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『COOL文楽 SHOW』を振り返って 3月16日・17日

3月15日(木)と16日(金)の2日間、森之宮のクールジャパンパーク大阪TTホールで「COOL文楽SHOW」が開催された。

早くも桜が見ごろを迎えていた大阪城公園

今年は近松門左衛門の300回忌にあたる。
プロジェクションマッピング、講談とコラボレーションして「曽根崎心中」を一気見しようという企画だった。
現在上演されている「曽根崎心中」は、昭和の時代に野沢松之輔さんが脚色・作曲したものだが、原作にはお初が大坂三十三所観音廻りをする、その名も「観音廻り」というプロローグがついていた。
残念ながら当時の曲は残されていない。
そこで、鶴澤清介さんが作曲して「観音廻り」が復活。
ステージ後方のスクリーンには画家の後藤靖香さんが手がけたプロジェクションマッピングが動き、お初の一途さや可憐さが表現されていた。
 
「生玉社前の段」「天満屋の段」は、講談師の玉田玉秀斎さんが臨場感たっぷりに語り、観客を魅了した。
徳兵衛は、友人の九平次にお金をだまし取られた挙句「ニセ証文を作った大罪人だ!」と殴る蹴るの暴行を受ける。
追い詰められたお初と徳兵衛は「もう死ぬしか道は無い」と死を決意するのだ。玉秀斎さんの講談によって、心中にいたるまでの経緯が分かりやすく描かれた。
今世に絶望した2人は来世で結ばれることを信じて天満屋を抜け出し、暗い「天神の森」へ向かう。

光栄なことに司会を拝命した

ここからは再び「文楽」。舞台転換をしなければならない。
定式幕の中で3分~4分の作業が行われている間、太鼓の音だけが会場に鳴り響く。
通常、舞台で転換に3分以上かかるとなると長すぎるのだが、ちょうど天満屋があった北新地から「お初天神」まで歩くと、これくらいの時間になるのだ。
お客さまも、お初と徳兵衛の2人とともに真っ暗な夜道を天神の森へ歩いている…会場はそんな不思議な空気に包まれていた。     

また、2日間、それぞれに、冒頭にトークコーナーがあった。
 16日のゲストは『舟を編む』『風が強く吹いている』などで知られる直木賞作家・三浦しをん先生。
しをん先生は、近松門左衛門のことを「もんもん」と呼んでいらっしゃるそうで、この日も「もんもん」呼びが飛び出した。
中学時代の同級生の鶴澤寛太郎さん、豊竹希太夫さん、吉田蓑紫郎さんも加わって、わいわい楽しいトークとなった。
三味線、太夫、人形遣いの三業が分かれているからこその面白さ、苦労なども伺うことができた。

後藤靖香さんが手がけた巨大なお初、徳兵衛の幕前で。鶴澤寛太郎さんと。

17日のゲストは、俳優の篠井英介さんと、人間国宝 桐竹勘十郎さん。
篠井さんは、映像作品での悪役のイメージとは裏腹に優しくて温かいお人柄。舞台では「女形」を専門にされている。女形と人形遣いの表現の共通点や違いなど、深い対談となった。
勘十郎さんのお話しで印象的だったのは「目指すお初の表現」について。
「お初を見る特等席は“左遣い”」
文楽の人形は3人が密着して遣う。左遣いとして、師匠である吉田蓑助さんが操るお初の顔を斜め後ろから見たとき、衝撃が走ったと言う。
「天神森の段のクライマックスで、黒い頭巾越しに見たお初の表情は本当に覚悟を決めた美しさで、ぼろぼろ涙が溢れた。あのときの「お初」を今でも目指している。」と語る勘十郎さんに、会場から惜しみない拍手が贈られた。

今回、新しい試みとして行われた「COOL 文楽 Show」
300年前、芝居小屋が立ち並び色とりどりの幟が揺れた江戸時代の大阪と、現在の大阪、そして未来の未来の大阪が渾然一体となっているような舞台だった。

まさに「文楽」という芸能が、大阪の過去と今と未来を結び付けているのだ。

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