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ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ

ただでさえ、洋画不振と言われるようになって久しいのに、コロナ禍になって洋画離れはさらに加速してしまった。

理由はいくつかある。

ハリウッドの“本社”側に起因するものとしては、まずは何度も公開を延期したことがあげられる。

欧米の基準では映画館の営業なんてできるような状況ではなかったとしても、東アジアでは映画館が営業可能だったのだから、まずは東アジアで公開し、その後、感染状況が落ち着いてから欧米で公開するということだってできたはずだ。
でも、欧米基準で何度も公開日がリスケジュールされてしまったために、日本の観客は公開日が変更になるたびに作品に対する興味を失っていってしまったというのはある。
これは、海外では公開済みの作品が日本での緊急事態宣言発令によって公開延期になった作品にも言えることではあるが。

今夏の感染状況が深刻な時に開催を強行したフェスやコンサートに対して批判の声が高まったが、その理由には、中止や延期を繰り返すと、そのフェスやコンサートに対する興味が失われてしまうことへの恐れというものがあったのではないだろうか。

何でも、一説によると、2回中止されたイベントは復活できなくなると言われているとか…。

つまり、去年、中止や延期、もしくはオンライン開催に変更されたフェスが今年も同じように中止や延期、オンライン開催になれば、来年は実施される可能性が一気に減る恐れがあるという意味だ。

それと同じように、何度も公開日程が変更された映画に対する興味が失せてしまったということなのだと思う。

また、ハリウッドが配信での作品発表に力を入れるようになったことも少なくとも劇場における洋画離れを加速させる要因になっていると思う。

これも、地域の事情に合わせて対応すべきだったのに、全て“本社”の意向に合わせた全世界共通策になってしまった。

ディズニーが劇場公開予定だった作品をディズニープラスの独占配信に変更したり、あるいは、劇場公開と同時にディズニープラスで配信したりといったことを行ったことに対して、日本の全興連が怒りを表明し、東宝・東映・松竹の邦画大手3社のシネコンなどがディズニー映画の上映をボイコットした。

日本ではディズニー映画の人気は高かったのだから、ディズニープラスでの配信よりも劇場公開を優先すれば、コロナ禍であっても、それなりの数字は残せたはずなんだよね。

最近では、劇場公開を優先するようになったが、それでも、公開からわずか1ヵ月半ほどで配信されてしまう。だから、日本の興行界はディズニー映画のプロモーションには全く本気を出さなくなった。

そんなわけで、日本のディズニーファンの中にはディズニー映画は映画館で見るものではなく、配信で見るものだという考えが浸透していってしまった。要はNetflixで見る韓流ドラマと同じ扱いになったということだ。

一方で日本側に起因する問題もある。

いくら、 ディズニーなどハリウッド大手の配信優遇策が気にくわないからといって、需要があったはずの作品の上映をボイコットし、その結果、そのジャンルのシェアを大幅にダウンさせてしまったのだから呆れてしまう。

それから、コロナの影響で公開日程がリスケジュールされた邦画の本数が多すぎるため、そちらの公開が優先されているフシもある。
おそらく、配信優先のハリウッド大手系に対する不信感が邦画の上映を優遇する形にもなっているのではないだろうか。
それによって、映画館で上映されているのが邦画ばかりとなり、洋画好きを映画館から遠ざけてしまったというのもあると思う。

ディズニー映画の上映ボイコットや邦画の上映回数の増大は主に興行側によるものだが、日本の配給側に起因するものもある。

ユニバーサル作品を配給する東宝東和やパラマウント作品を配給する東和ピクチャーズ(東宝東和の子会社)は日本の会社だから、本国より公開が遅れるのは仕方ないとしても、本社の日本支部が直接配給しているディズニーやソニー・ピクチャーズの対応は理解に苦しむ。

