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前科者 -新米保護司・阿川佳代 -

全6回で放送された本シリーズがいわゆる“続きは劇場で!”商法で作られた作品であることは否定できない事実だと思う。しかも、11月から12月にかけてドラマ版を放送し、年が明けて1月にすぐ劇場版を公開するのだから、そのやり方は批判されても仕方ないと思う。

本シリーズと同じWOWOWドラマ「太陽は動かない」は当初は劇場版公開直後に前日譚を放送するという形だったが、新型コロナの影響で劇場版の公開が延期され、ドラマ版が先に世に出てしまったので結果的には“続きは劇場で!”商法になってしまったが、本シリーズは完全な同商法のパターンだ。

本シリーズとは、英勉監督が手掛けたドラマの劇場版との連動のやり方が近いのではないかと思う。
「賭ケグルイ」は2019年4月にドラマ版season2を放送し、同5月に劇場版1作目を公開した。また、今年は3月から4月にかけては前日譚ドラマ「賭ケグルイ双」を配信し、6月に劇場版2作目を公開した(緊急事態宣言が発令されなければ配信から間髪あけずに5月に公開するつもりだった)。

同様に2020年の「映像研には手を出すな!」はドラマ版を4月から5月にかけて放送し、劇場版を9月に公開したが、これも緊急事態宣言が発令されなければドラマ版放送直後の5月に公開されるはずだった。

ただ、本シリーズに関しては、「賭ケグルイ」や「映像研」ほどの商魂は感じなかった。きちんとドラマだけでも完結するように丁寧に作品の世界観が描かれていたからだ。

おそらく、来年1月公開の劇場版「前科者」は原作にはないオリジナルストーリーを描くということなので、いきなり映画オリジナルだと原作ファンの不満は強まるだろうから、それをなだめる意味もあるのだろうとは思う。

また、原作を読んでいない人に向けては、主人公の保護司・佳代と、佳代が初めて担当した保護対象者で佳代と友人になるみどり、佳代に仕事をふる保護観察官、佳代が普段バイトしているコンビニの店長といったレギュラー陣に親しんでおいてもらおうという狙いもあるのかもしれない。

そんな色んなウラがすけて見えるドラマ版だけれど、これがなかなか良いんだよね。

正直言って、佳代の地味でウザくて男に興味がなさそうみたいな設定はいかにもなステレオタイプのカタブツ女という感じだったので見る前は不安視の方が大きかった。
でも、実際に見てみると、これは有村架純の当たり役と言っていいほどハマっていた。今度の劇場版以降も、映画でもドラマでもいいが続編を作っていくべきだと思う。

そして、このドラマ版の出来が良かったのはWOWOWでの放送や、WOWOWオンデマンド、アマゾンプライムでの配信を前提にした作りにしているからだと思う。
全6話のエピソードはそれぞれ25〜27分と通常の地上波放送深夜ドラマの尺よりも長くなっている。
また、地上波での放送を前提としていないから、CMを入れるタイミングを考えずに、その25〜27分を使い切ることができる。

というか2話(前後編)で1つのエピソードを描くという構成なので、見ている方としては50分程度の中編映画を見ているような気分にもなれる。
それが満足感が高い理由だと思う。

また、全6話を使って描いた3つのエピソードの結末もそれぞれ違う形になっているのも良かったと思う。
こうしたシリーズものだと、毎回、無事、保護対象者が更生してメデタシメデタシみたいな感じで終わりがちだけれど、そうしなかったことによって、視聴者が佳代に対して感情移入できるようになったのではないだろうか。

最初のエピソードの対象者・みどりは、無事、保護観察期間を終えて起業し、佳代とも友人になる成功例として描いた。

2つ目のエピソードの対象者・二朗に関しては、二朗が新たな犯罪行為を起こすことはストップできたものの、二朗は信じていたものを失うという非常に後味の悪いものだった。
個人的には全3エピソードの中で一番出来が良いと思ったのはこれだ。
二朗に関しては未成年に対して性的な興奮を得る者だという疑念も持たれていて、二朗が兄を殺害したのは少女との交流をやめるようさとされたことが原因だった。

二朗役の大東駿介の演技が秀逸なために、視聴者は二朗を気持ち悪く感じ、殺人犯だけではなく性犯罪者に違いないと思い込んでしまったが、もしかすると、そうではないのではというのがこのエピソードの後半になって分かるんだよね。
おそらく、彼はいじめのトラウマなどで精神的なダメージを受けているか、あるいは発達障害などの理由で人付き合いができなくなっていたんだと思う。

そんな彼が、孤独な少女と出会い、おそらく性的な感情などなく純粋に友達ができたと思い、彼女との交流を続けていたが、彼女は実際は母親の再婚で家に居場所がないと感じていて、言い方は悪いが親の目を自分に向けさせるために利用していただけだったことが分かるんだよね。

勿論、少女本人や周囲の大人からすれば、少女に近づく年の離れた男なんて気持ち悪い存在だと思うのは仕方ないんだけれど、だからといって、その男は必ずしもロリコンや性犯罪者ではないんだよね。無実の者を見た目や性格だけで犯罪者だと決めつけてしまうことによって本当に犯罪が起こってしまうこともあるということを我々に警告してくれていたようなエピソードだった。

3つ目のエピソードの対象者・多実子は、彼氏と思っていた男に薬物依存にさせられたうえに、ハメられて風俗嬢にさせられてしまった、ある意味では被害者でもある人物だ。
これも対象者役の俳優の演技が素晴らしかった。古川琴音が本当にこんな感じの風俗嬢いるよねと思わせてくれるリアリティあふれる演技を見せてくれているんだよね。
それから、彼女が佳代に好意を持っていたのに、佳代がみどりと仲良くしているところを見て嫉妬し、それがきっかけで自分をハメた男に再び接近し、薬物や風俗の世界に戻っていくところも見ていて切なくなってきた。

ところで、保護司って非常勤国家公務員なのに、無報酬で、しかも、やらなくてはいけないこともたくさんある一方で、やりたくてもできないこともいっぱいあるというのはなんだかなという気もする。
本作でも主人公のような若い女性がやるのはレアみたいなことに言及されていたが、金も時間もありあまっている中高年がボランティア感覚でやるものなんだろうね。だったら、国家公務員でなくてもいいのではって思ってしまうな…。

そういえば、有村架純主演ドラマ「姉ちゃんの恋人」では彼女演じる主人公のオジが保護司だったけれど、今度はかすみんが保護司役ってのは面白いよね。


※画像はWOWOWプログラムガイドより

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