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美的センスのない私が、アートを鑑賞すると

私には「美的センス」というものがまるでありません。

どのくらい無いかというと、ビジネス的には
・パワーポイントの図の位置がちょっとズレていても、気づかずにそのままにしてしまう
・資料に、漫画のように吹き出しを使いたくなってしまう
・資料に色を使うと、収拾つかなくなる
センスのある人から見たら、じんましんが出るレベルです。

ファッションセンスに至っては、
なるべく無地を選ぶようにしている
・しかも、アースカラーを選び、できれば土や林の背景に溶け込みたいと思っている
・それなのに、柄物がときどき衝動的に欲しくなり、買うと
ジャマイカのお土産?」と言われる

はい。散々ですね。
「こなれた」「抜け感」なんて文字を見ると、そそくさと逃げたくなるタイプです。

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アートの世界を知ろうとしたのは、ミーハーな気持ちからだった

しかし、時代は「アート」流行り。
今まで遠い存在だった「アート」も、ここまで注目されてくると
「もしや私のようなセンス皆無の人間にも、手の届くところに来ているのではないか?」と期待してしまいます。

この機に乗じてアートの本を数冊、手にしてみました。
全くもって、ミーハーな気持ちです。
結果、どうだったか。

「アートの見方を知れば、作者と会話するかのような楽しみが得られる」
「アートを体験することで、自分の中の、人と違う部分を愛せるようになる」


これが、私が得た実感でした。
センスはまるで関係のないことでした。

アートの水先案内人の4冊

アートを知るにあたって道しるべにしたのは以下の4冊です。

▼アートの見方を知る
絵を見る技術秋田麻早子著
知覚力を磨く神田房枝著
▼アート思考を知る・アート思考を体験する
ハウ・トゥ アート・シンキング若宮和男著
アート思考ドリル若宮和男著

今回は、この中でも「アートの見方を知って何が変わったか」をお話したいと思います。

アートの見方を知って、何が変わったか


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絵を見る技術』を読んでから、
美術館に行ってこの本の見方で絵画を鑑賞してみたい、という気持ちがムクムクと湧いてきました。

本を読むまでの、絵画の鑑賞はこうでした。

(Before)
・アートは印象。「何となく」感じるもの。いい作品は「オーラ」があるものと信じている
・自信がないときは、とりあえず有名な画家の絵の前で頷きながら見てみる
・美術館の絵が多すぎて、最後は疲れ果てておざなりに通り過ぎる

本を読んだ後は、こうです。

①アートは「色々な角度から見る」もの。見方を知ることによって、一枚の絵に沢山の発見がある
②発見があると、作者に聞くような気持ちで見るようになる
③何種類かの物差し(見方)で見るので、何となく見るよりも疲れない

詳しくはぜひ本を読んでいただきたいのですが、3つの変化を、ひとつずつご紹介していきたいと思います。

アートの具体的な見方

①アートは「色々な角度から見る」もの。見方を知ることによって、一枚の絵に沢山の発見がある

4つの見方を覚えていきました。

1,フォーカルポイントとそこに視線を誘導する流れ
2,絵の四つ角の処理
3,色使いの効果
4,配置を理解するための構造線

1のフォーカルポイントとは、絵の焦点。作者が最も視線を集めたい重要な箇所です。
(私はこのフォーカルポイント、という言葉も知りませんでした)
すぐわかるかと思いきや、案外とこれが難しい。「探す」姿勢が必要です。
ただ、最初から見つからなくても、2~4を複合的に見ていくうちに「これかな」と思う箇所ができます。

2の「絵の四つ角の処理」が、私にとっては一番面白い部分でした。
絵の宿命は、枠があること。
「作者は隅々まで絵を見て欲しいから、角から視線が外に流れていかないように、戻るための誘導線や物を置いている。」
そう思って絵を見ると、確かに四つ角には絵の中に視線を戻すようなものが置かれていたり、流れがあったりします。
視線が角まで行くと、
「もうちょっと見ていってよ」
と作者から腕を引かれるような気がします。

3の色使いについては、本の中では絵具の歴史や色の配置効果などが語られます。
かつて「青」は高価な色だったとか。
色の選択も、明度や彩度によってかなり印象が異なりますね。
色の使い方には好みがハッキリ出てきそうです。

4の構造線。これも新しい見方でした。
絵の前に立ち、縦、横、斜めの線を絵に被せるようにイメージしてみます。そうすると、
・どの線上に何が描かれているか
・バランスが取れていると感じるのは、均等に配置されているからなのか、
それとも天秤の重しのように釣り合うように何か置かれているからなのか。
そんな見方ができてきます。