ディズニーは旧20世紀フォックス系の20世紀スタジオ作品の日本公開時期を相次いで延期させた。スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」なんて2ヵ月も当初の日本公開予定日よりも延期された。
これは別に本国での公開が延期になったわけでも、日本のコロナの感染状況を鑑みたものでもない。
しかも、公開延期しなければ元となるミュージカル「ウエスト・サイド物語」の作詞を担当したスティーブン・ソンドハイムの訃報の直後に公開という言い方は悪いが絶妙のタイミングで公開できたのに、それを逸してしまったのだから、バカとしか言えない。

百歩譲って、ディズニーは外様の旧フォックス作品を冷遇しているだけという見方もできるが、最初から日本公開時期を遅くしているソニー・ピクチャーズに関しては全くもって理解不能だ。

コロナ前ならまだしも、現在は洋画の供給が不足しているのだから、日本公開を本国より遅くする意味はないはずなのにね。しかも、映画会社としてのソニー・ピクチャーズは本社が米国かもしれないが、ソニー自体は日本の会社なんだしね。
現在全米でヒット中の「ゴーストバスターズ/アフターライフ」は2月まで公開されないし、米国での成績はイマイチかもしれないが、「バイオバザード」のリブート作品だって1月下旬まで公開されない。元は日本発のコンテンツなのにね。
さらに「スパイダーマン」シリーズの新作は今月、全世界で公開されるが日本では年明けまで公開されない。おそらく、「スパイダーマン」の日本公開が遅れたのは、スピンオフ作品である本作「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」の日本公開が海外よりも2ヵ月遅れでやっと今月になって公開されたためだと思うが、「スパイダーマン」の公開時期をわざわざ、稼げる年末年始から外すというのはマジで理解できない。
まだ、日本公開順を逆にして、「ヴェノム」の方を年明け公開にするってのなら、百二十歩譲って理解できるけれどね(話に時系列は狂うが)。

本当、自ら作品がヒットする機会を喪失しているとしか思えない。
それとも、年末年始は「呪術廻戦」が記録的な大ヒットとなり、それを「マトリックス」、「あな番」、「ボス・ベイビー」なんてあたりが追うから、日本の観客は「スパイダーマン」にまで目が行かないって思っているのだろうか?

そんなわけでやっと日本公開された「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」を見た。
ぶっちゃけ、今年になってから公開されたディズニー配給のマーベル映画3本よりも面白かった。

やっぱり、ポリコレ要素を表に出すことばかりを考えすぎてディズニー版マーベル映画はつまらなくなっているって感じかな。

本作にだって、ポリコレ要素はあるんだよね。悪役カップルは白人と黒人の異人種カップルだし、エディとヴェノムに協力するコンビニ店員はアジア系の女性だしね。
さらには、コスプレイベントに紛れ込んだヴェノムが異星人差別撤廃を訴えるシーンでは、様々な属性を持つ人たちがヴェノムに拍手喝采を送っている。それって、人種差別や同性愛者差別のメタファーだしね。
そもそも、アメコミというのは社会から迫害されているような人たちが主人公になることが多いからポリコレ的なのは当たり前といえば当たり前なんだけれど、最近のディズニー版は度が過ぎるんだよね。今回の「ヴェノム」くらいな配分がちょうどいいと思う。個人的には悪役異人種カップルの悲恋にはグッと来るものもあったしね。

というか、この悲恋カップルのエピソードにしろ、エディと元カノの関係にしろ、アニメっぽいよね。コスプレイベントに紛れ込んだヴェノムが他の参加者に“日本のキャラのコスプレか?”みたいに聞かれるシーンがあったけれど、マジで日本の深夜アニメ的展開だと思う。

ぶっちゃけ、白人女性が主人公の「ブラック・ウィドウ」、アジア系男性が主人公の「シャン・チー」、アジア系女性が主人公の「エターナルズ」といった具合に、白人男性以外を主人公にすることにばかり気を取られている最近のディズニー配給マーベル映画より本作の方が日本受けはいいと思う。

ところで、この「ヴェノム」シリーズって、毎回、主題歌をエミネムでやっていくのかな?

正直なところ、ここ最近のエミネムの楽曲にはイマイチ、ハマれないんだけれど、「ヴェノム」シリーズの楽曲は良いと思う。

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