ミニオンズ フィーバー
「怪盗グルー」シリーズと呼んでいいのか、「ミニオンズ」シリーズと呼んでいいのかは分からないが、本作はプリクエルシリーズの2作目、正シリーズも含めると5作目となる「怪盗グルー」もしくは「ミニオンズ」シリーズの最新長編映画だ。
当初は2020年公開予定だったが、コロナの影響で2021年公開に延期され、再びコロナの影響で2022年の公開に延期された。
コロナの影響で公開延期となった作品の中には旬を逃してしまったものもあるが、海外での興行成績などから見ると、本作は日本では同じ東宝東和グループの配給となっている「トップガン マーヴェリック」同様、度重なる公開延期がマーケットの需要とうまく合致したパターンになっているようだ。
そのおかげで、同じイルミネーション作品の公開順も変更となり、米国でも日本でも「SING/シング: ネクストステージ」の方が先に公開されることになった。
日本では、ディズニー・ピクサー以外の海外アニメーション映画以外はなかなかヒットしないと言われていた。だから、アカデミー長編アニメーション賞ノミネート作品も多いドリームワークス作品ですら日本では全然、劇場公開されない時期があった。
2019年公開作品よりドリームワークス作品は、ユニバーサルが配給権を持つことになり、その流れで日本でも2018年よりユニバーサル作品を配給する東宝東和が担当するようになった。これで、ほぼ全ての作品がBlu-ray/DVDスルーという事態は避けられるようになったが、それでも日本公開されるのは本国で劇場公開された作品のうちの半分ほどだし、しかも、基本、ギャガとの共同配給となっている。つまり、東宝東和はドリームワークス作品が日本でヒットすることを期待していないということだ。
一方、コロナ禍になって、ディズニーは配信サービスDisney+で収益を上げることを第一にするようになっていて、若い世代を中心にディズニー映画は配信で見るものという意識が高まっているせいか、ディズニー・ピクサー作品でもかつてのようなヒットを飛ばすことはなくなってしまった。
そんな中、イルミネーション作品だけは何故か、コロナ前だろうと、コロナ禍だろうと、日本で受け入れられ続けている。
日本ではパッとしなかったイメージの2018年作品「グリンチ」ですら興収13億円を上げている。
今年春に日本公開された「SING/シング: ネクストステージ」は興収33億円超で今年公開のアニメ映画としては、現時点では劇場版「名探偵コナン」最新作に次ぐヒットとなっているのみならず(今年度だと、さらにその上に「呪術廻戦」があるが)、コロナ禍になってから公開された海外アニメーションでは現時点で最大のヒット作となっている。
キャラクターが日本人にも受け入れられやすいというのもあるが、ポリコレ色が薄い(ないわけではない)のもディズニー・ピクサーやドリームワークスよりもヒットしやすい理由のような気もする。
何しろ、これまでにアカデミー長編アニメーション賞にノミネートされたイルミネーション作品は「怪盗グルーのミニオン危機一発」だけだし、他の部門を含めてもアカデミー賞にノミネートされたのはこの作品の主題歌“Happy”が歌曲賞候補となっただけ。ピクサーに比べると革新的な技術を使っているというわけでもないし、社会的メッセージも薄めとなれば、そりゃ、賞レースに無視されても仕方ないんだけれどね。
作品自体の話をしよう。
本作はこの「怪盗グルー」もしくは「ミニオンズ」のフランチャイズの主人公であるグルーが少年だった1970年代を舞台にした作品だ。
邦題に含まれる“フィーバー”という言葉は1977年の映画「サタデー・ナイト・フィーバー」から拝借されているのは明白だし、予告編でも描かれていたが、作中にはグルーたちが1975年のヒット作「ジョーズ」を見に映画館にやって来る描写もある。
そんな内容に合わせてサントラには70年代にソロアーティストとしてヒット曲を連発したダイアナ・ロスも参加しているし、リンダ・ロンシュタット“悪いあなた”など70年代のヒット曲がオリジナルやカバーバージョンで多数使用されている。
にもかかわらず、予告編では80年代のモトリー・クルー“ホーム・スウィート・ホーム”、90年代のビーステイ・ボーイズ“サボタージュ”、00年代のエミネム“ルーズ・ユアセルフ”といった作品の世界観とは異なる時代のヒット曲が使われているのは謎だが…。
というか、プロモーションに限らず、作品自体の70年代描写もかなり大雑把だった。
アメリカ合衆国建国200周年の看板がデカデカと街中に掲げられているということは、作品の舞台となっているのは1976年ということだ。
でも、映画館は1975年のサマームービーとして米国で記録的大ヒットとなった「ジョーズ」で大混雑している。
また、カンフーの技を身につけたミニオンたちが黄色い服を着て登場するのは「死亡遊戯」を意識しているのだと思うが、同作は1978年の作品だ。
さらに、ディスコヒット曲「ファンキータウン」がリップス・インクのオリジナル版とカバーバージョンの両方で使われているが、オリジナル版がアルバム収録曲として発表されたのは1979年で、シングルカットされてヒットしたのは80年だ。
何か70年代っぽいものなら何でもいいみたいな感じになっているのはどうなんだろうって気がする。
まぁ、ミシェル・ヨーがカンフーマスターのお婆さん役ってのは面白かった。確かに彼女は香港アクション映画界においてはカンフーの達人だよね。
それにしても、イルミネーション作品って本作に限らず、笑えるシーンや感動的なシーン、音楽の使い方が良いよねって思うシーンは多いのに、作品全体としてはテンポが悪いんだよね。何故なんだろうか…。多分、真剣にスクリーンを見つめている人のためではなく、家族や友人とふざけながらダラダラと見る人のために作っているんだろうね。
《追記》
TOHOシネマズ新宿で本作を鑑賞。本当、この劇場に来る観客のマナーって悪いよね。新宿の3大シネコンは概してマナーは良くないけれど、TOHOシネマズは格段に酷い。まぁ、歌舞伎町にあるから仕方ないんだろうが。シネコンが出来る前は歌舞伎町にある映画館は週末はオールナイト上映が行われていて、酒を飲んだ状態で来場する者が多かったから、中高年の来場者はその時の感覚が抜けていないのが多いんだろうし、若者はTOHOシネマズ付近でたむろしている、いわゆるトー横キッズみたいな連中が多いし、場所柄、外国人も多いから、結局、老若男女問わずマナーは悪いってことなのかな。
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