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ミラベルと魔法だらけの家

コロナ禍になってからの日本の映画興行で大きく変化したこととしては、中高年やファミリー層の客足が遠のいたことがあげられる。

「007」で中高年、「プリキュア」や「すみっコぐらし」でファミリー層が戻ってきたかのようにも見えたが、秋の映画興行全体を見ていると不振と言わざるを得ない状況だと思う。

去年の秋は「鬼滅の刃」という記録的な大ヒットがあったが、あくまでもあれは例外として考えたとしても寂しい成績だ。
シネコン時代になってからは秋の映画興行は決して閑散期ではなくなったので、秋だからヒット作が出ないのは当たり前と言っている人は昔の映画館時代の記憶しかない人だと思う。

上記3作品はいずれもシリーズものだが、秋公開作品で興収20億円以上をあげた作品を見てみると、シリーズものに人気が集中していることはさらに顕著だ。
上記の「007」シリーズ最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」以外では、「マスカレード・ホテル」の続編「マスカレード・ナイト」しか20億円を超えていない。
また、最新の観客動員数ランキングを見てみると、トップ10内のうち、シリーズものでも、テレビドラマやテレビアニメの劇場版でもない作品はたったの3本しかない。しかも、その3本はいずれもテレビ局映画だ(「燃えよ剣」はキー局ではないが)。
つまり、テレビドラマやアニメの延長線上にある作品か、シリーズものを除けば、ほとんどの映画が当たらなくなっているということだ。

その最大の要因と言っていいのが、コロナ前から顕著になっていた邦高洋低の興行がコロナ禍になって一気に加速したことにあるのではないだろうか。

勿論、シリーズものならまだ、「007」や日本では夏に公開された「ワイルド・スピード」、モンスターバースの「ゴジラvsコング」のようにヒットはしていてるが、そうではない作品は軒並み苦戦を強いられている。
「DUNE デューン/砂の惑星」とか「フリー・ガイ」といったシリーズものでない作品は日本ではイマイチの成績だった(両作品とも続編制作の話はあるし、「砂の惑星」は再映画化だが)。

日本の新型コロナウイルスの感染状況ではなく、米国や欧州の事情でコロコロ公開時期が変更されたり(海外では公開済みの作品が日本の緊急事態宣言の影響で公開延期になった例もあるが)、場合によっては劇場公開を見送られて配信されたりというのが相次ぎ、作品自体への興味を失ってしまったというのが実情ではないだろうか。

その一方で邦画は、緊急事態宣言の影響で公開延期されていた作品が次から次へと公開されるようになり、公開ラッシュ状態が続いている。圧倒的に邦画の情報を目にする機会が増えているんだよね。
そりゃ、自分みたいな海外文化にかぶれまくりだったはずの人間だって洋画を見なくなってしまうわけだよね。

そして何よりも洋画不振を増大させているのがディズニーの不振だと思う。
コロナ前の2019年度(カレンダー上ではなく日本の映画興行界独特の不透明な年度という区切りのもの)の洋画の年間ランキングを見てみると、ディズニー作品で興収10億円突破は11本もあり、年間トップ10のうち6作品がディズニー作品となっていた。しかも、上位4作品を独占している上に、トップ3入りした作品は全て興収100億円を突破していた。
それが、コロナ禍になってからは2020年度こそ前年末公開の「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」が先述した不透明な集計期間の区分のおかげで年間首位に立っているが、興収10億円以上となったのはこの作品のみだ。

2019年度首位の「アナと雪の女王2」と上映時期もかぶっているのに、「アナ雪」は2019年度で、「SW」は2020年度というのはおかしいよね…。本来なら2019年度、2020年度それぞれの対象期間ごとに集計すべきなのに、数字を大きく見せたいからどちらかの年度にしかランクインさせないというのはいかにも日本的なやり方だよね。まぁ、外資のディズニーがそれに文句を言わないってことは、そのやり方に賛同しているってことなんだろうけれどね。

そして、2021年度は「エターナルズ」がおそらく来週頭の観客動員数発表時に10億円突破とアナウンスされるとは思うが、現時点では興収10億円以上を突破した作品はゼロだ。

ディズニーは本体のアニメーションや実写作品のみならず、ピクサーやマーベル、ルーカスフィルムの作品、さらには旧20世紀フォックス系の20世紀スタジオの実写作品やアニメーション、フォックス時代から賞レースを賑わす作品を連発しているサーチライトといった実に幅広いレーベルから作品を発表していて、コロナ禍になってからだって魅力的な映画を多数送り出しているのに、日本ではディズニー配給映画はヒットしなくなってしまったのだ(コロナ禍になってからは先述したマーベル作品「エターナルズ」が最大のヒット。これが興収10億円のボーダー上なんだからね…)。

ディズニー映画がヒットしなくなった最大の要因は言うまでもなく、ディズニーが実写リメイク作品「ムーラン」やピクサー作品「ソウルフル・ワールド」、「あの夏のルカ」といった新作映画の劇場公開を取りやめ、ディズニープラスでの独占配信という形にしたことにあるのは言うまでもない。

