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【雑感】人はどうしたら歴史好きになるんだろう?(前半)

歴史好きへのよくある質問

探究学舎というところに入社して今年で4年目となる。授業のコンテンツ作成や運営にあたるメインファシリテーターとして様々なテーマの授業を子どもたちに届けてきた。だが今でも主戦場としているジャンルは「歴史」だ。作ったコンテンツも運営した授業も歴史系のテーマがダントツ多い。

そんなもんだから、子どもたちにも保護者さんにも頻繁に聞かれる類の質問というのがある。

「いつから歴史好きだったんですか?」
「何をきっかけにして歴史にはまったんですか?」
「どうやったら歴史好きになるんですか?」

曲がりなりにも歴史が好きなだけあって、おそらく人並み以上には知識があるし、いろんな歴史書籍も読んでいる方だとは思う。それに歴史好きの子どもに負けじと「歴代幕府将軍&歴代天皇を早口で暗唱する」という謎の特技まで身につけてしまったもんだから「どうしたらそんな人間になる(なれる?)のだろうか?」と気になる人がいるのも無理はなかろう。

ただし残念ながら、明確なきっかけというのは全く覚えていない。正直「気づけば歴史好きになっていたから、改めてきっかけとか聞かれても困る」ぐらいのノリだ。結構そういう人って多いんじゃないだろうか?

「歴史好きに至る経路」にある程度の法則性が見えれば、理想の歴史学習法というのが確立できるのかもしれないが、僕の知る限りそのルートは千差万別だ。上に乗せた本郷和人さんと本村凌二さんの対談記事にはお二人が歴史好きになったきっかけが載っている。日本中世史が専門の本郷さんは小4の時に京都・奈良に旅行に行って仏教芸術が好きになったのがきっかけ、古代ローマ史が専門の本村さんは中一の時にローマ帝国を舞台にした映画『ベン・ハー』を観たのがきっかけだそうな。

ただ歴史好きの人生を紐解いていけば、それなりの類似点もある気がしているので、ちょっと自分の人生を思い起こしながら「どうして自分は歴史好きに育っていったのか?」を考えてみようと思う。

謎に包まれた最初のきっかけ

僕が歴史の何がしかに触れる機会を作った媒体といえば以下のものが思いつく。

TVドラマ、TV番組、映画、マンガ、小説、雑誌、ゲーム

今であればネットやYoutubeといったものが入ると思うが、少なくとも僕が小学生だった2000年代前半はそんなに普及していなかったし僕自身も触れてなかった。

自分が歴史というものに興味を明確に持つようになったのはだいたい小学校2年生~3年生ぐらいだったと思う。というのも、小学校3年生の時、母にねだって「天下分け目の戦い」が行われた岐阜県関ヶ原町に出かけ、1泊2日でいろんな史跡を見てまわった記憶がある。ちなみに関ヶ原は、戦いの時に諸将が陣取ったであろう場所にのぼり旗が立っているぐらいで、あとは特に何もない。関ヶ原ウォーランドという、一風変わったコンクリート像の実物大パノラマがある資料館があり、足を運んだ際に熱心に館長さんにお話を聞いた覚えもある。

余談だが、去年には岐阜関ヶ原古戦場記念館という立派な博物館がオープンしていたのでちょっと行ってみたくなった。

ただ僕が小学校2年生ぐらいに歴史に触れたきっかけが何であったかはあまり思い出せない。たぶんTVの歴史特番みたいな番組で、日本史の偉人の物語を解説したりドラマ仕立てにしていたり、そんな具合だったと思う。いずれにせよ、タイトルすら思い出せない些細なきっかけだったのだ。まさか両親も僕が歴史というフィールドを飯の種にする大人に成長しているとは夢にも思ってなかったろう。

歴史好きを加速させた学習マンガ

記憶を辿った限り、僕が小学生2年生ごろからどっぷり触れていた歴史コンテンツは、ほぼ間違いなく歴史学習マンガだ。といっても日本史・世界史といった通史ではなく、伝記である。

小学生の頃の記憶なので定かではないが、たぶん集英社の『世界の伝記』小学館の『学習まんが人物館』というシリーズだったと思う。

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(学習漫画 世界の伝記 新Aセット:Amazonより引用)

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(学習まんが人物館日本の偉人:Amazonより引用)

何が印象的って、ここに登場した偉人の伝記漫画に載っていた話やエピソードは結構鮮明に覚えている。

「シュヴァイツァーが30歳で医学部に入り直した」
「ノーベルがダイナマイトの発明で死の商人と呼ばれたのをきっかけにノーベル賞を創設した」
「ナポレオンは士官学校時代に雪合戦で天才的な戦術を見せて先生が舌を巻いた」
「杉原千畝はユダヤ人を救うために帰国の列車ギリギリまでビザを書き続けた」
「野口英世は幼い頃左手を火傷で怪我したが、手術で治ったことをきっかけに医者を目指した」

などなど。こうしたエピソードは後に学術的に否定されているものもおそらく含んでいるとは思うが、やはり物語は記憶に残りやすく、大人になっても案外忘れないものだ。それに伝記漫画は1冊で読み切れるしビジュアルイメージも多いので、低学年でも触れやすいのが良い。

思い返せば、うした伝記漫画を飽きずに何度も何度も読み返していた。よく飽きなかったなと思うが、Youtubeやスマホが身近ではなかった分娯楽が少なかったからか、それともこうした人物伝にカタルシスを感じていたのか。おそらく両方の理由から繰り返し読んでいた。記憶に結構残っているのもそのせいかもしれない。

こうして人物からスタートして周辺の時代にも興味を持ったはずだが、通史マンガは読み物としては面白く(かつ繰り返して)読んでいたが、それほど網羅的に歴史を知る・学ぶことにこだわりを持っていたわけではない。