例えば。
横長の屏風に夜桜を見る舞妓さんが描かれている作品がありました。
舞妓さんは左端5分の1くらいのところで屏風の端の方を向いて桜を鑑賞をしています。
残り5分の4の屏風には夜の帳(とばり)が描かれています。
なぜ舞妓さんはそんな端のほうに描かれていたのでしょうか?
背後から不穏に訪れる夜の闇。
この作品が描かれたのは、戦争の足音が聞こえてきた時期だったそうです。
舞妓さんを左端に配置し、闇を右から中央に膨らませていくことで、
背後から近づく闇に気づかず桜を鑑賞する舞妓さんに、思わず声をかけたくなります。

②発見があると、作者に聞くような気持ちで見るようになる
絵画の見方がわかると、作者に尋ねたくなることが出てきます。
「そこに置かれた物の意味や役割は何だったんでしょうか?」
「なぜこの人物はそのような表情をしているのですか?」
「なぜこの配置にしたのですか?」
謎解きをしているような気分になってきます。
色や配置には意図がある。それを知りたくて、
じっくりと鑑賞するようになります。

③何種類かの物差し(見方)で見るので、実は何となく見るよりも疲れない
見方がわかると、パターンができてきます。
パターンがあると、目的をもってみるので、漠然と見るよりも疲れたり飽きたりしません。

私なりの「絵を見るパターン」
絵のフォーカルポイントを探す

そこに至る視線の流れがどう設計されているか見てみる

置かれた物や色・形のコントラストからバランスを見る

構造線を想像で引いてみて、どの線上に何があるか確認してみる。

再度、フォーカルポイントに向かってどう視線が集まるように作られているかか辿ってみる。

離れたり近づいたりし、この絵から「自分が何を感じるか」を言葉にしてみる。

まるで絵の中の世界をぐるりと周るように、隅々まで見ていきます。

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脳裏に残った3枚の絵

一枚の絵もそうですが、今回訪れた美術館では
次のような鑑賞をしました。

まず、いろいろな距離から見ます。近づいたり、遠のいたり、斜めから見てみたり。
そして作品の隣に掲示されている説明文を読んで背景を理解します。
展示室を出るときに、振り返って絵をぐるりと見回します。
その後に目を閉じてみます。
そのときに、どの絵が脳裏に浮かんだかを確認しておきます。

美術館を出るときに、今回私は3枚の絵を脳裏に手に入れました。

1枚は「才気溢れるイメージの絵」。
若さと才能あふれる女性が凛と縦一杯に立っています。色調も力強く、まなざしはまっすぐ前を見つめ、作者はそれを崇めて描いているかのようです。

2枚目は「日常の幸福を想起する絵」。
3人が川の字で昼寝をしています。両側から曲線で包み込むように。そして表情が無防備で柔らかい暖色の色使い。
思わず「この瞬間を守りたい」と思わせる一枚でした。

3枚目は「描けない苦悩の絵」。
中央に真っ白な角ばったキャンバスが迫り、その後ろには灰色の存在が蠢いています。右端に白く浮き立つ裸の女性の後ろ姿。
「描きたいものがあるのに、キャンバスを前にすると無が迫ってくる」
そんな悲痛な声が聞こえてくる気がします。

3枚目に関しては、気に入ったので脳裏に焼き付けたというよりも、
焼き付いてしまった、に近い状態です。

惹かれる絵の共通点の発見


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美術館行ったのは、「絵を見る技術」のP285、
自分の美意識を説明してみよう!」とやってみようと思ったからでした。
惹かれる3枚の絵を選び、その共通項を、本に書かれている見方を思い出して取り出してみる、というワークです。

好きな絵を思い浮かべてみて、私自身が惹かれた絵の共通点は
斜めの配置
輪郭がはっきりしているもの
人が描かれたもの。かつ、絵の中の人物が鑑賞者に視線を向けていない
でした。
インパクトがあるのは視線が合う絵なのですが、
「好きだなぁ、この絵」と思えるのは
絵の中の人物が、描かれていることに気づいていない」と思わせるような絵でした。

何ででしょうね。ちょっと理由も考えてみます。

斜めの配置が好きなのは、私が斜に構えているからかもしれません。縦や横の流れが強いと、眩し過ぎる気がします。
輪郭がはっきりしているほうが好きなのは、リアリストだからでしょうか。
「描かれていることに気づいていない絵」に惹かれるのは、
見られていると意識した瞬間に、大事なものが隠されてしまう、と思っているからかもしれません。
好きな理由を考えてみる、というのはなかなか面白い活動です。

本を読んでから絵を見ると、とても豊かな世界が広がってますます楽しくなってきました。
美意識のカケラもない私でも、アートの鑑賞は充分楽しめます。

今回は「アートの見方」について書きました。
「アート思考の体験」については、またの機会にご紹介したいと思います。

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