でも、米国など海外ではその後、ディズニープラスでの配信と同時に劇場公開されたアニメーション作品「ラーヤと龍の王国」や、実写作品「クルエラ」、「ジャングル・クルーズ」、マーベル作品「ブラック・ウィドウ」といった作品が好成績をあげている。特に「ブラック・ウィドウ」と「ジャングル・クルーズ」なんて全米興収1億ドルを突破した。

しかし、日本ではどの作品も興収10億円を突破することはなかった。この中では「ブラック・ウィドウ」の8.6億円というのが最も好成績だった。

こうした結果になった理由は明白だ。劇場公開と同時に配信というやり方に全興連が反発し、それに同調した東宝・東映・松竹の邦画大手3社系のシネコンなどがディズニー作品の上映をボイコットしたからだ。

映画館の利益を守るために同時配信作品を拒否するというのは一見、正論のようにも思えるが、東宝・東映・松竹は自社のアニメなどのイベント上映作品は劇場公開と同時にDVDやブルーレイを販売していたりするのだから、ディズニー映画を排除するのは矛盾もいいところなんだけれどね。

そもそも、海外の映画館は同時配信作品だって、ディズニー映画を上映していたわけだしね。Netflixのような配信会社の作品なら百歩譲って映画館での上映を拒否するというのは分かるけれど、ディズニー映画は歴史のある映画会社なわけだから、これは単なる外資排除でしかなく、とてもではないが映画業界を守っている行為ではないと思う。

そして、こうした愚策により、ディズニー作品は邦画大手3社以外のシネコンとミニシアターでしか上映されなくなり、公開されていることが認知されないことからコロナ前のようにヒットしなくなってしまった。

一般人は○○系(東宝・東映・松竹など)の映画館などといった枠組みは意識していないだろう、映画館の運営会社を意識しているのなんて業界関係者と映画マニアだけだろうと思っていたが、結構、映画マニアではない、たまに家族連れとかデートで映画館に来るような人たちって、映画館をランク付けしていて、Aランクの映画館で上映されない作品には見向きもしていなかったってことがこのディズニー映画ボイコット問題でよく分かった。

一般人的には、

Aランク:邦画大手3社(東宝・東映・松竹)系のシネコン
Bランク:イオンシネマやユナイテッド・シネマなど邦画大手3社系以外のシネコンやシネコンとは呼べないタイプの映画館
Cランク:ミニシアターや名画座

って感じなんだろうね。

Bランクはダサい、Cランクは映画マニアのようなキモい奴等が行くところって感じなのかな?

だから、テレビや雑誌は一般大衆に受けるAランクの劇場でかからなくなったディズニー映画のプロモーションをしなくなったってことなんだろうね。

そして、ワクチン接種が進み、エンタメの需給が安定してきたのに伴い、ディズニーは同時配信をやめて劇場公開を優先するようになった。

その結果、邦画大手3社系のシネコンでもディズニー作品の上映が復活するようにはなった。でも、正直なところ、劇場側はあまりプロモーションには乗り気ではないようにも思えた。

同時配信騒動で一度入ってしまった亀裂をそう簡単には埋められないというのもあるのだろうが、劇場公開優先とはいっても、劇場公開から1ヵ月半かそこらで配信が開始されてしまうのだから、そりゃ、映画館側も本気でプロモーションする気にならないのも仕方ないよねという気もする。

同時配信作品の上映をボイコットしたことによって、映画ファンや映画評論家・ライターなどから批判されたので、さすがに1ヵ月半のみの先行公開作品までボイコットしたら、自分たちが袋叩きにあうというのは分かっているから妥協したって感じなんだろうけれどね。

その一方でディズニーの日本法人に対してもやる気のなさを感じずにはいられないんだよね。劇場公開を先行するようになってからの公開作品って、マーベル作品と旧フォックス系の作品ばかりだからね。
日本のディズニーって、ポリコレ路線の本国のディズニーと本当に同じ会社なのかって言いたくなるくらい差別主義的だからね。
吹替版の日本人ボイスキャストには公式ホームページで“さん付け”で表記しているのに、オリジナルのキャストは呼び捨てにするという人種差別を平気でしているからね。
だから、吸収合併で傘下に収めたマーベルや旧フォックスを外様扱いしている面もありそうだしね。実際、旧フォックス系作品ではパンフレットも作っていないようだしね。配信作品のプロモーション的な有料試写会のつもりなのかな?

