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第八 身体の強健

この章は,健康で強壮な身体の重要性について述べられている.先にまとめる.

第八の嘉納の主張まとめ

  • 身体は自分のものであるけれども,父母からいただいたものだから,大切にしよう.

  • 大切にすることはもちろんだが,さらに強健にすることが大事である.

  • 強健にすること(健康・強壮であること)は,強い子孫を残すこと,重要で価値が非常に高い事業を成し遂げること,国家にも良い影響を与えること(科学や工芸の発展に寄与し他国をリードすること.自衛力を増進することなど)から,尊重に値する

  • 青年期は身体を強健にできる大切な時期だから無駄にしない.

  • 健康・強壮は,幸福を生む起点(基盤)である.

  • 重要な身体を強健にするには,平日衛生の道を守り,適度の運動をなし、心身を適法に持し、起臥飲食等を規律的にすればよい

この章で伝えたいことは,現代人にとっても理解しやすいものである.しかしながら,当時も今も変わらない問題点を指摘している.健康であること,強壮であることが重要とわかっていながらも,その努力を怠ってしまっているところである.テクノロジーの進歩と普及で私たちの生活は快適になっているため(身体活動量が減る可能性があるため),身体活動量の変化を把握することは重要であり,モニタリングも大切になる.国際的にみると,日本の子ども,青少年の身体活動量は悪くはない(諸外国との比較からわかるわが国の子ども・青少年の身体活動の現状と課題)が,身体教育に関わる私たちは解像度を高めて評価していく必要があると思う.
話を戻して,この章の内容を確認してみたい.嘉納がこの章のはじめに言いたかったことは孝経の一節の引用からわかる(曾我兄弟の話も出るが引用がなかったので深堀りしない.曾我兄弟の仇討ちはリンク先にもあるように赤穂浪士の討ち入り伊賀越えの仇討ちに並ぶ、日本三大仇討ちの1つである).

身体(しんたい)髪膚(はっぷ)、之を父母に受く。敢(あ)えて毀傷(きしょう)せざるは、孝の始めなり。

嘉納治五郎,嘉納治五郎体系第7巻「青年修養訓」

現代語に訳すと「私たちのこの体は髪の毛,皮膚に至るまで父母からいただいたものである.傷つけないように,大切に生きることが親孝行の始めである.(致知出版社)」ということである.大切にすることはもちろんであるが,積極的に鍛錬して.強健にしようと述べている.ここで「強健にする目的は何か」が重要であるが,ここに記載されている目的は多岐にわたり,限定されていない.そのため,体力全般にアプローチすることが重要だと思う.では,「体力」とは何か?これが理解できているかどうかが重要になりそうである.解像度を上げていくためにも,少し「体力」について触れたい.
一般的に「体力がある」というと,単純に力が強い人やスタミナがある人のことを指すことが多い.しかし,広義の体力は,身体的能力と精神的能力の両方が含まれる.身体的能力には,「行動力(太い人生)」と「生命力(長い人生)」があり,前者に行動体力があり,後者に生命体力(防衛体力)がある.行動体力には,エネルギーを出す能力とエネルギーを効果的に出したり使ったりする能力があり,エネルギーを出す能力に瞬発力,筋力といった運動の発現に関わる能力と持久力(無酸素性持久力,有酸素性持久力,全身持久力,筋持久力)といった運動の持続に関わる能力がある.エネルギーを効果的に出したり使ったりする能力には調整力(敏捷性,平衡性,巧緻性)と柔軟性といった運動の調整に関わる能力がある.一方,生命体力は一生と関連付けてとらえた健康度(神経系,呼吸循環器系,消化器系,内分泌系などの活力)と現在面でとらえた健康度(物質的,生理的,心理的などの各種ストレスに対する抵抗力)がある.
これを抑えると,嘉納のいう「身体の強健」という言葉は適切であり,体力の「行動力」と「生命力」の両方の向上が必要であることを表現している.これは以下の文章からもわかる.

健康でなければならぬ、強壮でなければならぬ。健康強壮は一切の幸福を生む慈母であって、不健康不強壮は我をして競争場裡の劣敗者たらしむる裏切者である。

嘉納治五郎,嘉納治五郎体系第7巻「青年修養訓」

嘉納は,健康で強壮であることが「強い子孫を残すこと」,「重要で,価値が非常に高い事業を成し遂げること」,「国家にも良い影響を与えること(科学や工芸の発展に寄与し他国をリードすること.自衛力を増進することなど)」などに繋がっていることを述べている.この事例として,ナポレオンビスマルク徳川家康を挙げられている.逆に,不健康不強壮は自分だけでなく周りにも迷惑をかけることになることを事例を挙げて説明している.
また,健康と幸福の関係性について

富は矩万(きょまん)を重ねて何不足なく生活するとも、もしも朝夕薬餌(やくじ)に親しみ、病魔と悪戦苦闘して日を送るというような有様であったならば、隠巷矮屋(ろうこうわいおく)に住みおるとも活気満ちて進退動作意のごとくなるものに較べてその幸福の程度はそもそもどちらが高いであろうか。

嘉納治五郎,嘉納治五郎体系第7巻「青年修養訓」

という答えに導く,わかりやすい問いを立てて,健康強壮が幸福の起点(基盤)になることを述べている.
これらを踏まえて,青年に対し,体力の向上(発達)に適した時期だから摂生に尽くすこと,さらに,身体虚弱であった貝原益軒(著書に養生訓がある)を挙げて,摂生を継続することで永く世に益をなすことができることを述べている.
では,どうすれば身体を強健にできるのか.嘉納は決して難しくないという.やるべきことは

平日衛生の道を守り、適度の運動をなし、心身を適法に持し、起臥飲食等を規律的にすればよいのである。

嘉納治五郎,嘉納治五郎体系第7巻「青年修養訓」

むむ…
まさに,「言うは易く行うは難し」である.私の場合は,年間の平均睡眠時間が4時間半と短く,まったく健康になれる気がしない.永く社会に貢献したいので,「睡眠時間を増やさないとダメだ!と嘉納が言っているので」と言って,仕事を減らしてもらおうと思う(笑)
身体を強健にすること,つまり健康強壮であることはこれが起点となり,自分のためにもなり,親孝行にもなり,国のためにもなるということである.
最後にもう一度この章をまとめて終わる.

第八の嘉納の主張まとめ

  • 身体は自分のものであるけれども,父母からいただいたものだから,大切にしよう.

  • 大切にすることはもちろんだが,さらに強健にすることが大事である.

  • 強健にすること(健康・強壮であること)は,強い子孫を残すこと,重要で価値が非常に高い事業を成し遂げること,国家にも良い影響を与えること(科学や工芸の発展に寄与し他国をリードすること.自衛力を増進することなど)から,尊重に値する

  • 青年期は身体を強健にできる大切な時期だから無駄にしない.

  • 健康・強壮は,幸福を生む起点(基盤)である.

  • 重要な身体を強健にするには,平日衛生の道を守り,適度の運動をなし、心身を適法に持し、起臥飲食等を規律的にすればよい

子どもたちの身体活動量に関する情報を記録として残す.
"Global Matrix 4.0 Physical Activity Report Card Grades for Children and Adolescents: Results and Analyses From 57 Countries"


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