自分だけのお守りを手に入れる
履歴書を書きながら、思ったことがあります。
「これは、自分じゃない」
意中の相手の目に止まるために、飾った自分。
色々なタグをつけて自信満々に作るほど、自分から乖離していく感覚。
もっと素直になれる、
「あぁ、確かにこれは自分だよね」
と思えるようなものが欲しい。
そんなとき、「生き方編集者」を思い出しました。
「生き方編集者」とはどんな人か。
なぜ私が頼もうと思ったか。
出会って受け取ったものは何か。
自分の記録のためにも、書こうと思います。
「一人ひとりの“人生の物語”を伝える」生き方編集者
きっかけは知人からの紹介でした。
「生き方編集者さんが、個人のプロフィールをインタビューしながら作ってくれますよ」
それは自分の想いや活動内容を話すとインタビュー記事にしてくれる「Life Stories.」というサービスでした。
フリーランスや起業した方などが名刺がわりに使えるものです。
自分のプロフィールを、話をすることで作ってもらえるなら面白いかもしれない。
「生き方編集者」の山中さんに興味を持ちました。
「誰に話を聞いてもらうか」は重要だった
インタビューを受けてもちゃんと話せるかが不安でした。
自分のことを話すのは苦手で、 発表の場で5分ほど話すだけで息切れがして話し続けられなくなったこともあります。普段も人の話を「聞く」側にいるタイプです。
今回は1対1なのでそこまで緊張することはないかもしれませんが、 自分の素直な姿が見たいから、「身構えずに話せること」「話を脚色しなくてもよいこと」が大事でした。
twitterやnoteで見る山中さんの印象は、 テンションが低めで、ちょっと弱気に見える人。
書いた文章もいくつも読みました。
誇張や装飾が少なく、ニュートラルだけど温かみのある文章でした。
撮影した写真も、陽だまりの中にいるような印象がありました。
振り返って考えてみると、「安心して話ができる」相手はどんな人かと考えたときに、いくつか共通点がありました。
この方にお願いしたい。
そう決めて、山中さんにメッセージを送りました。
「お守りのようなものが欲しい」と伝えた
インタビューの前の準備として、山中さんと事前にオンラインで1時間くらい話しました。
その場では「いつのことを中心に話したいか」「できたものをどのように活用するか」を聞かれました。
「Life Stories.」は公開しているインタビュー記事も多くあります。
ですが、私が欲しかったものは、私の輪郭がわかるお守りのようなものでした。 公開するかは、出来上がったものを見てから決めたいと思いました。
なぜこのタイミングで作ろうと思ったか。
人生が100年だとしたら、ちょうど中間に差し掛かる50を前に、これまでの価値観を振り返って拠り所となるものをつくりたいと考えていました。
仕事上でも大きな変化があったため、未来から見たときに「意味のあることだった」と捉えられるように、明らかにしておきたい。
5年や10年経っても戻ってきて、当時の地点を確認できるような道標のようなものを、求めていました。
「これが自分だ」としっくりくるものを形にするのは、意外と難しいと感じます。
仕事上の関係では相手に合わせた仮面を被りますし、友人と一緒にいて意外な自分に気付いてもすぐに忘れてしまいます。
日記には「他者の目」が存在しません。
日常の生活を離れ、特別な時間を作ることが必要でした。
質問に答えることで、過去の棚卸ができた
事前インタビューの後で、簡単な質問票が来ました。
6つの質問に対して一つ一つエピソードを思い出しながら書き出していきました。
2番目の質問である「小さな頃から現在まで」については小学校のエピソードから書き、「そのとき何が起きて、どう捉えていたか」を綴りました。
全ての回答の文字数を数えてみたら6000字のボリューム。
問いに答えているうちに、自分の価値観がどのような出来事から育まれたかが、少しづつ明らかになっていくような気がしました。
インタビュー前日に父の入院によりキャンセル
しかし、楽しみにしていたインタビュー前日、認知症が進んでいた私の父が急遽精密検査をすることになり、 インタビューは先延ばしになりました。
「すみません、明日行けなくなりました。お願いできるのは数か月先になるかもしれません」
山中さんは「数か月先でも全く問題ないので、落ち着いたタイミングでも」と 待っていてくれました。
父はその5週間後に他界しました。
年が明けて落ち着き、インタビューを再設定しました。
もともとはここ数年のキャリアが今後の自分にどう影響するかを明らかにしたいと思っていました。
が、父が2か月にも満たない短い闘病の末他界したため、私にとって重要なテーマは「仕事」ではなく「家族」に変わりました。
介護していた期間に、父に対して抱いていた思いが180度変わり昇華していくような体験をした私は、 あれだけ父を避け、嫌悪していた自分が、何をどう捉えてどう変わったのかを記録しておかなければと切実に思いました。
