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スポーツリーグにおける開放型と閉鎖型

ヨーロッパスーパーリーグ(ESL)構想がわずか1週間程度で崩壊したのは驚きだった。これをきっかけに、今日は開放型と閉鎖型という話をしたい。

スポーツビジネスを日夜考えている身からすると、ESL自体はそんなに突拍子もないアイデアではないし、日本でもJリーグの上位クラブによるプレミアリーグ化は議論されて然るべきだと思っている。(良い悪いは別として)

それが今回は発表されるや否や、あっという間に様々なところから反対意見が出てきて、参加を表明したクラブは相次いで撤回を強いられた。世間的には完全な悪者である。中には政府からの反対表明まであった。全体を通して見れば「世界中のサッカーファンからの反対」というのがクラブにとっては一番応えたのだと思う。

それでは開放型と閉鎖型についてそれぞれ述べていく。

開放型とは

開放型とは文字通り、新規参入が比較的オープンであるということだ。時間はかかるかもしれないが、上に行きたい人は下から上がっていけば良い。実力さえあれば毎年カテゴリーアップが可能で、誰もがそこを目指せるというのが魅力だ。

何いう私も長崎の時にはこれを使った。今から16年前、2005年のことだ。

「V・ファーレン長崎が天皇杯で長崎県代表になればJクラブと戦えます。もし、もしもですよ、ずっと勝っていけばですね、天皇杯で優勝すれば、アジアチャンピオンズリーグに出れて、アジアチャンピオンだって夢ではなかとです!
「そしてアジアチャンピオンになれば、クラブワールドカップに出れて、世界一にもなれるとです!

詐欺ではないがギリギリかもしれない。こうやって私は支持者を集めていったのであった。(みんながこれに乗せられたかどうかは定かではない)

ただ経営的に見た時は昇格もあるが降格もあるシステムのため、当事者になった時はとてもハラハラドキドキする仕組みだ。ヨーロッパのサッカーリーグはすべてこの形だし、日本のJリーグも同じである。

コンセプトは「弱肉強食」。自助努力なのでお金のあるクラブは世界中から良い選手を獲ってくる。究極的には強いクラブと弱いクラブがはっきりしてくるため、強いクラブは比較的地位が安泰だが、降格スレスレのクラブやエレベータークラブと呼ばれるような降格と昇格を繰り返すようなところは経営の安定化がとても難しい。スペインリーグでレアル・マドリードとバルセロナがいつも強いのはこのためだ。

閉鎖型とは

閉鎖型とはアメリカのプロ野球(メジャー)であるMLBがわかりやすい。チーム数が決まっていて昇格降格がない。MLBは現在30球団で新規参入は実質的にはかなり難しい。ただMLBの判断で数年に一度チーム数を増やすことはあり(これをエクスパンションという)、その場合は新規参入できる。チーム数が一定でメンバー(球団の顔触れ)も変わらないので、売り上げがある程度読めるという意味で経営する側にとっては楽である。何より降格するリスクがないというのはサッカービジネスを経験したものにとっては天国のようなものだ。

この場合の前提は「戦力均衡」だ。できるだけ各球団の戦力を均一化してどのチームが勝つかわからない状態にする。どのチームにもチャンスがあるので白熱した試合が増える。そうなれば全体の売り上げも増えるという仕組みだ。具体的には前年の下位チームから優先的に指名できるドラフトや(下位チームはその年のいい選手が獲れるのでそのうち自然と強くなる)、選手人件費に上限を儲けてそれを超えるとペナルティを課すなどの施策がセットになる。

要は全員が全体最適を考えるということであり、統括するMLBがしっかりしている必要がある。全体としてちゃんと儲けて各球団にちゃんと分配する、ということだ。これがMLBではうまくいっている。

日本ではどうか

これがまた面白い。前述のようにJリーグは開放型なのに強いチームと弱いチームがそれほど顕著になっていないのだ。すでに30年近くリーグをやっているのにもかかわらず、である。最近の川崎フロンターレは強いクラブといえるが、私のnoteにもあったように2002年ごろは本当にダメダメだった。今シーズンでいうとお金のないはずのサガン鳥栖が上位で頑張っている。大きな企業がバックについていてお金があるはずのジェフ千葉や京都サンガがずーっとJ2から上がれないというのは本当に不思議だと思う。日本という国は社会主義的な資本主義だと言われるが、その側面がここにも出ているのだろうか。開放型なのにどこが勝つかわからない(特にJ2)という現象は、日本独特だと思う。(良い面、悪い面、きっと両方あります)

プロ野球(NPB)はどうか。MLBにならって閉鎖型12球団なのだが、そもそも「戦力均衡」という前提が共有されていないため、リーグビジネスとしては全く体をなしていない。例えばソフトバンクは300億円を超える売り上げがあり、100億円程度の球団と比べれば選手にかけられる人件費も数倍違うという有様だ。これでは順位が固定化してしまう。今ではパ・リーグでソフトバンクが下位にいる姿はまったく想像できない。
放映権はリーグ一括で販売すれば膨大な金額で販売できるのにもかかわらず各球団でそれぞれが販売しているので、個別最適かもしれないが全体最適には程遠い。そんな中でもパ・リーグ6球団は合同マーケティグ会社(PLM)を作って6球団一括で販売しているが、どう考えても12球団一括で販売すべきだろう。これはNPBがしっかりしていないからだ。閉鎖型のメリットというか仕組み自体の理解が足りていないのだと思う。(仮にわかっていても実行していないのであれば、それはわかっていないのと同じ)

つまり日本のリーグビジネスにおいては、どっちが開放的でどっちが閉鎖的なのかわからないということだ。Jリーグが放映権を一括でDAZNに販売し、長期契約で総額2000億円を超えるディールを成功させたりもしている(これは良い面)。

残念ながらいずれも中途半端なのである。スポーツビジネスを本気で15兆円にしようと思ったら、この辺りの整理がまずは必要なのではないだろうか。

まとめ

今回のESL騒動は、もともと開放型であるヨーロッパサッカー界において、アメリカ型ともいえる閉鎖型を持ち込もうとしたことが問題の一因である。前述のようにこの2つは正反対の仕組みなので相性が悪く、併存は難しい。それをコロナ禍を口実に無理筋で通そうとしたが、やはりうまくいかなかったということだ。(今回は開放型と閉鎖型の話なので、利権とかIF/NF/各クラブの思惑などの論点は省きます)

開放型か閉鎖型かの議論でいえば、プロ野球(NPB)の球団で仕事をしたことのある人はリーグビジネスに絶望するか、逆に自分でリーグビジネスをやりたくなると思う。プロ野球(オリックス、DeNA)からBリーグ、そしてこの4月からハンドボールリーグに行った葦原さんは実はそうなのではないかな、と私は密かに思っている。(勝手に名前を使ってごめんなさい。お詫びに本を紹介しておきます)

ついでに私のも。


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