自宅に初めて置かれた通史の歴史学習漫画が何だったのかずっと思い出せなかったが、この記事を書くにあたってようやく見つけ出した。成美堂出版の『まんがで学習 日本の歴史(全5巻)』だ。

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(まんがで学習 日本の歴史(第1巻):Amazonより引用)

全5巻というのはだいぶコンパクトなので、情報量は少ないが要点だけをうまく描いている。今振り返れば初学者にはちょうどよかったのだろう。無論本人は面白いと思って読んでいるのであって「歴史を学習している」などという高尚な意識は少しもなかったが。

「線の知識」の入り口、歴史ドラマ

さて、ここまでの話をまとめると、少なくとも小学校2~4年生までの間に僕の歴史に対する興味をかき立てたのは「TVの歴史特番」や「偉人伝記マンガ」といった「人物やピンポイントの出来事を扱った点の知識」であったと思う。

特に人物伝というのは、その物語性にカタルシスを感じやすいのだろう。いわゆる「ドラマツルギー」と呼ばれる「発端→葛藤→解決」という読み手の感情が解放されて快を感じやすいストーリー展開ができるものが偉人伝になりやすいのだろう。特に人物中心で描かれるというのは、時代を見る視点が行ったり来たりしないし、感情移入しやすいという意味でまだ「抽象的なものを扱う論理思考能力」が形成途中の子どもでも取りやすいのだろう。

まぁそれでいえば、織田信長や豊臣秀吉、ナポレオンやリンカーンといった人物はわかるが、シュバイツァーや野口英世、二宮金次郎といった偉人にどこまでカタルシスを感じていたかは疑問だが。

こうしたものを中心に様々な時代・地域における「点の知識」が置かれていくが、もう少し長い時系列の時代史(ex.戦国時代)が形成されるきっかけを作ったのは間違いなく映像作品、特に大河ドラマだった。こうした少し長い時系列知識を「短線の知識」と呼ぼう。僕の場合、「短線の知識」が紡がれるきっかけになった大河ドラマは2005年の『義経』、2006年の『功名が辻』、そして2007年の『風林火山』だ。

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(『義経』のワンシーン:NHKHPより)

うる覚えだが『義経』は毎週見ていたわけではなかったと思う。今の大河ドラマもそうだが、激しい戦闘シーンや英雄譚ばかりではなく、駆け引き・謀略といった政治ドラマや人間模様を描いた場面は多い。大人としてはそれが面白くもあり、ドラマの厚みと深みを生み出しているのだが、単純な子どもだった僕にはそうした部分はあまり面白く感じなかった。

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(『功名が辻』ワンシーン:NHKHPより)

だがその翌年の『功名が辻』は毎週欠かさずみていた。司馬遼太郎が原作の、初代土佐藩主・山内一豊とその妻・見性院を主人公にした戦国時代が舞台の大河ドラマ。当時の僕は信長、秀吉、家康といったメジャーな戦国武将は知っていたものの、当然山内一豊なる戦国武将は初耳であった。それでも「信長→秀吉→家康」の時代まで活躍した一豊を中心に同時代の他の武将や時代背景に興味を持つとても良いきっかけだったと思う。一部の場面はかなり印象深く記憶に残ってもいる(信長配下の一豊が朝倉氏討伐の際、弓の名手である敵将を顔に矢を受けながらも討ち取ったシーンetc)。

それまで「点としての戦国武将の知識」しか持ち合わせていなかったところに「少し長い時系列としての戦国時代」におそらくこの時興味を持ったはずだ。それに「だいたいこの人とこの出来事は同じぐらいの時期」といった時代感覚もこの頃持ち合わせ始めたのではと思う。子どもたちと接していてもたまに気づかされるが、個々の戦国武将には異様に詳しいが、それらの時系列的な順序は全く知らないといったことは多い。

それに、一般的な戦国武将のイメージというものが様々な人間ドラマを通じて確立したのもここら辺だろう。舘ひろし演じる信長は「火縄銃や南蛮風の甲冑を取り入れ、朝廷や将軍権威を恐れぬ野心家」であり、柄本明演じる秀吉は「人たらしで女性関係にだらしなく、才覚一つで昇り詰めるものの晩年は失政が目立つ」などなど。もちろんこうした人物像は近年の歴史学で否定されつつもあるが、こうした「歴史人物像の更新」に対しても驚きと快感を感じるベースは間違いなく大河ドラマで作られた

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(『風林火山』ワンシーン:NHKHPより)

中学生に入ってしまうが、2007年の大河ドラマも同じく戦国時代が舞台の『風林火山』であった。武田信玄の軍師・山本勘助が主人公のこのドラマは、信長や秀吉とはまた違う視点の歴史を教えてくれたように思う。「複数の視点から歴史の事象を見る」といういわば複合的視点を持ち合わせるようになったのは、このように連続で戦国ものの大河ドラマをぶつけられたことが契機だったと思う(もちろんその複合的視点の解像度はかなり荒いが)。

歴史への本格的な探究の始まりとは?

さて、ここまでの話を整理しよう。

だいたい小学校2年生ぐらいにふとしたきっかけで歴史に興味を持ち、小学校3~4年生までは偉人マンガで「点の知識」を蓄え始め、小学校5年生以降は大河ドラマといった映像作品で、取り立てて戦国時代という「短線の知識」が形成されていくことになった。

だがこれだけでは「単なる歴史好き」で終わっていた気がする。ここからいかにして他の時代・地域に興味が伸び、そして歴史を見る解像度が上がり、絶えず歴史の復元像をアップデートし続ける探究的営みをし始めるようになったのか?それは小学校高学年~中高時代に要因があると思うが、そのお話は次回に回そうと思う。

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