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どんべえ介護日記〜おそらくラストミッション〜 その2


2024年6月9日(日)

朝一番でかかりつけの動物病院へ。今日もステロイドと抗生物質を打ってもらう。

腎臓疾患を抱える犬特有の口臭を確認した医師に、昨夜は血尿も出たことを話したところ、「あと1週間持つかどうか」と、初めてはっきりと余命宣告をされた。

「そうですよね」とその場では返したものの、正直まったく実感が湧かない。もちろん見るからに弱っているし、これまでの具合の悪さと次元が違うのも頭では理解しているつもりなのだが、「まだ奇跡が起きるんじゃないか?」とありえもしない期待をしてしまっている自分がいる。

犬の方が人間よりも寿命は短い。一緒に暮らせばいつか必ず見送ることになる。そんなことは、どんべえを迎え入れた時から分かりきっていたはずなのに、覚悟なんて全然できていなかった。

およそ18年間、嬉しいときも悲しいときも辛いときも、いつもそこにいた存在を失ってしまう事実がうまく飲み込めない。人間とは違い、俺なしでは生きていけないどんべえは、紛れもなく俺自身の一部だ

サメ柄のソックスがお似合いのどんべえ

「どんべえのことが気になり、居ても立っても居られないから」と駆けつけた前妻にどんべえを任せ、気分転換に外で少し仕事をする。夕方になって帰宅してみると、どんべえの呼吸はさらに速くなっていた。

時々シリンジで水を与えてみるが、ちょっと舌で舐めとる程度であまり多くを飲むことができない。あまりにも苦しそうに呼吸をしている様子を見ているのも辛く、鎮静剤を打ってやるべきなのか迷う。

しかし、夜になり合流したパートナーにそのことを話すと、「苦しくても必死で息をして生きようとしているのに、それを抑える薬を与えるのはどうだろう?」と言われる。そのとおりだと思った。やはり、これまで数多くの保護猫たちを看取ってきた彼女の言葉は、説得力と重みが違う。

それから3人で、どんべえを囲んで夜中まで話し込んだ。

印象に残っているどんべえとのエピソードをそれぞれ出し合ったのだが、犬用に焼いてもらった美味しい鶏肉をたらふく食べさせたら、次の日お腹を壊して車がウンチまみれになった話や、北海道旅行へ連れて行った時に、空港で「荷物」扱いとなってベルトコンベアで運ばれて行った瞬間に激しく後悔した話、まだ子犬の頃に抱っこしてたら床に落としてしまい、顎がめくれて大騒ぎになった話(すぐ元に戻った)など、どんべえにとっては「災難」としか言いようのないことばかり思い出して大笑いした。

2024年6月10日(月)前編

昨日から泊まり込みでどんべえの介護体制に入った前妻にどんべえを任せ、久しぶりにどんべえが寝ているリビングではなく寝室で寝る。

起きてすぐどんべえの様子を見に行くと、昨日と同じように頻呼吸を繰り返していた。この状態になってからすでに丸3日も経つ。苦しくても必死に空気を体に取り込み生きようと頑張っているどんべえの姿に、ただただ感服するほかない。俺だったらとっくに諦めているだろう。

「どんべえがいなくなったら、もう生きていく自信がない」なんて思っていた昨日までの自分を恥じた。大切なことを、彼には最後まで教えてもらっている。

実はパートナーが、歩けなくなってしまったどんべえのために先月から歩行器を作ってくれていた。すでに乗せるのは体力的に難しい段階に入ってきてしまっていたのだが、「なんだか験担ぎみたいになってきて……」と最後まで仕上げてくれた彼女の気持ちが嬉しく、車で取りに行った。

何度も図面を書き、寸法を測り、どんべえが快適に歩けるよう細部まで考慮して作ってくれた立派な歩行器。

もしかしたら一度くらいは乗せられる瞬間が訪れるかもしれない。たとえそうならなかったとしても、看取った後は綺麗に飾りつけて祭壇として使わせてもらうつもりだ。きっと、『マッドマックス』に出てくるデコトラばりに虹の橋を爆走してくれるだろう。


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その後、かかりつけの動物病院へ。昨日と同様にステロイドと抗生物質を打ってもらう。すでに経口で水を飲むのも困難になってきているので、痙攣を抑えるための薬は錠剤ではなく座薬でもらってきた。ただ、今朝から呼吸のリズムも変わってきているし、痙攣で苦しむ頻度も減ってきている。こうして少しずつ衰弱していくのだろう。

最後までちゃんと見届けるよ。

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