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「リトル・マーメイド」セバスチャンの声優 サミュエル・E・ライト氏死去

ディズニー映画「リトル・マーメイド/人魚姫」(正式な邦題は“人魚姫”がつく)でアリエルのお目付け役セバスチャンの声優を務めたことで知られるサミュエル・E・ライト氏の訃報を聞き、切ない気持ちになってしまった。

一番好きなディズニー映画は何かと聞かれたら、迷うことなく「リトル・マーメイド」と答える。

ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの長編作品のみならず、ディズニーの実写作品やピクサーのアニメーション作品、タッチストーン作品なども含めた全てのディズニー映画の中で好きな作品は何かと聞かれても、その答えは変わらない。

ちなみに2番目に好きな作品は「眠れる森の美女」だ。

ディズニー・アニメーションはウォルト・ディズニーの死後から数年経った60年代末より長い停滞期があった。
80年代になって、ディズニー本体の「トロン」やタッチストーン作品の「スプラッシュ」など実写作品が話題になるようにはなったものの、アニメーションの方は苦戦が続いていた。

そして、ディズニーは停滞を打破するために、ナイン・オールド・メンと呼ばれたベテラン・アニメーターたちが引退し、新たな体制で作品を作る方針に転換することになった。
その結果、徒弟制度というものとは縁遠い米国としては異例ともいえるベテランから若手への引き継ぎ作業が行われた。

しかし、若手主導で作った1986年度作品「オリビアちゃんの大冒険」は、まずまずの成績を収めたものの、同じ年にディズニー出身のドン・ブルース監督とディズニー映画に影響を受けたスティーブン・スピルバーグが組んだ「アメリカ物語」が成功を収めたために、印象は薄くなってしまった。しかも、「アメリカ物語」は擬人化した動物が活躍するミュージカル・アニメーションであり、知らない人が見たらディズニー映画と思うような作品だから、ディズニーは出鼻をくじかれたという感じになってしまった。

続く、1988年度作品「オリバー/ニューヨーク子猫ものがたり」は、ヒューイ・ルイスやビリー・ジョエル、ベット・ミドラーなどの人気アーティストに主題歌やミュージカル・ナンバーを歌わせるという(ビリー・ジョエルやベット・ミドラーは声優としても参加)、MTV風映画が流行った80年代らしい作品となり、興行的には成功と言っていいレベルの数字をあげることができた。
ところが、これまた、同じ年にドン・ブルース監督とスピルバーグが組んだ(しかも、今回はジョージ・ルーカスも参加)「リトルフットの大冒険/謎の恐竜大陸」が、「オリバー」以上の大ヒットとなってしまったため、これまた、ディズニー復活を印象付けることは叶わずに終わってしまった。

それに続いたのが、この1989年度作品「リトル・マーメイド」であり、こちらは文句なしの大ヒット作となった。また、サントラ盤も大ヒットし、アカデミー賞では歌曲賞と作曲賞を受賞。完全にディズニー映画復活を宣言することができたというわけである。

この作品の魅力を一言でいえば、古き良きディズニーと、新しいディズニーをつなぐ作品といったところであろうか。

「白雪姫」や「シンデレラ」、「眠れる森の美女」などはどう見たって、大昔の映画だと思う。自分が10〜20代の時に見た時でも、そう思った。勿論、素晴らしい作品であることには違いないが。

「リトル・マーメイド」の成功によって、90年代にはアニメーション映画として初めてアカデミー作品賞にノミネートされた「美女と野獣」をはじめ、「アラジン」や「ライオン・キング」といった大ヒット作が次々と生まれたけれど、やっぱり、これらの作品は90年代の作品という感じがする。

また、ディズニーが手描きからCGアニメーションに移行した2000年代以降、その傾向はさらに顕著になり、言い方は悪いが、その作品が公開された時代を映し出した単なるヒット作品に成り下がってしまっている部分はあるとは思う。それは、「アナと雪の女王」にしても、「ベイマックス」にしても、「ズートピア」にしてもそうだと思う。

でも、この「リトル・マーメイド」は80年代までのディズニーと、90年代以降のディズニーのちょうど狭間にあるから、ほどよい感じで永遠のクラシックでありながらも、永遠の新作でもあるって感じを保っているんだよね。

70〜80年代のディズニー・アニメーションの不調により、日本では本国よりも大幅に遅れて1991年の夏に公開されたけれど、その時に映画館で見て以来、ずっと好きな作品だ。

悲劇である原作をハッピー・エンディングに変えたことに対する批判はあるかもしれないが、個人的にはこの改変は好きだな。
90年代以降、ディズニー映画はハッピーなんだかアンハッピーなんだか分からない終わり方の作品が増えたけれど、やっぱり、こういうベタなのがいいな。まぁ、現在のポリコレ感覚ではこういうストーリーは許されないのかもしれないけれどね。

そして、この映画の最大の魅力は音楽だ!
日本では、アリエルが歌う「パート・オブ・ユア・ワールド」の方が人気が高いかもしれないが(日本初公開時にシングル・カットされたくらいだから、日本人好みなんだろうね)、個人的にはサミュエル・E・ライト氏が声をあてたセバスチャンが歌った「アンダー・ザ・シー」と「キス・ザ・ガール」の方が好きかな。

実際、アカデミー歌曲賞にノミネートされたのも、この2曲だしね。

ロマンティックな感じとコミカルな感じがまざった「キス・ザ・ガール」はカントリー・バンド、リトル・テキサスのバージョンがカントリー・チャートでヒットしたけれど、そっちのバージョンも好きだったな。

そして、歌曲賞受賞曲となったトロピカルなナンバー、「アンダー・ザ・シー」はこれぞ、ミュージカル・ナンバーという賑やかさがたまらない!しかも、この曲って、セバスチャンがアリエルにお説教するような歌なのに、セバスチャンがご機嫌に歌っている間にアリエルが逃走するというオチまでついていて笑えるんだよね。

「リトル・マーメイド」という作品の魅力のかなりの部分はこの2曲によるところが大きいと思うので、それを担っていたサミュエル・E・ライト氏が亡くなったというのは、本当に残念で仕方がない。

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