。多分、MVやジャケ写を見て、何かを感じたんだろうね。

この楽曲で一番感心したのは2番のサビに出てくるフレーズ。

洋楽、特に米英の楽曲ではミュージカル・ナンバーを除けば、1サビ、2サビ、大サビの歌詞は毎回同じというのが定番だ(非英語圏の洋楽だと、1サビと2サビの歌詞が違うものがある)。
だから、米国のラッパー、ロジックの2017年のヒット曲で自殺防止ソング“1-800-273-8255”が1サビ、2サビ、大サビと毎回、歌詞が異なり、しかも、サビが来るたびにストーリーが進んでいくという構成になっていたことには驚いたりもした。

一方、邦楽では、大サビは1サビの繰り返しだったり、1サビと2サビを混ぜたものだったり、あるいは、1サビ、2サビ、大サビが毎回異なったりと、曲ごとには違うものの、1サビと2サビの歌詞が異なるものが圧倒的多数となっている。

そして、テレビやラジオで耳にする機会が多い1番ではなく、2番の歌詞に作品の本質というか、作詞者の一番言いたいことをぶつけてくる作品も結構ある。本作はそのタイプだ。

実は本作の最も重要なキーワードは「波乗りかき氷」ではない。
これは歌詞の主人公が恋心を抱いている“彼”の一番好きなものと二番目に好きなものを並べたものに過ぎない。

2サビでは、1サビで作品タイトルを連呼していた部分が“山盛り待ちぼうけ”という言葉に置き換えられている。
一瞬聞くと、“なんだ、その変な言葉は?”と思ってしまうが、この言葉は、なかなか自分を見てくれない、波乗りどころか、かき氷よりも存在感の低いものとされている主人公の心情を見事に表現していると思う。

コミック・ソング的なフレーズを使いながら、切ない片想いを描写しているのだから、秋元康の作詞術は見事だと言わざるをえない。

そして、その後のブリッジ部分の
“私じゃだめかな? 私じゃだめですか?
 1番じゃなくても構わないからね”
というのも、コミック・ソング的フレーズと切ない片想いを見事に融合させている描写だと思う。

おそらく、蓮舫の“2位(2番)じゃだめなんですか?”が元ネタだとは思うけれどね。何気に秋元康は、歌詞に政治経済ネタをおりこむのが好きだしね。

そういえば、Not yetには(AKBグループにおける)最強ユニットというキャッチフレーズがついていたけれど、活動期間中にリリースしたシングルは1作を除いて全てオリコン1位だからね。しかも、唯一、首位を逃した“ペラペラペラオ”も2位。

渡り廊下走り隊(渡り廊下走り隊7時代を含む)やフレンチ・キスは1作しか首位を獲得していなかったし、ノースリーブスに至ってはトップ10入りを逃した楽曲もある。

そういうのを考えれば、ノイエの人気はすごかったんだなというのを改めて実感させられる。

そして、ノイエ結成当初は、前田敦子と人気トップ争いをしている大島優子を中心としたユニット、つまり、大島優子と愉快な仲間たち状態だったけれど、あっという間に他の3人のメンバーが実力者になっていったからね。

指原莉乃は、大島優子や前田敦子を上回る人気者になっただけではなく、HKT48の劇場支配人という肩書きのもと、プレイングマネージャーとしてコンサートの演出面にも関わったし、北原里英はNGT48のキャプテンを務めた。そして、遅れて加入した横山由依なんかは、2代目AKB48グループ総監督にまでのぼりつめた。

これだけ、リーダー格を輩出している上に全員がAKB総選挙のトップ10入りを果たしている。

そりゃ、こんなユニット、他にないよねって感じかな。

それだけのスーパーユニットなのに、正式なコンサートを一度も行うことなく活動停止してしまったのは残念だ。
唯一行われたコンサートはアルバム購入者から抽選で選ばれた者のみが鑑賞できるという販促イベントみたいなものだったからね…。しかも、その公演をもって活動停止となってしまった…。

席は悪かったけれど、運良くその公演を見ることができたのはラッキーだったが、でも、そのライブ以来、新曲を出したりすることがないのは残念だな…。

そんなわけで、私が一番言いたいことは、“波乗りかき氷”は秋元康作詞・プロデュース作品のみならず、Not yetにとっても、そして、アイドル・作詞家・プロデューサーの全ての活動を含めた指原莉乃参加作品の中でも最高傑作だということ。

それから、もう10年というのは、本当に月日の経過のはやさに驚くばかりだ。


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