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クラフトビールメーカーがローカルレースを主催して伝えたいこととは

「高尾麦酒歩荷駅伝」というレース競技を開催しています。「たかおビールぼっかえきでん」と読みます。

駅伝とありますが、舗装路を走る駅伝(お正月にテレビでみるやつが有名)と違って山道での開催。そして重たいビール樽をタスキ代わりに担ぐ、おそらく唯一のレース競技です。

聞き慣れない「歩荷」とは

歩荷(ぼっか)とはなにかというと、山に荷物を担ぎ上げることを歩荷といいます。
また「歩荷さん」と荷物運びのひとに対して呼ぶこともあります。日光をはじめとした各地の山小屋に今も存在している職業です。(他には剛力やポーター、案内役も備えたシェルパも近い役割を持っています。)

麦酒歩荷駅伝のルール

基本は駅伝そのもの。5人でチームになり、2kmのコースを1周ごとにタスキリレーして5周するタイムを競います。タスキ代わりになるのが、約15kgのビール樽です。

この競技のルールで独特な点は、タスキがビール樽であることと、ビールを飲むと荷物がどんどん軽くなる仕組みです。

チーム内の役割は2種類あり、ひとつはポーター、もうひとつはドリンカーと呼ばれます。
ポーターはビール樽を背負って運ぶ人。飲酒厳禁です。
ドリンカーはビールを飲む人。ポーターが荷物を運ぶ間にビールを飲み、飲んだ量だけ、ポーターが運ぶビール樽からビール*1を抜いて軽くすることができます。
飲めば飲むだけ荷物が軽くなりますから、走れる人と飲める人がいるチームが有利になります。

*1 実際の競技では樽の中は水道水です。

ビールを背負うねらい

荷物を背負わない空身(からみ)であれば当然ランナーが有利ですが、15kgの負荷を加えることで、重量物の運搬に長けたハイカーの優位性も発揮できるのではないかと考えました。さらに飲むことに長けたドリンカーが活躍することで競技にゲーム性とユーモアを組み込みました

ランナーとハイカーの相互理解

普段高尾山に遊びに行くと、
ときどきハイカーから、隣を駆け抜けるランナーが怖い。という声を聞きます。
一方ランナーから、登山道に広がって歩くハイカーが邪魔だ。という声を聞きます。
同じ山道で、のんびり歩きたい人と自分を追い込みたい人がいる中で、互いの目的を理解し合わない上での共存は難しい話です。
せめてこの競技では、ランナーとハイカーとの間にある走力差を均衡させることで、両者が同じ目線に立てるかな?というのが企画のスタートであり、同じの競技に参加して相互の理解を深める目的があります。

そして、だいたいのランナーとハイカーはビールが好きです(弊社調べ)。ビールをハブに相互理解が円滑に進むことを願っています。


### ここからはレース開催までに至る、偉大な先達への感謝です。

レースディレクターを探す

いきなり競技を開催するにもノウハウが不足していました。
そこで協力を仰いだのがトレイルランニング向けのウェアやバックパックなど展開するブランド"Answer4"です。
高尾のトレイルを知り尽くしていることに加え、レースの主催経験も豊富でこの上なく心強いパートナーです。

はじめてAnswer4の代表コバさんに企画内容を話す際は、「ふざけてんのか!」と怒られるのを覚悟していたのですが、返答は意外や安心するものでした。

「ガッハッハ!!バカなレースだなぁ〜!」

トレイルランには、順位を競う(真面目な)競技以外でもファンランと言って楽しむことを主目的にしたレースが存在するし、新しいレースを求めているランナーはいるはずとのことでした。

コースやルールの設定、レース開催時のポイントなどのナレッジを惜しみなく教えてくれて、キャラクターグッズの展開まで!毎回多大な協力をいただいています。

なお、私は以前からAnswer4の山を守る活動をリスペクトしています。
ランナーとハイカーが互いに気持ちよく山を楽しむための"高尾マナーズ"、毎月の高尾山清掃活動"クリーニングクラブ"、トレイル保全活動などなど。
自分たちがプレイヤーであるからこそ、トレイルを中心とした自分たちの活動の場を守っていく活動をあたりまえに続けています。

参考にした競技

歩荷駅伝はすでに素晴らしい大会が存在しています。丹沢の塔ノ岳を舞台に行われる丹沢ボッカ駅伝です。
”丹沢山塊における山岳スポーツ競技を通じて、登山の振興の発揚と自然環境の保全をめざします。”とあり、三十数回の歴史を持つ競技です。

数年前に足しげく丹沢の山に通っており、ある日塔ノ岳を訪れた際に、ちょうど丹沢ボッカ駅伝の開催日だったことがあります。
登山道では歴代のTシャツが飾ってあったり、控えめなムードの中にも熱い盛り上がりがありました。
塔ノ岳山頂からの下り道、背負子に砂利の袋を載せた選手が汗だくになりながら登ってくるところに遭遇した時の驚きは今でもよく憶えています。

背負子の軋む音。選手が重い足取りで歩くごとに「ギシ、、、ギシ、、」という音を立てて、背負子は肩に食い込んでいました。
もうひとつ衝撃だったのが、選手からかけられた言葉です。
登ってくる選手に道を譲ろうと思い、登山道脇で木に手をかけて待っていたところで、息も絶え絶えの選手が私に放ったのはこんな言葉でした。

「すいません、、、その木を、貸してください。」

木を、、、貸す??
理解に戸惑いましたが、要は「その木を掴んで休みたいから、そこをどいてくれ」ということでした。
一度座ると立ち上がるのが大変なのでしょう。座るわけにもいかず、何かにもたれかからないと休めない。
数歩登っては木をつかんで息を整えている様子を眺めていると、
「そんなにツラい思いをしてまで、、登りたいのか??」というのが
私の正直な感想でした。

もうひとつ参考にしたのが、ミッケラービアセレブレーションというビアフェスで見た「ビアマイル」です。
走って周回ごとにビールを1缶飲み干してまた走る。という競技です。走って飲んで走って飲んでを繰り返す、真面目に馬鹿なことしてる感がヒシヒシと感じられました。
身体への負担を担保にビールを楽しむスポーツ。かなりエッジが効いていて、初めてスポーツとパンク精神が結びついたものを見た気がしました。

丹沢ボッカ駅伝とビアマイル、どちらもとてもユニークですが、ユニークだからこその困難も多くあるはずです。続けていることの偉大さへ敬意を払いながら、麦酒歩荷駅伝も山岳スポーツの末席として存続していければ良いなと考えています。

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