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ボン・ジョヴィ フロム・アンコール・ナイツ

ヒューマントラストシネマ渋谷で見たが、予告編なしで、劇場からのお知らせ(ノーモア映画泥棒含む)だけ流して、すぐに本編上映開始という形での上映なのに、開場が上映開始7分前ってのはどうなのよとは思ったが、こうした企画自体は良いことだとは思う。

この手の音楽ライブ・ドキュメンタリーって、1日のみの上映というのが多いが、今回は一部劇場では複数日上映となっているのも好感が持てる。

それだけ、洋楽ライブに飢えている人が多いということなんだろうね。

自分でシフトが決められない仕事をするようになって、4年9ヵ月ほどになるが、洋楽ライブというのは平日が多いから、なかなか、シフトに自由度がない仕事をやっていると洋楽のライブって行きにくいんだよね。
この期間で行くことができた洋楽ライブって、ノラ・ジョーンズ、コールドプレイ、アリアナ・グランデ、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、ブルーノ・マーズ、ペット・ショップ・ボーイズのたったの6組しかない…。
しかも、この1年4ヵ月ほどはコロナ禍でアーティストの来日が中止・延期になるケースが相次ぎ、長期にわたる洋楽ライブ供給の空白期間というのが続いている。

欧米ではワクチン接種が進んだことにより、人気アーティストのツアーやフェスの再開も発表されてはいるものの、ツアー日程からはワクチン接種が進んでいない日本などアジアは外されている。
少なくとも、年内いっぱいは洋楽ライブなんて無理なんじゃないかという気がする。
欧米みたいにワクチン接種済みの者のみ入場可能にできるほど、接種率が一気に進むとは思えないしね。

だから、こういう洋楽アーティストの最新ライブ映像が映画館で見られるというのは大歓迎だ。

本作はドライブインシアターでの上映を前提に作られた無観客ライブの映像作品である。要は配信ライブみたいなものだ。

ドライブインシアターとはいえ、劇場での上映用に作られているから、音質・画質は文句なしだ。実際、日本では普通の映画館で上映されているしね。
邦楽アーティストはよく、“配信ライブは金にならない”とか、“配信ライブを複数人で一緒に見る時は、見る人数の分だけ配信チケットを買え”とか言うが、そんな戯言は、本作のようなきちんとしたクオリティのものを配信してから言えって思う。

会場の再撮用モニターに流す映像やメイキング映像程度のクオリティのものしか配信していないくせに何言ってんだかって感じだ。

今回上映された「ボン・ジョヴィ フロム・アンコール・ナイツ」は、通常の欧米でのコンサート同様、オープニング・アクトのパフォーマンスからスタートする。

いまだにボン・ジョヴィをハード・ロック・バンド扱いしているのは、BURRN!くらいだとは思うが、それでも、オープニング・アクトがシンガーソングライターのディーン・ルイスというのは意外だ。

マッチボックス・トゥエンティーとかザ・ウォールフラワーズ、トレイン、グー・グー・ドールズあたりのミッド・テンポ系のアダルト層受けするロックをやっているバンドに近いジャンルのアーティストだからね…。
BURRN!のような古いロック観を持っていなくても、その辺はちょっと不思議には思ったかな。

あと、日本公開が急遽決まったから間に合わなかったのかどうかは知らないが、MCとかアーティストからのメッセージ部分には字幕をつけても良かったのではないかとも思った。
まぁ、本作の客層の大半を占める洋楽好きのオーバー40なら、字幕がなくても理解できるレベルの英語だけれどね。

そういえば、最後の締めのメッセージ担当が、ジョン・ボン・ジョヴィでなく、デヴィッド・ブライアンであることにちょっと驚いた。
でも、デヴィッドはコロナ感染経験者だから、コロナ禍の疑似コンサート体験という本作の趣旨を考えれば、誰よりも適任なんだよね。
元気そうで何よりだ。

本作の不満点といえば、無観客ライブなのに、歓声のSEをかぶせていることかな。ちょっとダサい…。あと、アンコール曲の前に、“ここはアンコールを求める時間ですよ”みたいなCGが入るのもダサい…。

