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ルックバック

本作は上映時間58分という短さでありながら1700円均一といった“ぼったくり”料金を取る、いわゆるイベント上映作品だ。基本的には原作やボイスキャストのファン、アニメならなんでも見るような人以外が見ることはまずないだろう。だから、映画レビューのようなサイトにはあまり意見が載らないし、載ってもマンセー的なコメントが中心となる。きちんと映画として見られていないからだ。

この作品を一言で言えば、2人の女性漫画家による「ラ・ラ・ランド」だと思う。
ある人にとっては成功したと思えた人生も、もう1人の視点からするとそうではなかったのかも知れない。2人が仲違いすることなく揃ってうまくいく世界があったのではないかというifの世界が終盤に描かれる(というか、こちらが本当の世界ではないかと見ている者に思わせる)一方で、その後に本来のストーリーの時間軸の延長線上にある展開を見せて、結局は現実を受け入れるしかないよねと思わせるところは似ている。
自分より格下と思っていた者が自分の実力を上回り、自分のもとを離れていくという展開も似ている。

まぁ、あえて異なる点を挙げるとすれば、「ラ・ラ・ランド」とは異なり、社会的には実力があった方が不幸な目にあっているということだろうか。とはいえ、その元相棒が不幸な目にあったことで、主人公が彼女を自分のパートナーとして巻き込まなければ殺害されるという不幸な目にあわなくて済んだのではと悩み、一時は仕事もできなくなるのだから、基本コンセプトは同じだと思う。



それから、「ラ・ラ・ランド」は男女の話にしてしまったせいで、一般観客の間では性差による評価の差が出てしまったが、本作にはそういうのがないのも特徴だ。
「ラ・ラ・ランド」を巡る評価については、成功したのは女性、成功できなかったのは男性ということで、女性観客がヒロインの視点で見るから高評価につながり、男性観客は自分が失敗したところを見せつけられているようだから評価できないという面があったと思う。
男性で同作を評価している人の多くは映像関係、マスコミ関係などいわゆるクリエイティブ職の人ばかりだったのは、こういう仕事の人間って色々なもの(恋人だったり、友人だったり、家族だったり、金だったり)を犠牲にしなくてはならないし、自分が育てた人間があっという間に自分より有名に、金持ちに、権力者になってしまうことがある。そうした、自分たちの職場のあるあるがリアルに描かれていたから共感できたという点が大きいと思う。ifの世界はそれを凝縮したようなものだ。

本作は2人がともに女性だから、アンチフェミ的な思考の者が多い、漫画やアニメのオタクにも受け入れられたのだろう。

漫画が面白いと同級生に評価され天狗になっていた主人公が、不登校の同級生の画力に圧倒され、さらなる努力を決意。
しかし、いくら努力しても同級生にはかなわないと悟り、漫画の世界から足を洗うことを決意。
ところが、ふとしたきっかけでその不登校児と対面すると、相手は自分のことをリスペクトしていることが分かる。そして、これを機に主人公は漫画を再び描き始めると同時に不登校児をパートナー(事実上のアシスタント)てして迎え入れるようになる。
でも、不登校児は元々、主人公より画力はあったから才能を評価されて美術大学へ進むことになり、袂を分かつことに。
とはいえ、主人公だって決して才能がないわけではないから、単独でも雑誌連載の仕事をこなし、ベストセラー作家となる。
ここまでなら、まぁ、お互い色々あったけれど、とりあえず、成功できて良かったよねで終わり、どこかで再会して和解でもすればめでたしめでたしなのだが、その元不登校児は盗作の疑いをかけられて男に殺されてしまう。
おそらく、盗作は言いがかりだと思うし、この描写の背景にあるのは間違いなく京アニ放火事件だろう。
しかし、その事件によって、元相棒は亡くなり、自分も漫画を描けなくなってしまう。

こうした2人の上下関係がコロコロ変動するのが評価されているポイントではないかと思う。

先述したifの世界では2人が対面し、主人公が再び漫画を描くようになる時期が小学校卒業時ではなく、不登校児が大学生になった頃となっているが、この世界を“経験”したことによって、主人公はやっと再起できるようになる。これで何とか淡いけれど前向きなハッピーエンドになれたといったところだろうか。

余談だが、事件で被害者の人数を報じる新聞の紙面が12を縦書きで1と2を別々の行にわけて表記していたのが気になった。普通、一文字で12ってするよね。

もう一つ余談。

読み切り漫画が発表された当時から言われていたけれど、この「ルックバック」というタイトルはオアシスの名曲“ドント・ルック・バック・イン・アンガー”から来ていることは明白だ。
直訳すると、怒りに身をまかせて振り返るなということだが、一時的な感情で人を好きになったり嫌いになったり、あることを始めたりやめたりすると、良くない結果を招きかねないということを言いたいのだろう。主人公の行動はまさにそうだしね。

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