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「第35回東京国際映画祭」開催で思うこと

映画ファンで東京国際的映画祭に対して物申したいことがないという人はいないと思う。そして、そのほとんどの人は功罪(賛否)の両面で語るのではないだろうか。

まずは、ポジティブな方から語っていこう。

日本で一般公開されるかどうか分からない海外作品を一足先に見ることができる。これが一番の醍醐味だと思う。
台湾映画「あの頃、君を追いかけた」は2011年の本映画祭で上映されたが一般公開は2013年まで待たなくてはならなかった。

同年のコンペティション部門に出品された「最強のふたり」は最高賞を受賞したことにより注目され、翌年の一般公開、そして、フランス映画としては異例の大ヒットにつながったと言っていいと思う。

その一方で、2007年に自分が本映画祭で鑑賞したルーマニア映画「カリフォルニア・ドリーミン(endless)」なんて、いまだに日本では一般公開されていない。

また、以前に比べればだいぶ、規制は緩くなったとはいえ、日本では今でも下半身のヘアが映っている作品に対して修正が施されることがあるが、1991年にはフランス映画「美しき諍い女」が無修正版で上映され、当時、20歳になったばかりの自分は下心満載で見に行ったくらいだ。

こうした日本での一般公開では修正されたり、カットされたりする可能性が高い作品。吹替版での上映がメインとなりそうな海外アニメーション作品などをオリジナルの形で見ることができるのも本映画祭の魅力だと思う。

一般公開時の洋画のスタッフ・キャストの来日イベントだと、作品の内容を周知させることよりも、いかに多くの媒体に取り上げられるかが重要視されてしまう。おそらく本国が視聴者数とか読者数といったデータを求めてくるからそうなってしまうのだろう。だから、どうしても、ワイドショーやスポーツ紙が取材してくれるようにするため、日本の芸能人を絡めたイベントになりがちだ。
トム・クルーズの来日キャンペーンですら、日本の芸能人を絡めるくらいだから、いかに日本のメディアが、一般の日本人が海外映画人に興味がないかが分かるかというものだ。

でも、本映画祭では、来日した映画人のコメントをきちんと聞くことができるし、作品によってはティーチインが行われ、一般の映画ファンが、スタッフ・キャストに質問することもできる。最近ではこうしたイベントも増えてはいるものの、他のイベントより開かれた感じはするし、こうした上映が多いのも魅力だと思う。

しかし、全体としてはネガティブなイメージを持つ人の方が多いのではないだろうか。

これは、第1回の時から言われていたことだが、東京国際映画祭で世界初上映という作品は少ない。日本映画ですら、既にマスコミ向けや一般向けの試写会が行われているものが多い。
そして、特別招待作品(今年の呼称だとガラ・セレクション)なんかは特に顕著だけれど、ほとんどの上映作品が近日、一般公開予定の作品となっている。要は映画ファンからすれば、単なる有料試写会でしかないんだよね。

また、これは日本で洋画がヒットしにくくなった=観客の嗜好が内向きになった2000年代半ばから顕著になったことだが、上映作品の日本映画の比率が高すぎるんだよね。
まぁ、一般の映画ファンを動員して利益を上げなくてはいけない、ワイドショーやスポーツ紙に取り上げてもらわないと、注目されていない映画祭と思われてしまい、今後の運営資金集めが難しくなるというのが理由なんだろうが、それだったら国際映画祭を名乗る資格はないんだよね。

だから、映画ファンから“東京国内映画祭”と揶揄されることになってしまう…。

コンペティション部門の上映作品数もカンヌ国際映画祭など世界三大映画祭に比べれば少ないのに、その中に日本映画が3本も入っているなんて多すぎる!しかも、今年はそのうちの1本である「山女」がテレビの単発ドラマの別バージョンだったりするしね。あり得ないよね。
それから今年のガラ・セレクションには廣木隆一監督作品が3本も入っているがそれもおかしい。特集上映でない部門で同じ監督の作品が3本もあるなんておかいしでしょ!

国際映画祭として成立していないんだよ!なのに、キネマ旬報ですらよいしょ記事しか書かない。結局、利害関係にあるから批判できないんだよね。

一般観客のほとんどが日本人、マスコミもわざわざ来日してまで取材に来る人はごくわずかなのに、日本映画の上映時でも英語通訳が入るのはギャグでしかないからね。

また、開催地の変更も国内映画祭化を助長して行ったと思う。

渋谷で開催されていた時は街をあげて映画祭を盛り上げようという機運を感じることができた。
当時、自分が担当していた情報番組で“渋谷の街が映画一色に染まる”というキャッチフレーズで原稿を書いたくらいだ。

2004年以降六本木で開催されるようになったのは(2009年以降は六本木ヒルズがメイン会場に)、おそらく、ワイドショーで取り上げてもらうことを考慮したものだったのではないかと思う。
渋谷だと近くにある地上波放送局はNHKしかないが、六本木のある港区にはキー局全てがオフィスを構えているからね(テレ東はワイドショーを放送していないが)。

しかし、各局が次から次へと自らが製作委員会に名を連ねる映画を公開するようになってしまった。だから、他局の映画を自局で宣伝する必要はないという考えが出てくるのは当然だ。
なので、海外で賞を取った作品(「ドライブ・マイ・カー」など)や記録的な大ヒットとなっている作品(「劇場版 鬼滅の刃」など)以外の邦画、というか映画が取り上げられることがほとんどなくなってしまった。

だから、港区で開催する必要はなくなってしまった。だったら、邦画大手3社のオフィスがある日比谷・銀座地区でやろうとなるのは必然の流れではあるよね。

でも、本来ならメイン会場にしてもおかしくないTOHOシネマズ日比谷のScreen 12や丸の内ピカデリーのTheater 2の使用は限定的となっている。映画祭上映作品よりも一般公開の新作を上映した方が金になるという判断なんだろう。

六本木開催の時はTOHOシネマズ六本木ヒルズの最大スクリーンをメイン会場にしていたし、渋谷時代はBunkamuraで最も集客力のあるコンサートホールのオーチャードホールをメイン会場にしていた。でも、日比谷開催になってからは明確なメイン会場が設定されていないんだよね。

つまり、邦画大手3社は東京国際映画祭は金にならないと思っているということだ。オープニング作品もエンディング作品も東宝作品なのに(まぁ、それ自体あり得ないけれど)、どちらの作品の上映にもTOHOシネマズ日比谷を使わせないんだから、そう思っていると見て間違いないと思う。

そろそろ、抜本的な改革が必要だと思う。

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