全体として気になったことは、セットリストにおける2000年代半ば以降の楽曲の比率が高いってことかな。
ストリーミング時代になって、ベテラン・アーティストがヒット曲を出すのは困難になってしまった。
フィーチャリングを除けば、コンスタントに全米トップ40ヒット曲を放っているアーティストで最も古株と言えるのはマルーン5やクリス・ブラウンといった2000年代半ばにブレイクしたり、デビューしたりしたアーティストだ。その程度のキャリアで古参中の古参になってしまう。

80年代デビュー組のボン・ジョヴィなんて、2007年以来、全米トップ40ヒットを放っていない。100位以内まで拡大しても、最も最近のヒット曲は2009年だ。

にもかかわらず、最近の楽曲の比率が高い理由として、まずは、ボン・ジョヴィが他の洋楽ベテラン・バンドとは比べものにならないほど、2000年以降にリリースしたスタジオ・アルバムの数が多いことがあげられると思う。

60年代デビュー組のザ・ローリング・ストーンズは2000年以降ではたったの2作しかスタジオ・アルバムをリリースしていない。しかも、そのうちの1作はカバー・アルバムだ。
70年代組のエアロスミスは3作(うち、カバー・アルバム1作)。
ボン・ジョヴィと同じ80年代組でジャンルも近いバンドでいえば、デフ・レパードが4作(うちカバー1作)、メタリカが3作といった感じだ。
ジャンルは異なるが、同じ80年代組で現役感の強いU2ですら5作だ。

ところが、ボン・ジョヴィは9作も出している(うち1作はノン・プロモーション状態だが)。そりゃ、セトリで最近の楽曲が多くなるわけだよねって思う。

そして、もう一つの理由が、ジョン・ボン・ジョヴィの歌唱力、声量の低下だと思う。
現役バンドに対して、“往年のヒット曲・名曲を披露”みたいな言い方は失礼極まりないと思うが、礼儀知らずなマスコミや世間一般が往年のヒット曲・名曲と思っている楽曲のパフォーマンスでは、ジョンの劣化を感じずにはいられない。
というか、2000年のヒット曲“イッツ・マイ・ライフ”ですら、今のジョンでは十分に歌唱できていないようだ。
当然、最大のヒット曲である“リヴィン・オン・ア・プレイヤー”など80年代から90年代の楽曲の歌唱にはちょっと失望する部分もある。
ぶっちゃけ、デヴィッド・ブライアンのバック・コーラスの方が高音が出ているほどだ。

でも、2000年代半ば以降の曲では、そうした劣化は感じられない。
この間、ボン・ジョヴィの音楽はどんどん、ハード・ロック色が薄くなっているが、そうしたカントリー路線など非ハード・ロック系の楽曲のみならず、わずかにハード・ロックの名残りを感じる楽曲でも、きちんと安定したボーカル・パフォーマンスを披露しているから、おそらく、2000年代半ばあたりから、劣化したジョンの声でも歌えるような楽曲を作るようになっているのだと思う。
だから、ライブで歌いやすい曲である最近の曲の比率が高まっているのではないだろうか?

ところで、ジョンが白髪のおじさんイメージになって久しいけれど、目元はアイドル的人気があった80年代と変わらない可愛さが残っているということにも気付いた。
その一方で、デヴィッド・ブライアンって、ずっと見た目が変わらない気がするんだけれど…。

そして、大音響で楽曲を聞いたことで気付いたこともある。
“フー・セズ・ユー・キャント・ゴー・ホーム”や“ロスト・ハイウェイ”、“ドゥ・ホワット・ユー・キャン”といった2000年代半ば以降のカントリー路線の楽曲も結構、重低音が響いているんだなと…。結局、ボン・ジョヴィのベースにはハード・ロックがあるってことなんだろうね。

それにしても、通常のライブでは観客に歌わせているパートを、今回も同じように観客に歌わせる仕様でパフォーマンスしていたが、ふられると歌いたくなるよね…。
映画館じゃ声出せないしね…。
米国ではドライブインシアターでの上映で、身内しかいない車内での鑑賞だから、声出しできるけれど、日本では映画館での上映だからね…。

“リヴィン・オン・ア・プレイヤー”で“オーオー!”って叫びたいよね…。

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