「間に合ってよかった」というのが父を見送った私の安堵でした。
別れの瞬間に間に合ったということではなく、父の愛を素直に受け取れる気持ちになれたことに対してです。
弱いと思っていた父の、弱さゆえの美点を見ることができ、やっと自分が受け継いだものを受け取ることができました。
その過程を、克明に記録しておきたいと思いました。認知症の父のどのような行動を私がどう解釈したか。母と一緒に介護したその瞬間瞬間をリアルに思い出し、そのとき自分がどう感じたか。
それが未来の自分の助けになるのでは、と思いました。
意志のある鏡になってほしい
インタビュー当日、私は山中さんに「鏡のようになってほしい」と伝えました。 意志のある鏡となり、気になった点を問いかけてほしいと。
私が見出したかったことは、父に対しての思いの変化が、自身の家族にどう影響するかを想像しておくことでした。
インタビューの中で、「父の愛を素直に受け止められるようになったのはなぜか」という問いかけや、 「父への見方の変化で自分に対しての見方も変わったか」という問いかけをもらいました。
いずれも、自分に起きた変化を話すように促してくれた質問でした。
問いかけに導かれるように「なぜ私がそう思ったか」を答えていくことで、
バラバラだった事実が、一つの方向性をもって縒り合されていくような感覚がありました。
約90分のインタビュー時間のうち、最初の60分は父に対しての気持ちの変化を辿り、残り30分は家族観の変化と今後の夫婦の関係性の模索の話になりました。
父に対しての思いの変化が、自分自身の家族観に与えた影響は確かにありました。
子供との関係については「今は敬遠されていても、きっと間に合う」という楽観的に感じるようになり、夫婦関係については「添い遂げる」を目指しても良いかな、と思うようになりました。
それまでの私の夫婦関係に対するスタンスは「嫌になったら離れられる選択肢を持てるように、経済的に自立する」というものでした。
事実、子供たちが大きくなって育児が落ち着くと、夫婦間の危機のようなものは訪れました。
ですが、私の両親を見て、また残された母の様子を見ても、長い年月をかけて育まれた関係が羨ましく思えたのです。
ただ、 私の両親は世代的な面もあったと思いますが、経済的にも精神的にもお互いに依存しており、離れる選択肢を持っていないように見えました。 どちらかがものすごく辛抱して一緒にいる時期はあったと思います。
理想の夫婦関係の模索
話しながら、「私にとっての理想の夫婦関係はどのようなものだろう?」と考えました。
会いたいときは、「会いたい」と思って会う。拒否したいときは拒否しても関係性は壊れない。お互いに選択肢を持てるような関係性を作りたい。
そのためには、物理的に離れる時間があったほうがいいかもしれません。
山中さんにここ数年の自分の行動を振り返りながら話しているうちに、
「細く長く続けられる仕事を持つ」「いくつかのコミュニティに所属する」「多拠点で生活する」といった行動をしていたのは 、持続する夫婦関係を模索したかったからなのかもしれないと気づきました。
90分のインタビューを終えて
90分話し終えての感想は、「スッキリしたーーーーー!」でした。
ほんとに、心のデトックスです。
約1か月後、インタビューを起こした記事が届きました。
2万3千字ほどありました。
読むと、ほぼ会話がそのまま生かされており、見出しがついていました。
公開するものではなく自分だけのお守りとして持っておきたい、とリクエストしたこともあり、 山中さんからは「どの言葉も今を残しておく上で大事なものだと考えたため、生活史と言われるような、なるべく語った内容そのまま残しました」 とコメントがありました。
受け取って、10回以上は読んだと思います。
読むたびに毎回響く箇所と、新たに気にかかる箇所が出てきます。
そして、読むと過去の自分を肯定できて安心し、未来に向けての意志を再確認でき、 まさに「自分が立ち戻る場所」になりつつあります。
原稿と写真を受け取った後、山中さんに2つ約束しました。
・LifeStoryを体験したことで何が起きたかを誰かに伝えたいので、文章にします (それがこのnoteです)
・5年後か10年後、また話を聞いてください
ということです。
5年後は子供たちは巣立っているでしょう。そして母親の介護が迫っているか、あるいは渦中かもしれません。
仕事は、定年間近になっていて、第二の職についているかもしれません。
LifeStoryは、お芝居を見た後に台本に書き起こしていくようなものでした。
台本を読んで、あぁこうなって今の私があるのか、と改めて感じます。
今回、予告編までが書かれました。
予告編どおりの展開になるかはわかりませんが、飛びっきり面白い台本にしたいな、というのが 今の私の心境です。
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