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中途半端なプロより熱狂的な素人になれ~前編~

G2さんが主宰する「コミュラボ」。
今回は元NHKディレクターで、今は株式会社小国士朗事務所でプロデューサーとして活躍される、小国士朗さんをゲストにお迎えして「熱量とコミュニティ」についてお話を伺いました。

小国さんが最近手掛けたプロジェクトは
認知症の方がホールを務める「注文を間違える料理店」や
“みんなの力で、がんを治せる病気にする”プロジェクト、「deleteC」。
何で思いついたのか?と驚くような内容です。
その発想と、多くの人を巻き込んでアイデアを実現する実行力。
どんな方なのか興味津々で参加しました。そこでの様子をお伝えします。

小国さんの第一印象

スリムで「俳優」と言われても納得しそうなイケメン。
そのうえ小さい頃から勉強も運動もできたとあれば、羨望と嫉妬の対象になりそうなことは想像できます。実際、すごく振れ幅の多い経験もしていて。
まるで映像を再現するようにご自身の過去を語るので、「その後どうなるの?」と気になって引き込まれてしまいます。

きっとこの方が夢を語ったら相手が思わず身を乗り出してしまうだろうなぁと思う、「人たらし」な人。
最初聞いたときは「??」と引っかかる企画の裏側に
社会課題に直接アプローチする熱い思いと綿密に練られたストーリーが用意されています。
「なぜそのカタチか」「なぜ今なのか」「なぜその言葉なのか」
聞いているうちに表に見えていない、思いの真剣さに引き込まれてしまいます。

自分の中のモンスターの存在に気づいた幼少時代

「自分の中にモンスターがいる」と意識したのは小国さんが小4のとき。
それは「頭のよいジャイアン」としてクラスを掌握していたが、ある日クーデターが起きて孤立したことをきっかけに気づいたそうです。
それから中高生の間は「どこか熱くなることを恐れて冷めて」いて、
大学は3年までゲームばかりで引きこもり(親指に十字の跡がつくほど長時間やっていたそうです)、ある日「これではいけない」とスイッチを入れてアカペラのメンバーに応募します。
その仲間と大学生で起業するもお金を持ち逃げされ、1200万の借金をいきなり負うことに。(!!)
そのさなかに就職活動したものだから、
「借金に比べれば、就職活動の面接は軽く感じた」と。
NHKを見たこともなかったのに面接で「リアルタイム借金返済ドキュメンタリー」を語るうちにトントン拍子に進み(面接官も次の展開が気になって身をのりだして聞いていたとか笑)、社会人をNHKでスタートすることになります。

モンスターを開放する水路の発見

大学最後の卒論で、「モンスターを開放する水路」を見つける原体験をされます。
それは、文化人類学を学んでいた小国さんが、仙台ベガルタのサポーターを「部族」に見立てて、その成り立ちや役割、生態系を密着して取材したこと。30人の「コアサポーター」と言われる人たちが、2万人のサポーターを動かして応援を一つにまとめているそうです。
卒論は熱意のあまり私小説のようになっていたそうですが、贈呈したコアサポーターのみなさんからはすごく感謝され、そのときに「熱意を正しい水路に開放すると、多くの人に感謝される、意義ある結果をもたらしてくれる」ことを感じたそうです。

NHKで企画を量産する

熱意を開放する水路を見つけた小国さん。NHKに入ってからのお話は、誰よりも企画の量を出し、目標とする「クローズアップ現代」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」も手掛けられていました。そのお話には「企画を立てるときのヒント」が満載。私なりに聞いたメモとして、こちらに残したいと思います。

企画を立てるときの4つのヒント

①型を学ぶ
②素人目線で見る、違和感を捉える
③見方を変える、視点をずらす
④今なぜその企画か?を徹底的に問う

①型を学ぶ

NHKに入った最初は山形支局への配属。そこでは資料室に籠って過去のクローズアップ現代をひたすら見て、映像・ナレーション・心動かされたポイントがどこだったかを写経のように記録したそうです。その経験から「構造」を抽出し、企画の「型」を獲得。
この話を聞いたときに、思い出した話が2つありました。「天気の子」を手掛けた新海誠監督が言っていた「作品の感情曲線グラフを作る」ことと、「物語の型は6つに集約される」という話。物語をなぞりながら構造を抽出することで、原型が見えてくるのかもしれません。
自らを「構造フェチ」だと言う小国さん。しかし「型」を知ったら、今度はそれを壊すためにゴールデンではない夕方の帯番組で実験的な企画を出し、仮説検証を行ったそうです。

