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きみの色

2012年以降、東宝は3年ごとに夏に細田守作品を公開していたが、今年は細田作品のかわりに山田尚子作品が公開されることになった。

東宝はこれまでにも、スタジオジブリ、細田守、新海誠、超平和バスターズといった劇場用オリジナルの長編アニメーションを作るスタジオや監督、チームなどが他社作品で成功を収めると、強大な資金や権力にモノを言わせて、“ヘッドハンティング”して自社コンテンツにしてきたが、山田尚子もそのラインナップに加わったということなのだろう。

本作は山田尚子にとっては京都アニメーション放火事件以降初めての長編作品となる。というか、京アニを抜けてフリーランスとなりサイエンスSARUへ軸足を移してから初の長編でもある。
京アニの精緻な手描きアニメを好む人には、SARUのフラッシュアニメ的な独特な作画は受け入れられないような気もするので、果たして京アニ作品のファンに本作は支持されるのだろうかという気もする。

まぁ、放火事件で多くのスタッフを失った京アニには細田や新海と並ぶ存在となった山田を支えるのは難しいし、SARUは中心人物だった湯浅政明が去ってしまったから、カリスマ的な監督が欲しい。そういう色々な事情が背景にあるんだとは思う。



本作の評価を一言で言えば、決して駄作ではないが色々な点が中途半端な超雰囲気映画といったところだろうか。

まぁ、アニメに限らず実写でも、というか洋画でも女性監督作品ってそういうところがあるけれどね。女性のオタク、いわゆる腐女子が好むものがかつてヤマなし・イミなし・オチなしでヤオイ系って呼ばれていたのは雰囲気さえ良ければストーリー展開の整合性とか台詞の必然性とかを気にしないことが理由だったわけだしね。

本作のタイトルは主人公が人や音の色を見る特殊能力を持っているところから来ている。しかし、色が見えるというだけでファンタジー的なストーリー展開は一切ない。

また、主人公はほとんど楽器が弾けないのにギターの練習をしている気になる女子と仲良くなりたいからとウソをついてピアノの練習をしていると言った上でバンド結成まで持ち掛ける。

でも、主人公が一生懸命練習する様子もほとんど描かれることなく、彼女の演奏能力はいつの間にかそれなりになっているし、あっという間に曲も作ってしまう。しかも、バンドの代表曲となるようなキラーチューンをだ。

そして、このバンドは女子2、男子1の逆ドリカム(かつての編成)状態だが、三角関係的な描写もほとんど描かれない。男女比はどうであれ、というか全員同じ性別でも、恋愛感情とか関係なく3人組というのはバンドに限らずどうしたって2:1になってしまうのに、そういうメンバー間の危うい空気感もない。
また、山田作品と言えば、「リズと青い鳥」の百合描写が高い評価を受けていることから、バンドの女子メンバー2人の百合的な関係を期待していた人も多いと思うが、そういう描写もほとんどない。
というか、高校生の話だし、主人公はクリスチャン系の女子高に通っているのに男子とバンドを組み、しかも合宿までしていることを不純異性交友として咎められていないのも謎だ。

そもそも、このバンドの構成がギター・キーボード(主人公)・テルミン(唯一の男子)というのも謎だが。

しかも、3人とも楽器を始めて日が浅いのに作曲能力があり、しかも、それぞれがタイプの違う楽曲を作っていることは驚きだ。

主人公が作った曲とされている“水金地火木土天アーメン”という楽曲は結構、頭にこびりつくけれどね。冥王星と海王星はどこ行ったとツッコミたくはなるが…。

《追記》
劇伴でアンダーワールドの“ポーン・スリッピー”にしか聞こえない曲が流れていて、パクリかな?ここまで堂々とパクれるのすごいなと思ったが、エンドロールを見たらちゃんとクレジットが出ていた。正式なカバーだったのか…。


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