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女王幻想花劇

AKB48の馬嘉伶出演の舞台を見るのは本作が3作目だ。

2022年2月上演の朗読劇「海辺の街でもう一度、あの日の彼女に会えたなら」は上演時間も短いからそんなにヘビーな感触はなかったけれど、2022年11月上演の「メイドランカー!詰り蹴落とし跪け乙女」といい本作といい、どんでん返し系のストーリーで、しかも、現在の国内外の情勢を反映したような内容なので疲れ気味の状態で見るのはかなり辛かった。何とか耐えたが、あと1時間睡眠時間が短い状態で鑑賞していたら間違いなくオチていたと思う。

第一次世界大戦中に芸能活動の裏でWスパイとして暗躍したマタ・ハリ(正確には史実のマタ・ハリとは異なる人物っぽい描き方だが)を描いた作品だが、戦時下で舞台の上演がままならないというのはコロナ禍に入り公演の中止や延期が相次ぐ演劇界のメタファーだろうし、当局が芸能活動に口出ししてくるのは総務大臣時代の高市早苗が放送局に圧力をかけたとみられる放送法の「政治的公平」に関する文書を巡る一連の問題を想起せずにはいられない。
一般的に演劇人には政権批判スタンスの者が多いので多かれ少なかれ、そうしたメッセージが込められているとみて間違いないのではないだろうか。

そして、本公演の特徴とも言えるのが男役も含めた全キャストが女優によって演じられているということだ。今の若者には左派アレルギーが多いが、宝塚的な雰囲気を醸し出したのは政治的主張を極端に意識せず見てもらうための演出という気もした。

また、アイドルや元アイドルを主要キャストに配しているのもそうした左派色を薄めるための戦略の一つなのだろう。

お目当ての馬嘉伶に関しては今回は主人公ではないということや演じているキャラが日本人でないというかアジア人でもないということもあってか、いつもは気になるなまりのある日本語での演技もそんなに気にならなかった。

元ラストアイドルの長月翠は主人公の幼少時代を演じていたが意外と出番は多かった。というか、馬嘉伶より目立っていた。
これまでに自分が見た彼女の出演ドラマや舞台における演技の印象は下手ではないが舌足らずというものだったので、幼少時代を演じるというのは好キャスティングだと思った。

ただ、ストーリーに関しては不満もある。これまで現実だと思っていたことが実は幻想だと明かされるどんでん返しの後、多少は端折ってはいるものの、それまでに展開されたストーリーを別視点で繰り返して描写するのはしつこいなと思った。冒頭で描かれていた劇中劇の開演直前のシーンがその後、もう1回出てくるのもそう。
映画やドラマ、アニメなどの映像作品ではそういう構成も「エンドレスエイト」のような悪質なものでない限り効果はあると思うけれど、観客の目の前で生身の役者がリアルタイムで演じている舞台でこれをやるのはちょっと違うんじゃないかなって思う。
やるんだったら、2時間強を休憩なしでノンストップで演じるのではなく、幻想だと分かったところでいったん区切って休憩を入れ、後半にやり直しと解決パートを演じるという形にすれば良かったのではないかと思う。

結局、アイドルや元アイドルを起用していたり、1日2公演の日があったりでスケジュールに余裕がないから、一気に上演せざるを得ないんだろうが、構成を考えたら休憩は入れるべきだったと思う。

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