②素人目線で見る、違和感を捉える

素人目線を大事にする小国さん。「テレビを見る人はその領域のことをほとんど知らない人。それを前提に番組を作ります」。ちょっと詳しくなると違和感を感じなくなってしまう。だからこそ意識が必要なこと。

「密着取材のときに、疑問点や聞きたいことを毎日メモするんです。プロフェッショナル仕事の流儀だと40日密着するんですが、あとから見返したときに20日目くらいの疑問より、初日の疑問のほうが説明できない、つまりわかっていないことが多いんですよ。最初の違和感、疑問は大事ですね」

違和感をスルーせず、とっておくこと。それが共感を呼ぶ視点だったり、企画の種になる可能性を秘めているかもしれません。

③見方を変える、視点をずらす

お笑いが好きな小国さんが強烈なインパクトを受けたのがダウンタウンの「正義の見方」という動画。比較対象や見方を変えると、全然違う世界が見えてくる、という話です。また、いかに固定観念にとらわれる見方をしているかを気づかせてくれます。既存の枠からズレたところにおかしみや発見が潜んでいそうです。

④今なぜその企画か?を徹底的に問う

NHKでは企画を出すときに「なぜ今その企画か?」を徹底的に問われるそうです。小国さんは一つ例を挙げてくれました。

「山形で廃線になりそうな線を、高校生が支援しようとしている、という話がありました。大人は車が使えますが、学生は使えない。だから電車の利用者は学生ばかりなんですね。その話を取り上げるときに、どうしてもフォーカスしたい絵がありました。それは、車掌さんがじっと見ているバックミラー。なぜかというと、電車は30分に1本とかなので、学生がそれに乗らないと遅刻してしまうんですね。だからバックミラーを見ながら3分でも5分でも待っているんです。」
「ちょうど同じ時期に福知山線の痛ましい事故が起きました。あの事故は1秒を争う競争環境の中で速度超過が引き起こされた話。廃線になりそうな山形の、乗客が安全に乗るまで数分でも待つ状況は、そのアンチテーゼとしての風景になりうると思ったんです」

なぜ今か。それに対しての一つの例でした。社会課題に対しての問いかけを表現したい、気付いてもらいたい。そんな思いが聞こえてきそうです。

企画の質を上げるための2つのスタンス

小国さんのお話を聞いていて、経験を全て糧に変えていらっしゃるな、と思うのですが、中でも「キツかっただろうな」と思われるエピソードが「怖いプロデューサーの話」です。作品の質を上げるための限界までの挑戦だったのではと感じました。

わかったと言わない

プロフェッショナル仕事の流儀のAプロデューサーは小国さんに、「課題に対して世界一詳しくなれ」と言ったそうです。が、同時に「わかったと言うな」とも。
なぜか。わかったと思った時点で思考停止するからだそうです。
わかりたいと誰よりも切望しながら、「わかった」という域に到達することができない。めちゃくちゃ苦しそうです。

純度を上げる

もう一つ、質を上げるための考え方は「純度を上げる」ことなのではと思いました。これは人に企画を伝える際にも大事です。
例えば、先ほどの廃線になりそうな山形の電車なら「たった一つのバックミラーの絵」。「deleteC」プロジェクトなら「Cを消されたC.C.レモンが、ドン・キホーテに陳列されている絵」。何故ドン・キホーテか。そこまで大きな販路に乗せられるほど、活動を広げて認知してもらいたいから。企画や思いを凝縮したときに、象徴となるもの。それを描くことで、同じ夢を見る人の集まりにつながっていくのではと思いました。

さて。長くなってしまったので、続きは後編で書きたいと思います。後編では、チームの集め方や巻き込み方、小国さんの今後の野望?や私が質問したときの話などをお伝えします。


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