そんな中、ディズニーの最新アニメーション映画「ミラベルと魔法だらけの家」が公開された。

今年公開されるディズニー配給のアニメーション映画としてはこれが3本目だ(ディズニー本体の作品としては2本目)。
3月公開の本体の作品「ラーヤと龍の王国」は同時配信作品のため、邦画大手系シネコンが上映ボイコットをした。
10月公開の「ロン 僕のポンコツ・ボット」は劇場先行公開だが、旧フォックス系作品なので外様扱いされ十分なプロモーションが行われなかった。
今回の「ミラベル」は実写、アニメーション問わず、ディズニーがコロナ禍になってディズニープラスにプライオリティを置くようになってからは初めてとなる劇場公開先行のディズニー本体作品だ。

そんなわけで、日本市場においてディズニー映画が存在意義を保てることができるのかという点で興行成績が注目されている。

自分は「ラーヤ」や「ロン」と同様、公開初日に劇場で鑑賞した。
両作品に比べれば、客は入っているけれど、正直言って、コロナ前のディズニー映画の大盛況ぶりと比べると大コケと言っていいと思う。

主人公がメガネ女子でヒスパニック系という、ルッキズムやマイノリティ差別を意識したキャラクターがポリコレ色の強い作品を嫌う日本の観客に受けないのではみたいな見方もあるが、ハワイを舞台にした「モアナと伝説の海」や、同じくヒスパニック系の話ではピクサーの「リメンバー・ミー」もヒットしている。同じくピクサー作品の「インサイド・ヘッド」はW主人公のうちの1人はメガネ女子だ。さらにいえば、本体作品の「ズートピア」や「アナと雪の女王」シリーズなんてポリコレ臭がプンプンする作品だ。
これらの作品は日本でも大ヒットしているのだから、キャラ属性とかポリコレ路線というのはあまり日本の興行成績には関係ないと思う。

本作の興行成績が盛り上がらない理由として考えられるのは以下の2点だと思う。

まずは、ディズニーがコロナ禍になって、配信事業のディズニープラスにプライオリティを置くようになったことだ。これにより、これまで映画館でディズニー映画を見ていたファミリー層や若い女性、カップルなどがディズニー映画は配信で見るものという意識に変わってしまったのではないだろうか。賞レース向けのNetflix映画が配信に先駆けて先行上映されても一部の映画マニアしか見に来ないが、それと同じようになってしまったということでは?

そして、次に考えられる理由が、そもそも面白そうに見えないということだ。正確に言うと、日本人には面白そうに見えないって感じかな。
正直言って、2010年代に日本公開されたディズニー本体のアニメーション映画は吹替版のみの公開で終わった作品以外は全て劇場で見ているが、ダントツで本作が一番つまらなかった。

ミュージカル作品だけれど、楽曲もパッとしないしね。同じリン=マニュエル・ミランダが音楽を手掛けたディズニー作品「モアナ」は楽曲も作品自体も良かったけれど、本作はぶっちゃけ、退屈に感じた。というか、魔法というビジュアル映えする題材でありながら話の進め方が舞台的なんだよね。ストーリーもほとんどの場面が“魔法だらけの家”の中で展開されるしね。まぁ、リン=マニュエル・ミランダが舞台出身だから舞台的な展開になってもおかしくはないんだけれどね…。でも、「モアナ」はきちんと映画として楽しめたんだけれどな…。

というか、話自体も酷いんだよね。主人公の祖母に対してなんて、“○ね!”という感情しか抱けなかったしね。本当、家庭だろうと職場だろうと学校だろうとどこにでもいるよね。自分の気に入らない奴のやる事は何でもかんでも否定から入る奴。だから、そういう性格のこのクソババアに罰も与えずに主人公と仲直りして感動的な話風にまとめているのが許せないんだよね。というか、自分は“おばあちゃんっ子”だったから、祖母を悪役にしている本作のような作品が許せない!

やっぱり、セクハラ問題でジョン・ラセターを追い出したことによって、ディズニーのクリエイティブ性は低下したと言わざるをえないのかな…。

ところで、本作はディズニー本体の長編アニメーションとしては記念すべき60本目の作品となる。そのうち、自分が劇場で見た作品は過半数をちょっと超えたくらいだが、その中でも本作はワーストレベルだな…。

そういえば、「アナと雪の女王」以降、ディズニー映画の邦題は“○○(人名)と△△の×︎×︎”みたいなものばかりになったが、いい加減そういうのやめようよ!
まぁ、「アナ雪」の原題“Frozen”も、本作の原題“Encanto”もパッとしないタイトルだとは思うけれどね。

《追記》
短編「ツリーから離れて」が併映されていた。
内容自体はどうってこともないものだった。
まぁ、ディズニーが短編とはいえ劇場公開作品を久しぶりに2Dで作ったってことくらいしか見所がないって感じかな。
そして思った。日本の2Dアニメーションってキャラが動かない止め画が多いけれど、米国のアニメーションってキャラはやたらと動くけれど、背景って止まったままのものが多いんだよね。それって、CGアニメーションでもそうなんだけれど、2Dだとそれが際立って見えるってのを改めて実感した。日本だと画自体は止め画でもパンとかズームで背景を動かしたりするけれど、米国ってそういうのも少ないんだよね。
結局、キャラを動かすことを優先する米国アニメーションはカートゥーンが基本にあり、画を見せることに重きを置く日本アニメはカートゥーンとは別物ってことなんだろうね。

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